シリコンウエハーは、信越化学工業とSUMCOの日系上位2社が世界シェアの約6割を占めるなど、日本が高い競争力を維持している分野だ。ICやトランジスタなど半導体チップの基板として利用され、社会において欠かせない存在となっている。今後も情報化の進展とともに、その需要は伸長していくとみられる。
シリコンウエハーは、1989年には世界生産量の57%が日本で消費されていたが、国内製造業の海外移転や海外勢の台頭により現在は20%程度に低下している。だが日本のシリコン産業の競争力は健在で、原料、材料、製造装置メーカーが国内に集積しており、強固なサプライチェーンを構築している。近年は半導体チップの高集積化や低消費電力化に合わせ、ウエハー材料にもナノレベルの平坦度と清浄度が求められるなど品質要求が高まっており、各社が技術革新に取り組む。
シリコン産業が抱える課題としては、昨今の電力コストの高止まりが挙げられる。シリコン製品の製造において電力コストが占める比率は高く、個社が製造プロセスの効率化・省エネ化への取り組みを徹底する。新金属協会は、鉄鋼連盟など他の電力多消費産業団体と共同で要望書を提出するなど、政界や行政に理解を求める活動を続けている。
他の素材や電子材料のように今後、中国など新興国によるウエハーの内製化、新規参入の動きが予測される。シリコンウエハーの製造には設備のみなでなくノウハウが重要となることが参入障壁となっているが、将来的に既存メーカーへの資本参加や、技術者の人材流出が起こる可能性は考えられる。
また、ケイ素は元素としての資源量が豊富だが、産業用に利用される各シリコン製品の原料となる珪石、それを製錬した金属シリコンについては、中国が生産量ベースの世界シェアで6―7割を占める。日本は金属シリコン需要の全量(約19万トン、14年)を輸入に依存しており、構造的な調達リスクを抱えている。
次世代の直径450ミリメートルウエハーの製造プロセス導入には数千億から1兆円規模の設備投資が必要とみられている。競争力を維持・強化していくためには個社の取り組みとともに業界、国としての環境整備も必要になる。
希土類(レアアース)分野で、日本メーカーが優位性を保つ主力製品としては、高効率モーターに使われるネオジム磁石、ニッケル水素電池向け水素吸蔵合金、石油精製や排ガス浄化向けの触媒などが挙げられる。これらは省エネルギー・低環境負荷に欠かせない材料であり、今後も需要の伸長が期待される。
一方、蛍光体、光学材料、精密研磨用途などは近年、頭打ちまたは減少傾向にある。レアアースは精製の過程で様々な種類の元素が取り出されるため、産業全体の健全な成長を目指すためには、特に軽希土類の新規用途開拓により各種の元素をバランスよく消費することが必要になる。
09年の尖閣諸島問題を発端に一時的にレアアースの確保が困難になるなど、供給リスクが顕在化したことは記憶に新しい。この調達危機を契機に資源ソースの多様化を目的として各国で新規プロジェクトが立ち上げられたが、市況が暴落したことにより、直近では再び安価な中国品への依存度が高まっている。
近年は中国の輸出規制が撤廃されるなど供給リスクが沈静化しているが、15年には中国の提案によりレアアースの国際標準規格策定に関して、国際標準化機構(ISO)に専門委員会(TC)が設置されることが決定するなど新しい動きが出ている。今後数年で環境が大きく変化する可能性もあり、引き続きサプライチェーンの精査、リスク低減の施策に取り組む必要がある。