日本の非鉄金属産業はこれまで、原材料価格の乱高下や国内および海外の大きな景気変動を受け、さまざまな構造変化を図ってきた。今後についても、経済のグローバル化が進展する中、競争力強化に向けた多様な取り組みが求められている。産業新聞社はこのほど、創刊80周年の特別企画として、非鉄製錬および伸銅、電線、アルミ業界を代表する企業のトップと所管官庁である経済産業省非鉄金属課長を招いて記念の座談会を開催し、業界の課題や展望について、活発な議論をいただいた。
リーマン・ショック後の非鉄業界回顧・展望
――直近の非鉄業界を振り返ると、資源バブルやリーマン・ショックなど、国内外とも激動し、大きな環境変化がありました。まずは、電線業界の変化をお聞かせ下さい。
松本「業界再編が1990年代後半から00年代前半に行われた。10年代になり、業界再々編の問題が今、起こっている。日本の電線業界は整理がされてきた。国内の需要は大きくならないし、日本の電線業界は再編成後、もう一度世界にトライしていくことになる。日本のプレーヤーも限られてきたが、技術的、マーケット的にレビューしながら、(欧州の)ネクサンスやプリズミアンと戦っていく。中国も力を付けているので、日本のメーカーはもっと考えないといけない」
――アルミ業界も大きな構造変化、需要の変動がありました。
石山「リーマン・ショック前の需要は結構良かったが、リーマン・ショックに耐震偽装問題もあり、一気に需要が減った。需要はその後、回復してきたが、東日本大震災で落ち込んだ。足元のマーケットとしては、だいぶ復活している。業界再編については、UACJの発足やアルミ箔の統合、サッシでの事業譲渡などが行われた。アルミ製錬は電気代の安いところに移っていく。世界生産の約半分は中国で作り、その8割以上が赤字になっており、ここにきてLME(ロンドン金属取引所)価格も下がっている。プレミアムも安くなってきたが、これまでの変動がかなり激しく、苦労している」
――銅の業界はどうですか。
大井「銅の業界では、中国の急激な経済成長に伴い、世界需要の50%に迫るくらい成長。資源価格は、おしなべて急騰した。従来はメジャーの原料鉱石マーケットで寡占化しつつあったところに、中国も資源獲得競争に出てきて、資源開発コストが以前に比べ、数倍上がった。こうした変化の中で、事業の選択と集中により、先々のトレンドを見ながら対応してきた。日本の製錬業界においては、これ以上一緒になったり、製錬所を統合するなど、抜本的な再編は期待できない。伸銅については二極化しているが、われわれは量や価格で勝負する時代は終わったとみて、付加価値の高い分野で伸ばしていきたい。また、製錬事業の強化、資源開発については、苦しくても継続していかなければならない」
――非鉄業界が大きな構造変化を見せる中、これに対する経産省の見方、および各業界への支援としては。
井上「まさにダイナミックに動く時期だったのではないかと認識している。各企業が得意分野を伸ばす中、いろいろトライされた時期だったと思う。また、素材価格の乱高下は、象徴的な出来事としてあった。これだけの価格変動により、事業を継続しながら、再編や集約化、コストを下げるなどの取り組みを行い、原材料確保を図るのは難しい状況だったと思う。われわれは昨年、金属素材競争力強化プランをまとめ、皆さんにご協力、およびいろいろなアドバイスをいただいた。ここで出てきたテーマは、これまで指摘を受けてきた事象もあるが、各企業はこれだけの荒波を経て、事業再編を含めていろいろ対応してきた。一方、行政としては後手に回っていた部分もあると思う。これをどう進めるかが問われている。今後5年、10年を見た場合、われわれが何をできるか、きちんと考えなければならない時期に来ている。研究開発において、業界の皆さんは価格の高騰時、再資源化や使用量の低減、代替材の開発など、以前から培ってきた技術力を背景に、発揮をしていただいたと思う。こうした点に関しては、われわれも遅ればせながら、ご支援をさせていただいた。これら成果を踏まえながら、今後の取り組みに関しては、皆さんの意見を踏まえ、次の手を打っていきたい」
座談会出席者
住友電気工業社長
松本正義氏
日本軽金属ホールディングス会長
石山喬氏
JX金属社長
大井滋氏
経済産業省製造産業局非鉄金属課長
井上幹邦氏
経済産業省製造産業局非鉄金属課課長補佐
小竹幸浩氏
経済産業省製造産業局非鉄金属課課長補佐
関行規氏
司会=大倉浩行
(産業新聞社編集局非鉄部)