業界再編、大きい価格変動
――業界再編の取り組みに関し、競争力強化の観点から国の支援は。
井上「産業競争力強化法があり、それを踏まえ、各事業社の皆さんに支援をさせていただいているところだ。我々としては、皆さんがハイエンドの世界で収益性の高い分野を狙ったり、あるいはマスをとりにいかれる分野を含め、各社がどういうリソースを配分されるかを踏まえ、機動的なサポートを考えていかないといけない」
――ボラティリティー(価格変動性)の高さという点では、特に銅価は乱高下が目立ちました。
大井「この乱高下は、決して好ましいことではない。政府が掲げる緩やかな成長、安定した価格の動きは望ましいが、残念ながらこの10年を振り返ると、中国における需要の急伸をきっかけに、大きなうねりができた。2011年からいきなり下降局面に入ってしまったが、この間、需要が大きく減ったのかと言われれば、決してそうではない。先進国では一人当たり10―15キログラムくらいの消費量があり、中国は伸びたといっても7キログラム程度で、これに中国の人口を考慮し、インドネシアやインドも含めれば、まだ伸びる余地はある。しかし、あまりにも投機筋のマーケットになってしまい、当業者が入ってこれない状況で、供給面で不安を感じている局面となり、資源メジャーも赤字に陥る異常事態。供給過剰といっても、だぶついているわけではなく、センチメントだけで動いている。拡張投資や新規の開発が延期され、前段階の探査も相当切り詰め、次の開発もそう簡単に起こらない状況になり、価格形成システムを考えないといけないと思う。単に市場メカニズムに任せて、放置するわけにはいかない。銅は高い機能を持ち、根強い需要がある。新興国の需要も見込め、原材料の安定供給、銅資源開発、中流の製錬事業も続けながら、競争力強化を進めないといけない」
――需要サイドとして、銅のボラティリティーの高さをどう見ていますか。
松本「銅加工業者の集まりであるIWCC(国際銅加工業者協議会)として、価格変動はとにかく困る、経営に大変な影響がある、とLMEに訴えてきた。そうこうしているうちに顧客の銅に対する態度が変わってきた。アルミの資源量や価格をみて、代替できるのであれば銅から置き換えたい、という声が増えてきた。素材の価格変動は自動車メーカーにも重大な問題。環境問題に端を発する軽量化ニーズが、流れをさらに後押しした。自動車用ワイヤハーネスをはじめ、巻線、中低圧電力ケーブルなどのアルミ化が始まっている。銅の世界消費量を大まかに年2000万トンとすると、6割が電線に使われ、そのうちアルミ化の可能性がある領域は6割。年700万―720万トン相当にもなる。こうした状況を考えると、LMEは度の過ぎた価格変動を放置すべきではない」
(公務により井上課長退席)
国内基盤強化
――グローバル競争の基点となる国内市場・拠点のあり方をどう位置付けますか。
石山「アルミは需要のすそ野がとても広く、いわゆる『選択と集中』とは異なる世界。太陽電池であれば架台、輸送分野であれば新幹線や地下鉄の車体、先ほど挙がった自動車用の電線もそうだが、さまざまな分野で新しい用途が出てくる。どこかに集中すると、むしろ新規需要を取り逃すおそれがある。一本足、二本足、三本足ではなく、百本足くらいの感覚でやっている。その中から世界に打って出られる製品や技術も育ってきた。PTP(薬の包装)や缶材が一例かと思う」
――新技術・新製品の土壌ということですね。大井社長はどうお考えですか。
大井「松本社長がおっしゃったように、銅からアルミへの代替が進んできたのは事実。一方で、導電率の高い銅には軽薄短小化のニーズがある。たとえば電解銅箔ならば厚さ1ミクロン、圧延銅箔でも最薄4―5ミクロンの世界まで今来ている。また、IoT(モノのインターネット)、医療、自動車などの分野で遠隔操作や自動運転にセンサーが多用され、総消費量は大きくなくても銅の新規用途はまだまだある。日本の製錬会社は、先端用途に耐え得る高品質なメタルを安定供給する。製造産業の競争力の源泉であり、ひいては原料鉱石の安定調達も必要ということになる」
座談会出席者
住友電気工業社長
松本正義氏
日本軽金属ホールディングス会長
石山喬 氏
JX金属社長
大井滋氏
経済産業省製造産業局非鉄金属課長
井上幹邦氏
経済産業省製造産業局非鉄金属課課長補佐
小竹幸浩氏
経済産業省製造産業局非鉄金属課課長補佐
関行規氏
司会=大倉浩行
(産業新聞社編集局非鉄部)