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2024.10.30
2016年4月6日
【第3回】試練の日本鉄鋼業 製販一段の構造変化も 「革新技術」の開発必要
山村「20年以降については」
柿木「五輪以降の鉄鋼需要について『断崖絶壁を降りる』という見方もあるが、鉄連としては、そうは見ていない。五輪に向けて底上げされたところが20万トン程度あり、人口減リスクとしては100万トン規模の影響を想定すべきとの意見もある。その一方で、東北の復興、国土強靭化などの災害対策はまだ道半ば。鉄鋼業界としては、国土強靭化にまだまだ貢献できることがあるし、国内需要の再喚起にも取り組んでいきたい。さらに将来を見据えると、いまの出生率では生産年齢人口がさらに減っていく。製造業が成り立たなくなって海外移転が加速することになる。安倍政権が掲げる1億総活躍社会の実現に向けて具体的な施策を打ち出し、TPPの効果なども引き出していけば、20年以降のリスク要因が減り、1億トン規模の粗鋼生産を維持できる可能性はある。ただ政府の施策が具体化されなければ、日本経済自体の先行きも暗いわけで、安倍政権にはぜひとも各種政策を実行してもらいたい」
山村「日本の鉄鋼業界では、高炉メーカーでJFEグループ、新日鉄住金グループが誕生し、流通でも伊藤忠丸紅鉄鋼やメタルワン、エムエム建材など業界再編が続いている。今後どのような構造変化が起きるでしょうか」
柿木「企業の再編統合は、それぞれに契機はあったが、いずれ内需が縮小し、国際競争がさらに激化することを想定した、生き残るための大きな経営判断だった。今後も、何があってもおかしくはないし、日本という枠にとらわれないものが出てくるかも知れない。とくに普通鋼電炉メーカーは数が多く、原発停止後の電力料金の上昇もあって、再編が必要と指摘されている。ただし、非常に優れたリサイクル産業であり、決して絶やしてはならない。そのための施策として、業界再編はひとつの選択肢であると思うが、それがすべてではない。電炉メーカーの経営者には、将来展望を自ら拓く手立てをぜひ講じてほしい。振り返ると、鉄鋼メーカーの再編が続く中、リーマン前後で普通鋼内需は1500万トン減った。商社・流通は鉄鋼メーカーとともに統合を進め、機能を高めながら、海外市場に舞台を広げてきた。さらにこの先、高炉、電炉、商社・流通業界でもう一段の構造変化が起きる可能性はある」
山村「確かに高炉メーカーはじめ、商社・流通も海外に大きく土俵を広げてきた。今後の鉄鋼業における国内、海外の生産設備の持ち方、海外事業展開はどうなるでしょう」
柿木「例えばJFEスチールはこのほど、ベトナムの高炉一貫製鉄所に5%を出資した。一貫製鉄所はインフラを含めて巨額の投資になる。いまの経済情勢ではリスクが大きく、ましてや6億トンとも8億トンともいわれる余剰能力がある中で、単独で一貫製鉄所を建設し、運営することはできない。一方、自動車メーカーなど需要家が海外生産を拡大しているので、冷延鋼板や表面処理鋼板など下工程の現地供給体制を強化する動きは今後も続くだろう。日本国内の製鉄設備については、それぞれの企業判断になるが、鉄鋼業は日本の基幹産業であり、維持していくことが基本となる。国内の上工程で鉄源・鋼材を製造し、高機能鋼材は、海外に素材を送り、現地で圧延・加工して自動車メーカーに供給する。こうした垂直分業は一つの方法だろう。JFEの場合、鉄源が限られるため、汎用品グレードはベトナムの合弁製鉄所の鉄源を活用し、需要家に供給していく」
山村「国内では再編統合の中で高炉の休止や、設備の老朽化による統廃合、合理化などが進んでいる。国内生産設備の在り方についてお聞きしたい」
柿木「日本の臨海製鉄所はいずれも建設してから40年以上を経過し、製銑・製鋼、1次ミルは老朽化が進んでいる。製銑工程のうち、溶鉱炉は一定年数で改修してきているが、コークス炉は多くが初の更新期を迎えている。中国など海外で最新鋭の製鉄所が立ち上がる中、転炉や連続鋳造機など製鋼工程、熱延・厚板など一時ミルのプロセスなどの基盤整備も必要になっている。高級鋼といえどもコスト競争にさらされている。設備の老朽更新に合わせて、コストダウンを図れる最新技術を盛り込んだ高機能設備に入れ替えていくことが、日本鉄鋼業の共通課題となっており、各社、設備投資を積極的に進めている。日本は世界最先端の技術開発力を持つが、連続鋳造を最後に革新的なプロセス技術を開発できていない。超ハイテン鋼板など高機能製品を効率的に生産する、時代をブレークスルーするプロセス技術の開発に期待している」
山村「日本の鉄鋼業は技術力、コスト競争力など世界のトップクラスにあるが、鉄鋼業界はまだしばらく厳しい状況が続くと思われる。対談を締めくくるにあたって、いま一度、日本鉄鋼業が力強く発展していくためのポイントをいくつか挙げて頂きたい」
柿木「まずはプロセス革新を含めた技術開発力の優位性確保で、そのための人材育成と採用のダイバーシティが不可欠。2点目は老朽化した生産設備をリフレッシュする過程での革新技術を盛り込んだ設備による優位性の再充実。世界的な要請でもある、耐環境性や省エネ性など環境技術、自動車や船舶などの軽量化材料も日本鉄鋼業が引き続き優位性を発揮する鍵になる」
山村「最後に、80周年を迎えた産業新聞への期待、要望があれば、ぜひお聞ききしたい」
柿木「まず長年にわたって毎日、正確な情報を発信することで、日本の大きな屋台骨を支える鉄鋼業の発展に貢献して頂いている。日々の取材活動の積み重ねの結果であり、80周年と聞くと、本当にすごいことだと思う。日本の鉄鋼業界の会社数が減り、部数への影響もあって、ご苦労は多いと思うが、鉄鋼業界と日本の発展のため、健全な関係を継続し、正確な情報発信と提言を続けてほしい」
山村「長時間有難うございました」
柿木「五輪以降の鉄鋼需要について『断崖絶壁を降りる』という見方もあるが、鉄連としては、そうは見ていない。五輪に向けて底上げされたところが20万トン程度あり、人口減リスクとしては100万トン規模の影響を想定すべきとの意見もある。その一方で、東北の復興、国土強靭化などの災害対策はまだ道半ば。鉄鋼業界としては、国土強靭化にまだまだ貢献できることがあるし、国内需要の再喚起にも取り組んでいきたい。さらに将来を見据えると、いまの出生率では生産年齢人口がさらに減っていく。製造業が成り立たなくなって海外移転が加速することになる。安倍政権が掲げる1億総活躍社会の実現に向けて具体的な施策を打ち出し、TPPの効果なども引き出していけば、20年以降のリスク要因が減り、1億トン規模の粗鋼生産を維持できる可能性はある。ただ政府の施策が具体化されなければ、日本経済自体の先行きも暗いわけで、安倍政権にはぜひとも各種政策を実行してもらいたい」
山村「日本の鉄鋼業界では、高炉メーカーでJFEグループ、新日鉄住金グループが誕生し、流通でも伊藤忠丸紅鉄鋼やメタルワン、エムエム建材など業界再編が続いている。今後どのような構造変化が起きるでしょうか」
柿木「企業の再編統合は、それぞれに契機はあったが、いずれ内需が縮小し、国際競争がさらに激化することを想定した、生き残るための大きな経営判断だった。今後も、何があってもおかしくはないし、日本という枠にとらわれないものが出てくるかも知れない。とくに普通鋼電炉メーカーは数が多く、原発停止後の電力料金の上昇もあって、再編が必要と指摘されている。ただし、非常に優れたリサイクル産業であり、決して絶やしてはならない。そのための施策として、業界再編はひとつの選択肢であると思うが、それがすべてではない。電炉メーカーの経営者には、将来展望を自ら拓く手立てをぜひ講じてほしい。振り返ると、鉄鋼メーカーの再編が続く中、リーマン前後で普通鋼内需は1500万トン減った。商社・流通は鉄鋼メーカーとともに統合を進め、機能を高めながら、海外市場に舞台を広げてきた。さらにこの先、高炉、電炉、商社・流通業界でもう一段の構造変化が起きる可能性はある」
山村「確かに高炉メーカーはじめ、商社・流通も海外に大きく土俵を広げてきた。今後の鉄鋼業における国内、海外の生産設備の持ち方、海外事業展開はどうなるでしょう」
柿木「例えばJFEスチールはこのほど、ベトナムの高炉一貫製鉄所に5%を出資した。一貫製鉄所はインフラを含めて巨額の投資になる。いまの経済情勢ではリスクが大きく、ましてや6億トンとも8億トンともいわれる余剰能力がある中で、単独で一貫製鉄所を建設し、運営することはできない。一方、自動車メーカーなど需要家が海外生産を拡大しているので、冷延鋼板や表面処理鋼板など下工程の現地供給体制を強化する動きは今後も続くだろう。日本国内の製鉄設備については、それぞれの企業判断になるが、鉄鋼業は日本の基幹産業であり、維持していくことが基本となる。国内の上工程で鉄源・鋼材を製造し、高機能鋼材は、海外に素材を送り、現地で圧延・加工して自動車メーカーに供給する。こうした垂直分業は一つの方法だろう。JFEの場合、鉄源が限られるため、汎用品グレードはベトナムの合弁製鉄所の鉄源を活用し、需要家に供給していく」
山村「国内では再編統合の中で高炉の休止や、設備の老朽化による統廃合、合理化などが進んでいる。国内生産設備の在り方についてお聞きしたい」
柿木「日本の臨海製鉄所はいずれも建設してから40年以上を経過し、製銑・製鋼、1次ミルは老朽化が進んでいる。製銑工程のうち、溶鉱炉は一定年数で改修してきているが、コークス炉は多くが初の更新期を迎えている。中国など海外で最新鋭の製鉄所が立ち上がる中、転炉や連続鋳造機など製鋼工程、熱延・厚板など一時ミルのプロセスなどの基盤整備も必要になっている。高級鋼といえどもコスト競争にさらされている。設備の老朽更新に合わせて、コストダウンを図れる最新技術を盛り込んだ高機能設備に入れ替えていくことが、日本鉄鋼業の共通課題となっており、各社、設備投資を積極的に進めている。日本は世界最先端の技術開発力を持つが、連続鋳造を最後に革新的なプロセス技術を開発できていない。超ハイテン鋼板など高機能製品を効率的に生産する、時代をブレークスルーするプロセス技術の開発に期待している」
山村「日本の鉄鋼業は技術力、コスト競争力など世界のトップクラスにあるが、鉄鋼業界はまだしばらく厳しい状況が続くと思われる。対談を締めくくるにあたって、いま一度、日本鉄鋼業が力強く発展していくためのポイントをいくつか挙げて頂きたい」
柿木「まずはプロセス革新を含めた技術開発力の優位性確保で、そのための人材育成と採用のダイバーシティが不可欠。2点目は老朽化した生産設備をリフレッシュする過程での革新技術を盛り込んだ設備による優位性の再充実。世界的な要請でもある、耐環境性や省エネ性など環境技術、自動車や船舶などの軽量化材料も日本鉄鋼業が引き続き優位性を発揮する鍵になる」
山村「最後に、80周年を迎えた産業新聞への期待、要望があれば、ぜひお聞ききしたい」
柿木「まず長年にわたって毎日、正確な情報を発信することで、日本の大きな屋台骨を支える鉄鋼業の発展に貢献して頂いている。日々の取材活動の積み重ねの結果であり、80周年と聞くと、本当にすごいことだと思う。日本の鉄鋼業界の会社数が減り、部数への影響もあって、ご苦労は多いと思うが、鉄鋼業界と日本の発展のため、健全な関係を継続し、正確な情報発信と提言を続けてほしい」
山村「長時間有難うございました」
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