2001年(平成13年)に誕生した小泉内閣の構造改革、規制緩和による景気回復、中国、ブラジル、インドなどの経済成長による輸出拡大などから、07年の粗鋼生産は1億2020万トンと過去最高を記録するまでに回復、鉄鋼業界は持続的好況を維持していたのである。しかし、08年9月に突然のリーマン・ショックによる世界金融恐慌、世界同時不況に突き落とされ、09年の粗鋼生産は8753万トンと1億トンを大きく下回る結果となった。
その一方で世界の鉄鋼業界は、リーマン・ショックからいち早く立ち直った中国をはじめとする新興国の台頭、とくに中国の粗鋼生産量の飛躍的拡大、中国、韓国などでの新鋭製鉄所の稼働など世界規模での競争が激化した。これに対応するためグローバル戦略の展開へと踏み出した日本の鉄鋼業界では、12年には02年のJFEホールディングス誕生以来10年ぶりの大型再編となる「新日鉄住金」誕生を見るのである。
この間産業新聞はデジタル時代に対応して日経テレコンを始め、Gサーチ、ダウ・ジョーンズ、ニューズ・ウォッチ、阪和興業などへの情報提供という形でメディア事業を展開してきたが、11年には海外向け産業新聞の電子新聞版を発行、さらにはアイフォン版、タブレット版電子新聞の発行へと発展させていった。
その一方で、ネットを通じて情報が飛び交う時代、大手一般紙を始め地方紙、専門紙もいわゆる紙媒体をめぐる経営環境は極めて厳しい時代を迎えていた。こうした中で産業新聞は次なる飛躍に向けて積極的な投資へと打って出た。
その前提として経営基盤の強化を目的に11年、大阪中小企業投資育成(株)への第三者割当増資を実施、資本金を3840万円から5380万円へと増資した。投資育成は「中小企業投資育成法」に基づき、中小企業の成長発展を支援する目的で設立された公的投資機関。投資育成の投資先は、いわゆる優良企業との評価が定着しており、投資育成の増資引き受けは産業新聞の評価を一段と高めることになった。
この増資資金を活用した産業新聞の事業強化に向けた取り組みは、同じ専門紙同志の連携という形で新しい事業形態を生み出した。11年に設備増強を行い、繊維業界の専門紙である「繊維ニュース」の新聞制作受託を開始した。専門紙はどの業界も業界再編という大きなうねりの中で、厳しい経営を迫られている。こうした中で新聞制作を外部委託していた「繊維ニュース」と、自社での新聞制作を行っている産業新聞が、業界を超えて提携したのである。「繊維ニュース」は外部委託料のコスト削減、産業新聞は設備、要員を保有しているため、制作コストの削減に寄与できるとともに自社の外注事業拡大につながるという、お互いにウィン・ウィンの関係での提携である。専門紙は独立性が強く、横のつながりは極めて薄い。その専門紙同士の提携は業界としては初めての試みであり、大きな注目を集めた。
さらに12年には鉄鋼業界専門紙として初の中国進出となる上海支局を開設した。世界の鉄鋼業界では中国の驚異的な発展、成長、それにともなう粗鋼生産の急増、原油、鉄鉱石・原料炭の急騰など、中国抜きには語れない時代となっている。その中国情報をいち早く、的確に生々しく伝えるための上海支局開設であった。
かつて産業新聞は1968年に、専門紙業界としては初の海外支局となるニューヨーク支局を開設した。当時は米国の鉄鋼業界情報および非鉄のLME、NYMEX相場情報入手を目的とした米国進出であったが、その後、米国鉄鋼業界の相対的地位の低下から03年に支局を閉鎖していた。それから9年、今度は激動の中国情報発信のための中国進出となったのである。経済界がリーマン・ショック後の後遺症からまだ立ち直っていない状況下、11年には東日本大震災、タイ大洪水、戦後最高値の1ドル75円という超円高などに苦しんでいる中での積極投資であった。現在では中国情報はその早さ、内容、情報分析などで他社を圧倒、「中国情報なら産業新聞」の評価を確かなものにしたのである。
さて、直近の鉄鋼業界は、15年半ばから顕著になった中国景気の後退、さらには中国の需要をはるかに上回る過剰生産、過剰輸出が日本をはじめ世界の鉄鋼業界を苦しめている。先行きの見通せない状況下で、鉄鋼メーカー、流通各社は行き残りをかけた経営戦略を展開している。産業新聞も専門紙としての生き残りをかけた新たな事業戦略を展開している。その第一はさらなる情報発信力の強化である。たとえば上海支局はアジア総局上海支局との位置づけで、アジア総局として次なる情報発信体制の強化を視野に入れている。また15年には新聞制作システムの刷新、能力強化を図り、紙媒体、デジタル媒体一体となった「正確で役立つ情報の発信力強化」を図った。こうした情報発信力の強化を通じ、「業界になくてはならない新聞」としての存在感を高めていこうとしている。さらに、80周年を機に中長期を見通してM&Aを通じた事業領域の拡大を模索するなど、100年企業へ向けての新たな挑戦を開始しているのである。
(おわり)