司会「銅ビジネスにおいては、権益拡大がテーマになっているようですが、資源価格が低迷する中、住友金属鉱山は10億ドルで米国のモレンシー鉱山の権益追加取得に踏み切りました」
家守「買鉱製錬ビジネスの競争力をもう一段強化するのが狙いだ。東予製錬所は1971年に操業を開始し、45年を経過したが、炉内のレンガを積みかえれば更新できる。つまり製錬所は寿命がない。一方、鉱山は減耗資産なので、どこかで寿命を迎える。鉱山に隣接する内陸製錬所は融通が利かないが、東予は臨海製錬所で原料ソースを選択できる。45万トンのスケールメリットを活かし、競争力をまだまだ高めていける」
司会「二つ目のテーマは日本の鉄鋼メーカー、非鉄メーカーの『国際競争力』です。新日鉄住金は『総合力世界ナンバーワンの鉄鋼メーカー』、住友金属鉱山は『世界の非鉄リーダー』をそれぞれ目指しています。スケール、収益力、グローバル展開などをあわせた『総合力』評価について」
友野「新日鉄住金は、製造基盤整備やグローバル展開の先行投資、原料炭価格の急騰などの一過性要因が重なり、今期収益見通しは厳しいが、中期経営計画では10%以上のROS、ROE、0・5程度のDEレシオを目指している。粗鋼生産量は世界3位の5000万トン規模。マザーミルと位置付ける国内では製鉄所のコスト競争力を高め、技術・商品開発力を磨いている。海外では米国、中国、東南アジア、中東などで自動車、エネルギー、インフラ分野のネットワークを展開している。原料コストはほぼ世界共通で、上工程の競争力があるので半製品を輸出して、海外拠点で仕上げて現地供給するというビジネスモデルが成り立っている。5割弱を輸出しており、海外の需要家から国際競争力を認められている」
家守「住友金属鉱山はBHPビリトンやリオ・ティント、ヴァーレと比べて売上高が5分の1、純利益は10分の1にとどまる。リーマンショック前は売上高が1兆1000億円、経常利益が2200億円、純利益は1400億円程度。当時のBHPは売上高が5兆円、純利益は1兆5000億円だった。BHPは鉄鉱石、非鉄、石炭に加えて石油も扱う。4分割して非鉄事業を比べると、さほど大きな差はない」
司会「中長期の経営目標を」
家守「世界の非鉄リーダー、日本のエクセレントカンパニーとなる長期ビジョンを描いている。21年度の銅権益を30万トン、金権益を30トンにそれぞれ長期ビジョンを立案した09年度比で約1・5倍とし、ニッケル生産量を約2倍の15万トン、新規材料の経常利益を50億円に引き上げる目標を掲げ、売上高1兆円、経常利益1500億円、純利益1000億円を目指している。非鉄リーダーについては、国内・海外の鉱山、製錬所のマジョリティを持って運営することと定義づけている。ニッケルは、新居浜のニッケル工場、フィリピンのコーラルベイ、タガニート、日向製錬所など国内、海外ともに自社でオペレーションしている。金は菱刈鉱山が100%、米国のポゴも85%出資でかたちは整っている。銅はチリ・シエラゴルダが出資比率31・5%でナンバー2シェア、米国モレンシーは25%でナンバー2、ペルーのセロベルデは16・8%でナンバー3。社業の銅の鉱山権益が一番弱く、強化策を検討している」
司会「続いて『商品開発力』について。日本は、素材メーカーと需要産業との連係による共同開発が他国にない強みとして機能しています」
友野「伸びや絞り、靱性などの機械的性質と強度は一般的にトレードオフの関係にある。この関係を一つには精度良く再現性高く造りこみ、商品のバラエティを充実させること、また、もう一つには、この機械的性質と強度の関係をANDで改善・改良し、従来になかった材料を開発することが広い意味での商品開発につながる。自動車メーカーからは高強度で高加工性の鋼材の供給要請がある。オイルメジャーや発電プラントなどエネルギー分野は高強度で高耐熱性、高靱性の鋼材を求めている。品質要求が高いユーザーニーズに応える開発力で日本の鉄鋼業は抜きんでている。世界中の需要家から商品開発ニーズが寄せられてくることが、高い評価を裏付けている。製鉄所の経済ユニットは薄板や厚板などの製品が主体の一貫製鉄所で800万―1000万トンで、高機能商品ばかりでは設備能力が埋まらない。ミドルグレード商品のコスト競争力を徹底的に追求しつつ、ハイエンド商品の生産効率を引き上げていく。この二兎を追う作戦が激動の時代を勝ち抜いていくカギとなる」