2016年4月8日

【第5回】記念座談会 非鉄業 いま・未来 松本氏 素材開発で先行を/大井氏 多様性理解し人材育成

――非鉄業界では7団体共同による大学生向け講演・見学会「ネット7」を続けられています。

小竹「ネット7は今年で8年目になる。最初のころは関係の深い先生方が生徒を集めてきてくれていた部分があったが、最近はパンフレットやポスターを見て自主的に参加してくれる学生が増えていると聞く。経産省としては今後もこうした活動の支援をさせてもらいたいと考えている」

――人材という観点では、「ダイバーシティー」の重要性も指摘されています。

松本「ダイバーシティーとグローバリゼーションはコインの裏表だと思う。グローバリゼーションが始まると、必ずダイバーシティーが始まる。日本の場合は男女の格差是正に着目されがちだが、海外展開ではそれだけでなく文化、宗教、人種など広い意味のダイバーシティーを考えねばならない。日本では女性のボードメンバーがまだ少ないのは事実で、女性が仕事を続けるうえでのハンデキャップを取り除くための支援は当然していかねばならない」

大井「われわれも海外売り上げが5―6割に高まり、プロジェクトも海外案件が増えた。かつては語学ができて交渉ができてという人材で良かったが、多様性を理解し、マネジメントできる人材を育てなければいけないと痛感している。現地の海外コンサルタントなどに頼る部分もあるが、自ら人材を育てなければ海外で鉱山開発や工場の展開を進めるのが難しくなる。当社も女性だけでなく、アジア系の学生の採用も数年前から始めている」

松本「当社は世界の従業員数25万人のうち8割が外国人。2割しかいない日本人で全てはカバーできない。海外従業員を幹部に据えるには、カンパニーカルチャーやビジネススピリットを教えるシステムも持たないといけない。利益の半分以上は海外で、といった傾向は今後もさらに高まる。国はこうした状況を把握する必要があるだろう」

大井「昨今、設備技術系などの間接部門がややないがしろにされる傾向にあるのではないかと感じる。コストを切り詰めろというと、間接部門に手をつけがち。しかし、実際に工場を運営する上で設備技術、自らの機械のことに精通していなければ安定操業はそもそもありえない。壊れたら誰かに直してもらうでは遅く、プロセス技術と設備技術をうまく融合していく必要がある。設備技術系の人材育成の重要な課題ではないかと思う」

――日本電線工業会ではグローバル統計を出し始めます。

松本「昔から必要だと考えていた。電線業界は戦後、日本経済の基礎を支えてきたという自負があったが、インフラが充実するにつれこうした気持ちが忘れ去られてきている気がする。それは若い管理職などにとっても良くない。グローバル統計を出せば、海外も含めると過去最高の生産数量と同じくらい作っていることがわかる」

小竹「最先端の産業のベースに素材産業があるというのは譲れない一線だと思う。しかし、残念ながらそうした理解がない人たちもいる」

石山「BtoBのビジネスだから見えにくい部分もあるのでは。しかし、日本の強みのベースが素材にあるということは非常に重要だ」

松本「素材の1週間の開発の遅れは10年に匹敵する。合金を作ろうとすれば大変に長い時間がかかるし、当社がダイヤモンドを作るのには十数年、高温超電導などは25年もかかった。その分、先行すればなかなか追いつかれない」

産業新聞に一言

――最後に、80周年を迎えた産業新聞への期待などをお願いします。

石山「いろいろな記事を真面目に書いていると思う。非鉄産業は面白い業界だということや、日本の強みはこういうところにあるということをさらに記事で伝えてもらいたい」

大井「同感です。経済団体でも非鉄が話題に上がることは少ない。例えば銅はどこに使われ、役に立っているのかなどPRする観点で、とりわけ産業新聞には特集などを組んでもらえればありがたい」

松本「非鉄産業もグローバル化しており、海外の情報もしっかり取り上げてもらいたい。また、非鉄はマーケットプライスがどういった形で決まっているのか、今どういう状態なのかなど、業界に影響があるようなトピックスや制度についての特集などもいい」

――本日はありがとうございました。

(おわり)



座談会出席者
住友電気工業社長
松本正義氏
日本軽金属ホールディングス会長
石山喬氏
JX金属社長
大井滋氏
経済産業省製造産業局非鉄金属課長
井上幹邦氏
経済産業省製造産業局非鉄金属課課長補佐
小竹幸浩氏
経済産業省製造産業局非鉄金属課課長補佐
関行規氏
司会=大倉浩行(産業新聞社編集局非鉄部)


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