2015年6月8日

鉄鋼流通同士の再編に先鞭 ■酒井鋼材社長 酒井孝氏 後継者問題解決の選択肢 長所に着目、5年で効果

酒井孝社長
5年前に鋼材販売業の酒井鋼材(北海道旭川市)は仲山鋼材(同)との経営統合を決断した。国内の鋼材需要が減少する中で、鉄鋼流通業者の再編はなかなか進んでいないが、それに先鞭をつける格好になった。モデルケースを成功させた酒井孝社長に、経営統合の経緯と現状、そして鉄鋼流通業者の将来のあるべき姿を聞いた。



――酒井鋼材と仲山鋼材が経営統合した経緯について。

「2008年の冬位から、将来に対する漠然とした不安があった。後継者不足のお客さまが何社かあり、廃業を選択される方が多くなってきた。その様な中、何かをしなければ生き残れないという思いだけが先行していた。その解決策の一つとして、どこかの会社と手を組む。『組むのであれば仲山鋼材と』という思いがあったのは偶然ではなく必然だったと思う。酒井鋼材はスクラップを取り扱っていた会社からスタートしているが、お客さまの要望によって少しずつ新材を取り扱うようになってきた。新材を扱う時にお世話になったのが、仲山鋼材の先代の社長に鋼材のイロハを教わり仲山鋼材から仕入れ、お客さまに提供していた。仲山實氏と酒井友次が築き上げた信頼関係が続いており、仲山鋼材と酒井鋼材は良好な取引関係だった。しかし、仲山鋼材の後継者がいない、子供はいたが会社には戻らないという話はわれわれも聞いており、『組むのであれば仲山鋼材と』いう思いは心の奥に秘めていた。10年2月12日の朝9時前だったと思うが、取引先の銀行の支店長が訪ねてきた。『朝早く来るなんて珍しいな』と思っていたが、仲山鋼材が売りに出ているという話を聞かされた。以前から、専務(酒井保則氏)とその様な話をしていたので、すぐに検討しようという方向性で話が動き始めた」

――狙いはどこにあったのか。

「鉄の業界で生き残るという至上命題があった。最終的に1+1=1で良いと言う考え方が根本にあり、売り上げを伸ばそうという気持ちは正直なかった。今でもその様に思っている。何もしなければジリ貧になっていくのは目に見えていたし、早い段階での廃業という選択肢も考えなくてはならない。実際私どものお客さまの中にも経営者が50歳代にもかかわらず廃業を選択された方もいる。喫緊の課題だった。私たちは両社の良い部分を伸ばして、切磋琢磨し成長していければ必ず良い結果になるだろうと思っていたが、5年でここまで到達できるとは思ってもいなかった。今まで他社の動向はさほど気にしていなかった社員も、互いの動きを気にし、負けてられないという良い雰囲気が出てきた」

――現在までの統合効果について。

「当初一番大きな効果は、物流だった。仲山鋼材では1台チャーターで入ってもらったが、大型案件が多い会社だったので直送が多く、運んでいるトン数から考えると非常に高上がりの状態になっていたが、酒井鋼材の便で運ぶことによって解決することができるだろうと思っていた。10年当時はリーマン・ショックの影響で旭川市も非常に景気も悪く、酒井鋼材は自社便にて配達していたが、全く残業をしなくてもよい状態だった。このためトラックの台数を増やさずに配送できた。また、近郊の物流に関しては仲山鋼材単体で便を作ることが厳しい地域も、酒井鋼材の便で週に2回届けられることによりお客さまの利便性を高めることができた。便数が増えるとお客さまに便利に利用してもらえることができたので、その点は非常に喜ばれた。また、アングルの9×75以上・チャンネルの9×75×150以上・平鋼の12ミリ厚や小平16ミリ以上の鋼板などを1社で持つことにより倉庫のスペースを確保し、本社の1階に置いてあった金物の在庫を、鋼材倉庫に移設することができた。これによって在庫の回転率が向上した。グループ化することにより、互いの在庫を利用する頻度が増え、仲間間取引の金額よりも安く仕入れすることができ、利益確保や、商売のチャンスを逃すことが少なくなった。仕入れについては困っていたアルミの仕入れ先が確保でき、鋼材もスケールメリットを出すことができた。また、金融機関や保険など財務面においてもメリットがあった」

「以前は仲山鋼材の事務所と倉庫は約5キロ離れていた。事務所は約40年前に建てられたものだった。当時は仲山鋼材も従業員数が70人在籍していたので、とても広くて大きな事務所だった。5年前の従業員数は23人だったので、1人が机を2台使用するのは当たり前で、商品カタログを多く扱う従業員は1人で4台使用する状況だった。副社長がエアコンを入れるのでスペースを減らそういうことで、事務所をパーテーションで仕切り半分くらいのスペースで一時期業務をしていたが、冬の寒い状況を改善することはできなかった。旧事務所は、重油が高騰していた要因もあるが、暖房代が年間130万円程かかっており、どうにか改善することができないかと考えていた。少しずつだが業績も回復し、消費税の値上げも決まっていたので、倉庫のある場所に事務所を移転する計画を立てた。事務所をコンパクトにすれば燃料代が100万円浮くということと、倉庫の事務所も古く大がかりな修繕が必要だったことと、倉庫の人員を増やしてほしいという要望があったことから、事務所と倉庫が同じ場所にあれば、営業がお手伝いすることができ、人員を増やすことなく業務に当たった。また実際のお客さまと接する機会が増え良い方向に向かうことができた。狙い通りに燃料代の削減ができ、年間を通して非常に快適に仕事をすることができるようになった。しかし、事務所の建設ではお客さまで何社もゼネコンがあるため、発注する際は非常に気を使っていたようだ。相見積もりもなかなかしづらかったようだ。また、事務所と倉庫の場所が違うとなかなかお互いの社員同士が顔を合わせる機会が少なかったが、同じ場所に事務所を構えることで接する機会が増え、お互いに冗談を言い合える関係になり、コミュニケーションが取りやすくなった。現在酒井鋼材と仲山鋼材は距離的に約3キロ離れているが、以前よりも互いの社員間の距離は縮まった感じがする。それまでは年に一度新年会で顔を合わせる事しかなかった」

「オーナーが変わった事により土地に対しての執着がなく、遊休不動産を処理することに抵抗感がないため処分したが、固定資産税が減るなどのメリットがあった。また、以前から地元のさまざまな方たちとの交流があったが、酒井鋼材では建築関係は取引がなく、あっても鉄骨などひもをつけてもらうことしかなかったが、仲山鋼材では、ガラス・サッシの工事や金属工事や鉄筋の取り扱いもしているので、より商売の幅を広めることができるようになった。ガラス・サッシの扱いをしていますよと言うと驚かれることが多いが、少量でもお話をもらえるようになった」

――今後の両社の計画について。

「当初は5年をめどに、統合や部分的な営業譲渡などと考えていたが、現在は両社共に良い状態で経営できているので、当分は現状のままで行こうと思っている。だが、いつでもどのようになろうとも対応できるように、社内の体制は整えていこうと思っている」

――今後の鉄鋼流通業をどう見るか。

「高炉メーカーが統合し、電炉メーカーが高炉メーカーの傘下に入るところが出てきて、そして商社同士の鉄の部門が統合し、流通も商社の傘下に入っているところから少しずつ統合されて、15年前から比べるとかなり様変わりしている。次はわれわれオーナー系の流通の再編になると思うが、これには非常に困難な問題が多くある。後継者問題で大手流通の傘下に入るのであれば、比較的話は早いと思う。しかしそれ以外の場合は、どちらがトップになるであるとか、金融機関の関係をどうするであるとか、社員の待遇や社員の数をどのようにするであるとか、所在地をどのようにするであるとか、いろいろな問題が生じる。非常に困難な道のりだが、市場規模が縮小しているので、どこかの段階で手を打つことによって流通再編の動きに向かうのではなか」

――経営統合により生き残りを模索する鉄鋼流通業者が増えてくる。

「川上から続いてきた再編の波は流通業にも必ず押し寄せてくると思うし、私たちもこのような話が来るまでは、そのうち近いところでもありえるのではないかと思っていた。まさに遠い将来の出来事ごとだと。われわれ鉄鋼流通業者だけではなくさまざまな業種で、オーナー系で後継者問題を抱えている企業は早い段階で選択肢の一つになってくると思うし、在庫の持ち方や配送などで互いにメリットがあれば、手を組んで商売をするということは増えてくると思う」

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