2016年4月19日

【第5回】非鉄戦略 課題と展望 ■マグネシウム 大きな転換期 積極的な設備投資が鍵

国内マグネシウム業界は大きな転換点に差し掛かっている。輸送機器分野で軽量化が進んでいる中では、実用金属の中で最も軽いマグネへの期待は高い。いろんな分野で技術開発が盛んに行われており、2030年ごろのマグネ需要は、最低でも現在より2―3倍は増えることが予想される。ただ、需要増とともに、いずれは設備投資が必要になってくる。世界景気に対する不透明感や、積極的に投資を行っている海外のマグネ工場などとの競争をにらみ、国内企業がどこまで積極的に動けるかが今後の鍵を握る。

マグネという素材には、新しい市場の創出が期待されている。日本マグネシウム協会(加藤数良会長)は16年度、次世代を担う若手経営者を集めた委員会を立ち上げる意向だ。先行きの業界展望など、技術のみならず「産業ビジョンのような形で取りまとめを行いたい」(マグネ協会)という。

17年には国際マグネシウム協会(IMA)の国際会議が、約20年ぶりに日本で開催される見込み。今年5月には最終決定する見通しだ。マグネの先進国である欧米など海外メーカーを多数招き、世界の生きた情報を国内メーカーに直接届けることを狙う。

国内では、マグネの研究開発が進んでいる。構造材料では、自動車分野への期待が大きい。大手自動車や部品メーカー、鋳造メーカーを中心に立ち上げた「自動車マグネシウム適用拡大委員会」では、数年内に年4万5000―6万トンを目標に新規需要の開拓を目指す。ある自動車メーカーは「いくつかの軽い素材の中で、マグネは選択肢の一つ」と話す。マグネ業界では引き続き、軽量化対策を重要なテーマと位置付ける。鉄道や航空機など、他の輸送機器への期待も高い。

化学的な特性を生かした分野では、国内需要の約半分を占める、アルミ合金の添加剤としての市場は底堅いといえる。マグネを含有する5000系のアルミ合金需要は、自動車向けに増加することが予想されている。

マグネ電池の研究開発が進んだことで、最近では実用化に向けた実例が増えてきた。水につけるだけで点灯する小型・中型の電灯や、中型バッテリーが市場に出始めた。二次電池の開発については、全国にある大学など8拠点で行われている。

構造材料と化学的な特性の中間に位置する分野では、ステントなど生体吸収性医療機器用の材料で可能性が広がりそう。

製品としては、福祉関連で車いすや杖が出てきている。

今後の需要展望が明るいマグネだが、課題もある。KUMADAI不燃マグネ合金や難燃化した耐熱マグネ合金など、合金の開発は国内で進んでいる。一方、マグネ地金の生産は国内で行われておらず、中国からの輸入にほぼ100%依存している。世界のマグネ生産量を見ても、中国が80%以上と圧倒的に多い。供給や価格の動向は、中国に左右されやすくなる。マグネを使う国内メーカーとしては、供給元の分散が望ましい。

その中国では、地金を購入して合金だけを生産する工場が増えつつあり、いろんな大型設備も導入されている。一方、国内での大きな設備投資はこれから。実際に投資が行われれば、マーケットは広がっていく。

逆に、当初見込んでいた需要にまで届かないとみた場合には、設備投資を断念するケースが出てくるかもしれない。必要なマグネについては中国から購入すれば良い、といった動きも考えられる。

まずは、マグネの使用量が増えることが重要になる。量産されるようになれば価格は下がり、リサイクル市場のすそ野は広がってくる。

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