――関西市場における鉄鋼・非鉄業界の機能、需要動向について。
「鉄鋼業は、モノづくりを支える『産業のコメ』として他産業とともに歩んできた。関西の鉄鋼業は電炉比率が高く、リサイクルという意味でも重要な役割を担っている。域内の鉄鋼・非鉄需要は、日本全体の流れと同様に縮小傾向にあるが、近年、日本の製造業をけん引している自動車の組立拠点が数少なく、中部や九州と事情は異なる。一方、関西の伝統的産業である家電、造船は韓国・中国企業との価格競争に巻き込まれてしまった。建設需要も減少している」
――高炉メーカーの製鉄所は存在感を維持している。
「新日鉄住金の和歌山製鉄所は、ガス掘削用鋼管の世界の一大製造拠点。足元は原油安で環境は厳しいが、エネルギー分野は世界の成長産業の一つであり、市場環境が好転すれば必ず強みを発揮するはずだ。神戸製鋼所の加古川・神戸両製鉄所は特殊鋼線材の供給基地となっており、チタンは近隣の高砂製作所も含めて溶解から圧延品までの一貫製造機能が集結している。いずれも最先端の技術力を持ち、世界トップレベルの競争力を維持している」
――金属系素材メーカーにとってのテーマは。
「産業連携の中で、オンリーワンを目指し続けることが必要。唯一の材料、サプライヤーという意味ではなくて、需要家にとって最高のサプライヤーであり続けることを目指す。神戸製鋼所時代に言い続けたことだが、価格の高いものを低コストで製造する技術を開発して、成長市場にアプローチし続けることが、素材メーカーの成長シナリオとなる」
――オンリーワン企業として認められ、価格の高いものを生産・販売し続けるためのカギは。
「高強度で加工性の高い鋼材、電導性が高くて高強度な伸銅品などの二律背反した材料ニーズが高まっている。これを解く一つのカギが『ナノクラスター』。原子・分子が集合した超微細組織で、異なる性質や機能を持つ。このナノクラスターを制御することで強度や伸びを精緻に制御できる。実用化するには、極めて優れた分析力が必要で、SPring―8の出番となる。自動車、航空機、船舶などの素材にこの理論を適用すれば、素材メーカーから部材サプライヤーにステップアップするチャンスもつかめる。ユーザーの知識領域まで入り込み、素材提供型からソリューション提供型への転換を図ることができれば、関西企業・産業は勝ち残っていける」
――世界唯一の総合金属素材メーカーとしての神戸製鋼のアプローチは。
「鉄鋼、アルミ、チタン、マグネシウムなど複数の素材と溶接を事業分野に持つ強みを活かして、さまざまな新たな取り組みを進めている。自動車分野では、国内外の環境規制強化への対応として車体軽量化ニーズが急速に高まる中、鉄鋼、アルミ、炭素繊維など複数の素材を使い分ける『マルチマテリアル化』が求められている。キーワードは『適材適所』。つぶれてはいけない部品、つぶれるべき部品など、それぞれの要求性能に応じて素材を使い分けていく。神戸製鋼としては鉄鋼、非鉄素材それぞれの高機能化を追求しつつ、『マルチマテリアル化』による自動車メーカーへのソリューション提案を開始している」
――2013年の副会長就任以来、「地球環境・エネルギー委員会」を担当する。
「環境と経済の両立の観点から、地球温暖化対策やエネルギー政策の提言、『環境先進地域・関西』の実践と発信など、総合的な活動を行っている。関西は原子力発電所への依存度が5割程度と極めて高く、東日本大震災後、危機的な電力問題に直面した。旧式の火力発電所を動かし、再生可能エネルギーなどで補っているが、電力料金が3割以上も上昇した企業もある。全国の電炉比率は2割強だが、関西は3割強と高く、非鉄精錬メーカーもあって、電力料金の高騰は域内の雇用問題にも波及する。エネルギー政策は、まさに経済活動・エネルギー安全保障・環境問題に深く関与しているわけだが、その重要性がいまだ十分に理解されていない。原子力発電の必要性についての次世代層の理解促進が重要であり、学習機会を提供し続けていく」
――水素ビジネスに注目が集まっている。
「ある水素ステーションの開所式で『大阪を水の都から、水素の都にしよう』とあいさつしたら、大いに受けたが、現実には鶏が先か卵が先かという悩ましい状態にある。水素燃料を必要とする燃料電池車が普及するには時間がかかる。このため水素ステーションの設置も限定的なものとなっている。ただ長い目で見れば水素エネルギーは間違いなく成長する分野。関西には水素のディストリビューター、岩谷産業がある。川崎重工業は豪州で製造した水素を液化水素運搬船で日本まで運び、ポートアイランドに水素基地を建設して、コンテナで陸送する計画を進めている。神戸製鋼は水素ステーションに必要な圧縮機や熱交換器のトップメーカー。商業生産が本格化して利益を生み始めるのは10年以上後になるかも知れないが、関西企業連携による新しいビジネスモデルとして育つよう期待している」 (谷藤 真澄)