――鉄鋼業界とは、長い関わりを持つ。
「1974年に三井物産に入社し、大阪支店の審査部に配属され。1年半後に支店の鉄鋼原料部に移った。鉄鋼原料と鉄鋼製品の与信管理に携わったのが40年前。当時、大阪には中山製鋼所や大阪製鋼(現在の合同製鉄)などの高炉メーカーがあった。中山製鋼所は、当時の新日本製鉄から鉄鉱石の分譲を受けており、BHPやセサゴアなどの鉱石を扱っていた記憶がある。京都や兵庫のキューポラの鋳物屋を訪問するなど、東京本社ではなかなか経験できない、現場の大切さを学んだ。大阪支店での経験が鉄鋼ビジネスの原点であり、商社マンとしての原点とも言える」
――79年に東京本社に異動した。
「1年間の英国・南アフリカ海外研修を挟み、製鋼原料部で約10年、合金鉄などを担当した。その後、90年から96年まで英国に駐在し、鉄鉱石、石炭、スクラップ、合金鉄などのビジネスを拡大した。98年に東京に戻り、製鋼原料部長を経て、金属総括部長、金属・エネルギー総括部長などを務めた。東京に戻ってからは、高炉メーカー、特に当時の新日鉄との付き合いが深くなって、多くの方々の薫陶を受け、視野が大きく広がった」
――三井物産は、鉄鋼原料サプライヤーとしての存在感を高めてきた。
「長期契約ベースで資源を確保することが原料担当の仕事だったが、マウントニューマンへの投資を皮切りに、原料権益の確保に動きだした。2003年にヴァーレに出資し、世界の大手鉄鉱石サプライヤーとしてのポジションを確立した。振り返ると高炉メーカーのサポートを受けて、BHPやヴァーレなど大手生産者との信頼関係が深まっていった。決済代行など、物流を通じた関係性がなければ、その後の投資には至らなかっただろう。売買と投資は立ち位置が全く異なるが、物流を通して、関係性を強化し、投資を通して経営に関与し、パートナーと一心同体となる。こうした取り組みで、出入り商社から、セームボートの一員、そして重要パートナーという関係に発展していった」
――金属資源本部は一時期、利益貢献が際立った。
「21世紀に入り、資源のスーパーサイクルを迎えたことで、原料投資が大きな利益につながった。特に鉄鉱石は、高いコスト競争力を持つ権益を確保しており、価格が低迷している現在も利益を出している。チリの銅事業は前期決算で減損処理を実施したが、本権益もコスト競争力自体は十分ある」
――鉄鋼製品分野の機能も変化してきた。
「在庫・加工、ジャストインタイムデリバリー、与信などが商社機能とかつていわれていた。粗鋼生産が増え、内需を上回るようになった段階で、外貨決済、海外の販路拡大やコイルセンター網が機能として加わった。21世紀に入り、宝鋼集団やニューコアなど世界の大手鉄鋼ミルとの合弁事業、海外の大手自動車部品メーカーや大手海洋構造物ファブリケーターなどへの出資を通じ、ビジネスチャンスが広がっている」
――総合力発揮にあらためて取り組んでいる。
「商品本部制による縦割りに横串を通すことで、三井物産が持つ総合力の強みを各本部が十分に享受するための取り組みを加速している。鉄鋼製品本部は、その裾野の広さから、多くの商品本部のバリューチェーンに関わることで、多くの新たな需要を創造している。例えばLNG開発プロジェクトでは鋼管需要が出てくるし、鉄道敷設ではレール需要が発生し、LNG船用の厚板需要もある。エネルギー・資源会社と鉄鋼製品のサプライチェーン・マネジメント契約を結ぶケースも出始めている。鉄鋼製品本部のトルコのブリキメーカーへの出資はアルミや樹脂の素材供給に発展。ゲシュタンプというスペインの自動車部品メーカーへの出資は、自動車用鋼材のみならず、風力発電ビジネスなどにチャンスを大きく広げている。一方、ゲシュタンプの自動車部品事業にはアルミや炭素繊維などの素材提案にもつながる。このように鉄鋼製品、金属資源、エネルギー、プロジェクト、食糧など全15営業本部が協力し合って、双方向で新しい需要創出に取り組んでいる」
――今後の鉄鋼業との連携のあり方を。
「高炉メーカー、電炉メーカーを含めて、Win―Winの関係をさらに拡大し、鉄鋼産業の発展に貢献していきたい。かつては高炉メーカーに言われた通り、注文を聞き販売するといった御用聞き的な役割に徹していた。現在はパートナーとして互恵関係にあり、さまざまな分野で協力している。鉄鋼業界では需要創出、流通再編支援などの機能が求められており、出資先との連携強化や合弁事業拡大による鉄鋼需要拡大に努めている。2002年に旧日鉄商事に出資し、2014年にエムエム建材を設立する等流通機能強化策も具体化した。金属資源ビジネスでは、権益拡張による鉄鋼・非鉄原料の安定価格・安定供給に注力していく」
――09年に社長に就任し、15年からは会長を務めている。最後に三井物産が目指している商社像を聞きたい。
「『360°ビジネス・イノベーション』というコンセプトを掲げている。総合商社が保有する、あらゆる情報や発想、技術、資源、ビジネス、企業、国や地域を結びつけることでビジネスを革新していく。これが三井物産の目指すところであり、その結果として新しい豊かさを生み、地球と人類の未来を創造していく」