台湾鉄鋼最大手の中国鋼鉄(CSC)は、世界の鉄鋼市場の変動に対応し、海外投資の見直しに着手している。インドでの冷延工場建設を停止する一方でベトナムの合弁製鉄所の最適な活用法を検討。国内ではコスト体質を強化し、収益力を回復させる。トップ就任から半年を経た宋志育董事長はグループの体制を固め、新たな転換期を迎えた世界の鉄鋼市場で存在感を着実に高めていく考えだ。
――董事長就任から取り組んできたことと今後の課題は。
「総経理を務めていたので何をすべきか分かっていた。業務や受注の改善によって在庫が減り、会社がよくなると考え指示した。営業部門の努力によって16年第2四半期もロールはフルに埋まっている。CSC本体で15年のコスト削減は計画の35億台湾ドルに対し、48億台湾ドルを達成した。社員一人ひとりの努力に感謝したい。難しくはなるが、16年に35億台湾ドルの削減を進める。時期が悪い時でなければ目標を達成できない。子会社もコスト削減に尽力する」
――15年は厳しい年だった。
「連結売上高は2851億台湾ドル(9900億円)と前年比22%減、税引前利益は95億600万台湾ドルと67%減少した。単独の鋼材販売は953万トンと1・5%減ったが高級品の販売比率を56・3%と5ポイントほど上げた。自動車用鋼板が多く、棒鋼線材やニッケル・チタン合金鋼も販売が増えた。世界的に比率は高く、16年は60%を目標とする」
――16年は1月の赤字が2月に黒字転換した。改善の方向か。
「3月はさらに改善し、第1四半期(1―3月)は黒字になるだろう。主要鉄鋼企業が赤字で価格を下げる余地はなく、在庫を調整し、価格を上げる時期となる。当社の第1四半期の受注量は計画より25%多く、第2四半期の受注もよい。4月以降は楽観できる」
――生産はさほど減っていない。
「15年の粗鋼生産は高雄製鉄所が能力1000万トン強に対し900万トン強。グループの中龍鋼鉄は高炉500万トン、電炉100万トン、熱延ミル350万トンでほぼフル生産だった。中龍も15年のコスト削減計画12億台湾ドルに対し24・5億台湾ドルを実行した」
――投資の考えは。
「海外案件を再検討する。昨年稼働したインドで電磁鋼板を製造するCSCIの第2期投資として冷延工場を計画したがストップする。インドの冷延コイルの輸入関税が5%から15年10%に上がったために見直す。日本や韓国に対する関税は非常に低い」
――ベトナムの投資会社をどう生かすか。
「新日鉄住金との合弁会社で冷延製造のCSVCは15年に販売量が減ったが12月に黒字に転じ、今年は販売量も増えるだろう。高炉一貫のフォルモサ・ハティン・スチール(FHS)は12月末に熱延ミルのホットランを始めた。3月末に棒鋼線材の試運転に入り、6月中旬に高炉の火入れを行う予定。当社は25%出資しているが、営業活動をまだ行っていない。FHSの主な目的は東南アジアの7000万トン、ベトナムの2000万トンの需要を捉えること。チャンスは多い。CSVCによるFHSからの熱延調達については品質、デリバリー、コスト、サービスが有利なら可能性はあるが決まっていない。CSCと新日鉄住金がCSVCへの熱延供給を続ける」
――高雄の高炉拡張の可能性は。鉄源が必要な際はFHSからの調達を増やすのか。
「高雄の12―15年の1号高炉巻替工事で拡張はしていない。環境規制から容積の拡大はできない。鉄源が必要になればFHSから調達する可能性はある。FHSへの出資を増やす計画はない。スラブや熱延は出資比率に関わらず購入できる」
――新日鉄住金からのスラブ調達はどうなる。
「和歌山製鉄所から安定的に購入する。14年度まで年間180万トンだった調達契約を15―19年度の5年間の契約として年間120万トンに減らした。16年度も120万トンプラスマイナスとなる。和歌山からのスラブは中鴻鋼鉄が使用している」
――インドネシアに投資するようだが。
「現地の鉄鋼企業と提携の文書を交わしたが再検討する。場所や製品などを検討するがすぐに実行するということではない」
――新規事業の自動車部品工場を中国で増やしていくのでは。
「台湾の自動車部品会社とホットスタンピング加工の工場を吉林省長春に設立し、年間600万ピースの能力を持つ。台湾の屏東に同じパートナーと同様の工場を設立し、100万ピースの部品を作っている。主にピラーやバンパーなど高張力鋼を使用した部品でホットスタンピング時に150キロに引張強度を上げる。重慶に同様の工場を建設するか検討している」
――台湾鋼鉄工業同業公会の理事長を務める。課題は何か。
「世界的に保護貿易主義が広がっている。公会の役目としてアンチダンピング(AD)提訴を受けた業者を法律的に支援し、また他の国から不公平な貿易を受けた時に政府と協力してAD提訴を行う。日本や中国、ベトナム、タイ、インドネシアなどアジアの鉄鋼団体と毎年交流し、互いの市場や貿易について情報を交換している。貿易摩擦が起きないよう、会話を続けていく」(植木 美知也)