2017年1月30日
●対談 鉄鋼・非鉄業界の展望と課題(第4回)■鉄連、学協会の機能■ 新日鉄住金相談役 友野宏氏/産学の技術者交流拡大を|住友金属鉱山会長 家守伸正氏/学生、会員・論文減少を懸念
友野「ビジネスの仕方の差も国際競争力を左右する大きな要因となっている。『住込み型』と呼んでいるが、日本企業は、現地に住んで、現場で一緒に汗をかく。日本の製造現場と同様に、海外でも、ものづくりの第一線の作業員からの信頼が厚い。これが見えない資産になっている。欧州企業は『統治型』で、派遣された責任者が数字を見て、叱咤激励するが現場の心はついてこない」
司会「友野相談役は日本鉄鋼連盟会長、日本鉄鋼協会会長を務められ、家守会長は日本鉱業協会、資源・素材学会の会長を歴任されました。学会や業界団体ともに高い機能を発揮しています」
友野「鉄鋼連盟、鉄鋼協会は鉄鋼業の国際競争力を支えている。鉄鋼連盟は、自由貿易や税制、環境などの側面から日本のイコールフッティングを主張し、政府にも働きかけ。世界中で戦える基盤作りに寄与している。鉄鋼協会は1915年に設立され、『学理と実業』『資本と労力』『同業者』『政府と民業者』の4つの結合を基本思想に掲げ、膨大な活動実績を積み重ねてきた。『鉄と鋼』や『ISIJ International』の発行、春・秋の講演大会を継続しており、論文のインパクトファクターも高い。鉄鋼業界にとって大きな資産になっている」
家守「資源・素材学会は1885年に『日本鑛業會』として創立され、工学分野で日本最古の学会とされる。設立の目的は『資源・素材に関する調査・研究』『関連情報の収集・提供』『人材の教育・育成』の大きく3つ。資金集めに苦労していたが、活動内容は充実している。『人材の教育・育成』については、大学生・院生を対象とする資源・素材・リサイクル講座の『資源・素材塾』を毎年開いている。社会人向けには国際資源開発研修センター、傘下の資源大学校を通じて勉強する機会を提供している。これまで論文を主体とする学会誌のみを発行していたが、2016年から論文誌と会報誌に分け、会報誌では業界の情報・トピック等もとりあげ充実させている。学会は毎年春、秋の2回開催している」
司会「学会における課題はありますか」
家守「会員数と論文数の減少傾向は課題。国内の非鉄金属鉱山がどんどん閉じ、もはや菱刈を残すのみの今、ほぼ製錬1本足の活動実態で、当該分野専攻の学生数は減り、実業界からの論文提出も少なくなっている。成長産業ではあるが、成熟産業とみなされ国からの資金援助も少ない。国内産業の変化を踏まえて約30年前に『資源・素材学会』に名称変更し、川下の『材料』の視点を新たに取り込もうともしたが、加工品の領域は特許の絡みが多く、概要集程度が情報開示の限界で、論文にまではしづらい実情がある」
友野「大学から冶金学科の名前が消えた。マテリアル工学等に名称を変更して、金属に取り組む先生は、各大学におられ、コラボレーションをしているが、絶対数が減っており、危機感を強めている。民間の技術者が各大学の教授になるケースは増えている。民間企業による寄付講座も増えている。大学の先生が企業に何年か来て現場や研究所で働き、大学に帰っていくルートを敷く必要がある。産学の鉄鋼エンジニアが集まり、新しい知、新しい血を交え広げてイノベーションに取り組むべき時期に来ている。それが競争力の新たな源泉になっていくはずだ」
家守「資源、冶金の研究者は少なくなっている。私と同世代の研究者は、同時に先生・指導者の立場でもあり、引退すれば先生と研究者の両方が失われることになる。昔は旧帝大にそれぞれ10程度の関連講座なり関連研究室なりがあった。学部・学科の減少を踏まえて、企業の寄付講座を増やす必要はあるが、現在はJX金属による東大の講座のみで、強い危機感を抱いている」
司会「さて最後のテーマは鉄鋼業界、非鉄業界の『将来展望と課題』です。経営者、技術者の視点からお願いします」
友野「鉄鋼は世界的に需要が確実に伸びる成長産業であり、石炭が石油、さらにシェールガス・オイルに置き換わっていくような構造変化は起こらない。70億人の世界人口が2050年には90億人に達すると予測されている。人口が増える新興国や発展途上国が、健康で安全な生活を営むにはインフラ整備が不可欠。経験値では鉄を一人当たり年間200―300キログラム使うようになる。日本の鉄鋼業は、歴史上、初めての領域に入っている。各国の1人当たり鋼材消費量とGDPの相関関係を表したグラフを作成すると、先進国はGDPが3万5000ドルから4万5000ドル、消費量は400キロ周辺に集まるが、日本は600キロと突出し、しかも伸びている。これを維持することで、日本の鉄鋼業も持続的成長を図ることができる。また鉄は理論強度の数分の一しか工業化されておらず、新規用途開拓などのポテンシャルも高い」
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