――入社後すぐに、Nd―Fe―B磁石の開発に成功した。
「入社後、当時の岡田典重社長の肝いりで、専門の研究チームが発足し、新しい磁石を作る研究開発がスタートした。開始後すぐに、50ぐらいの組成のリストを出して、その中で世界最強のNd―Fe―B磁石を開発した。82年8月にはこの製品の特許を出願した。運もあって、米国のジョン・クロート氏が2週間遅れで同じ特許を出願、まさに、タッチの差だった。83年には国際会議で発表し、大反響となった。会社では有能なメンバーに恵まれ、84年には工業化に成功し、85年から量産を開始した」
――さらなる、研究を進めるため、自分で会社を設立した。
「会社は辞めることにも良心的で、自由に磁石を研究することもサポートしてくれるとの約束を得た。そこで、88年に磁石の開発・研究を行うインターメタリックスを設立した。そこをベースに、私自身は日本だけでなく、フランス、ドイツ、米国などと共同しながら、磁石の新技術開発などを続けた」
――具体的にはどのような研究を行ってきたのか。
「Nd―Fe―B磁石はプレスを使って造る方法が主流だった。しかし、プレスを使用して高性能磁石を造るのは難しく、さらに次工程でスライスする際にロスが出る。これを解消するため、プレスレスプロセス(PLP)を開発、特許を出願した。これは材料を従来よりも細かな粉末に微細化して製造する技術で、設備自体がコンパクト化できた。また、材料を微細化することにより、レアアースのジスプロシウムの使用を減らすことができ、省資源にもつながる。インターメタリックスでは04年から、この『低ジスプロシウム・高耐熱ネオジム磁石』の開発に着手し、13年1月から岐阜県中津川市にある大同特殊鋼関連会社の量産プラントで、生産を開始している」
――大同特殊鋼との関係は。
「10年にインターメタリックスに資本参加してもらい、これまでにすべての株を買い取ってもらった。そして、昨年10月には顧問就任の申し出を頂いた。大同特殊鋼は今年1月、関係会社のダイドー電子とインターメタリックス ジャパンを統合し、今後は高機能磁石事業を強化、事業の柱としていく。また、ボンド磁石、熱間加工磁石、焼結磁石、窒素磁石など希土類磁石のすべてのメニューを揃える。私としては希土類磁石の発展、大同特殊鋼の磁石事業の世界的な成長に貢献していきたいと思っている」
――最後に、希土類磁石の未来と個人の思いを。
「今後の50年後の社会については電気自動車が普及し、ドローンひとつとっても、人を運ぶ物もできるのではないか。地上では工場設備はロボット化する。そうなると、高機能な希土類磁石を使ったモータが必要となる。時代を象徴する材料で言い換えれば、鉄の時代からシリコンの時代を経て、希土類鉄磁石時代となる。そうした時代に研究者として、さらに貢献していきたい。また、研究者として次の世代の研究者に贈る言葉としては、"ニュークリエーション"と"グロース"が必要な時を察知して欲しい、ということ。研究は論理的につながるところもあるが、行き詰まるところもある。その行き詰まった時に、ニュークリエーション的な発想、行動が重要になってくる時もある。そして、スティーブ・ジョブズ氏の『Stay hungry.Stay foolish(いつもハングリーでいろ。いつも馬鹿でいろ)』という言葉も非常に共感を覚える。時には馬鹿にならなければ、新しい磁石の開発はできていなかったですよ(笑)」
(天野 充造)