日本から鉄スクラップを輸入してきた韓国、中国は自国の鉄鋼業の成長により自給化を目前にする。かつての日本のように輸出国への転換も視野に入れ、東アジアの鉄スクラップを軸とした関係性の変化も見込まれる。各国の需給動向の現状や今後について、鉄リサイクリング・リサーチ(本社=茨城県利根町)の林誠一社長に聞いた。
――日本の鉄スクラップ輸出環境から。
「日本の鉄スクラップ輸出量は年間700万―800万トン水準で推移している。向け先は近隣の韓国、中国向けに集中。2国向けで90%を占め、近隣依存度が高いのが特徴と言える。今後の市場を展望するには、この2国がどうなっていくかそれぞれの動きを把握する必要がある」
――韓国の鉄スクラップ事情について。
「韓国の粗鋼生産量は順調に拡大していて、鉄鋼蓄積は約5億トンになっている。この鉄鋼蓄積分が老朽化し鉄スクラップとして発生してきる時期がいつかということが、自給化がいつかということにつながる。それと需要がどうなるか。そのギャップが輸出入に関わってくる」
「韓国の鉄スクラップ自給の時期について、以前は2015年頃との見方もあった。その時期が延びているのは国内の需要が増えていることが背景にある。今の見通しでは2025―30年くらいには他国からの輸入は不要になるだろう。国内の鉄鋼蓄積量が増えて、その分が老朽化して市中に鉄スクラップとして発生してくる。これが輸入代替になっていくと想定できる。少なくとも今から10年、15年先、量的には韓国にとって年間700万―1000万トンあった輸入が2030年には不要になる」
「量的には足りるが、今度は鉄スクラップの品位が問題になる。上級スクラップについては、韓国も日本同様に製造業の海外移転が進んでおり、加工スクラップの今後の先細りが懸念される。ある意味、新断スクラップなどの他国からの輸入はこれからも必要な状態が続くと見ていい。老廃スクラップに関してもHSやH1といった上級に近いところがどの程度の割合になるかが、量以外での問題となってくる。いずれ上級スクラップの需給のアンバランスは2030年、あるいは50年といったところまで続くのではないか」
「輸入はゼロにはならない。そうした部分に対して日本は供給元であり続ける。ただ、老廃スクラップ――日本から輸出しているH2などについては韓国国内の発生で代替できるようになる。日本からの鉄スクラップ輸入は年間約450万トンあるが、そのうちH2が3分の2、約300万トンに相当する。日本側はこの300万トンの韓国に代わる向け先を考えなければならない」
――中国については。
「中国の鉄鋼蓄積量は中国廃鋼鉄応用協会によると2013年末にすでに62億トンに達している。ただ回収率は年間0・7%に止まる。12年の日本の回収率が1・9%、韓国が2・2%で、中国は大分低い。これは鉄鋼製品として使用中のものが多いことが理由の1つで、要するに鉄スクラップとして発生してこない。2つめには回収、流通が未整備であること、3つめに採算性の問題がある」
「量的な意味では中国の鉄スクラップ自給化はすでに達成されていると言える。前述の3つの条件が揃えばすぐにでも達成される。年間450万トンの輸入量も国内の回収率が0・1ポイントでも上昇すれば即自給化できる。要はシステムの問題。流通体制については政府も12次5カ年計画などで整備しようとしているが、今の段階ではこれらが未整備なため他国から輸入している現状だ」
「また、中国固有の問題だが、日本からの輸入については雑品が多く含まれる。ここ1、2年の変化として雑品も製鋼原料としての鉄スクラップが目的ではなく、また銅としてでもなく、日本の雑品に含まれる良質の廃プラスチックが目的という側面が強い。日本からの鉄スクラップ輸入と一口に言っても、韓国と中国では並列には見られない」
――中国の鉄スクラップの今後。
「中国については鉄鋼蓄積量62億トンを背景に、今後いつの段階で輸出国になるかということがポイントになる。鉄鋼蓄積のフローを見ると、特に2000年以降の積み上げ分が47億トン、70%以上を占める。この部分が鉄スクラップとして発生してくるのは鉄鋼製品の耐用年数から考えると2030年頃。さらに国内で発生した鉄スクラップはなるべく国内で消費しようという政府の方針がある。炭酸ガス排出の問題や、中国の電炉比率が10%以下と他国の30%平均と比べて低いこともあり、今後電炉シェアを上昇し、鉄スクラップ消費量が増える可能性もある。それでも尚かつ余剰する場合に、いよいよ中国鉄スクラップの輸出ということになる」
「62億トンという蓄積量は現状でも世界最大。今輸出国として最大のアメリカも蓄積量は44億トン。2030年代になって中国の鉄スクラップが世界へ輸出展開された場合、アメリカに代わって世界の鉄スクラップの市場、相場を動かしていくことになると予想される。中国が輸出国になる時、それは世界の鉄スクラップ相場を動かす時だ」
――中国の世界市場への影響について。
「中国からの輸出先は当然、東南アジア市場にも向き、日本と競合する。アメリカにとってもそう。中国の鉄鋼蓄積量増加による発生増が大きな背景となり、中国の鉄スクラップが余剰することで、価格は安い方向へと向かう」
「中国は鋼材については鋼塊・半製品含めて昨年年間6600万トンを輸出している。粗鋼生産量が年間7億8000万トンであるから1割に満たない。日本の輸出比率が3―4割であり、"通商摩擦はない"というのが中国側の姿勢だ。ただ6600万トンという量は世界的に見れば影響は大きい」
――安価な中国鋼材、ビレットの市場影響が指摘されているが。
「中国の通関統計を時系列で見ると2013年の品種別で鋼塊・半製品は4000トンと、そう多くはない。10年前の03年は146万8000トン。05年には723万6000トン、06年には907万8000トンと多かった。変化は08年で131万9000トンに落ちて、以降は13年まで非常に低い水準になっている」
「鋼塊半製品や条鋼類、鋼板と分けて見てみると上工程は減らして、条鋼類はそれなりに維持、鋼板類ははっきりと増やしていることが分かる。鋼板は03年の182万トンから13年は2764万2000トンへ15倍の伸び率。条鋼は271万7000トンから2168万9000トンへ8倍。鋼板の中でも冷延薄板類(03年比15倍)と亜鉛めっき(同92倍)、表面処理鋼板(同294倍)を増やしている。鋼管も900万4000トン(同7倍)、特に継目無は511万9000トン(同9倍)と増加が目立つ」
「2003年からの10年間で中国はローグレードをそこそこに抑えて、付加価値材の輸出を増やしている。背景には技術力の向上と、外貨獲得の意図があると見られる」
「あくまでもローグレード品を抑えて高付加価値材を増やす輸出方針ははっきりしているが、14年の1―8月を金額ベースで輸出入を見ると、輸出平均価格は輸入を40%下回っており、安価の輸出と高値の輸入という構図は続いている。半製品や条鋼類の輸出が続いている理由を考えると、例えば重点企業の大手高炉メーカーは付加価値の高い鋼板を輸出しているが、中小高炉メーカーは転炉でありながらも条鋼類を生産しており、そこに需給のアンバランスがあるのではないか。結果としてそうしたところの製品が輸出に向かう事情がある。中小高炉の稼働率確保、失業対策、地域振興の側面も考えられる。そうした背景からローグレード生産に止まり、中身、品種構成の需給ギャップが生じて輸出に向かわせている」
「こうした中小高炉の生産構成のレベルアップが必要だが時間もかかると見られ、需給のアンバランス、中国からのローグレード品の輸出は続く。中国の粗鋼生産規模が年間8億トンから10億トンを目指して拡大するとすれば、そうした事情の中で輸出も増やさざるを得ない。内需は安定期に入っており、余剰分の輸出ドライブがかかる。政府として高付加価値材への転換を意図しているが、必ずしもそうなりきれない事情が、中小高炉、地方のメーカーにはある。6600万トンの輸出が1億トン規模へ増加していく中で、その構成が変わらない可能性もある」
――日本からの輸出先としても東南アジア諸国が挙げられている。
「東南アジア諸国は社会資本整備のために鋼材も基礎材、構造材となるローグレード品を中心とした需要段階にある。自動車や家電の鋼板類の需要が出て来る前段階で、いわゆる条鋼類が必要な段階。そこに中国鋼材が大きく影響している。東南アジアにも電炉、高炉の建設計画があるが、ベトナムにしてもタイにしても、中国鋼材の影響を受けているこの状況が続く可能性がある」
「安価な中国鋼材の流入影響を受け続け、電炉生産も伸びきれない側面がある。そうしたマーケットに対し日本の鉄スクラップがどれだけ伸び代を確保できるか。自国電炉の生産が抑えられ、鉄スクラップの消費量も伸びない。ベトナムが世界から300万トンの鉄スクラップを輸入しており、日本はまだ40万トン。伸び代はあるかも知れないが全量ということにはならない。ベトナムの300万トンの輸入規模を拡大するにしても中国材の影響もあって上限は抑えられている」
「韓国の自給化で行き先を失った日本の鉄スクラップ300万トンの代替にはならない。ベトナムだけでなく、タイ、インドネシア、マレーシア、東南アジアの他の国々のいずれにしろ中国鋼材の輸出ターゲットになっている。またインドネシアとマレーシアは還元鉄を使用しており、それほど鉄源を必要としていない。具体的にはタイとベトナムしか日本からの鉄スクラップの行き先はない。しかしタイは日本の自動車、家電関連企業の進出により、そこから発生する新断スクラップは市中発生の6割を占める。ヘビースクラップの輸出先としては期待しにくい。日本から鉄スクラップの新たな行き先は東南アジアには見出しにくい」
――インドへの輸出の可能性は。
「そうなるともう新たな向け先はインドしかない。ただ、インドにも国営の高炉メーカー、上工程を持つ電炉メーカーがある。電炉シェアが6―7割と高いとは言え、実態は高炉メーカーに近いところがある。その他の電炉は誘導炉など小規模のメーカーが多く、そうした相手と商売をしていくのは大変だろう。遠距離という問題もあるが、それでも開拓していかなければならない」
「今後の日本からの鉄スクラップの輸出先を考えると、韓国向けで余剰する300万トンのうち、ベトナムに100万トン、その他東南アジア諸国に100万トン、残り100万トンはインド、という方向に行くしかない。ただいずれも可能性としては厳しく、特にベトナム以外は期待値に過ぎない」
――日本の鉄スクラップ需給の見通し。
「こうなると日本の鉄スクラップをどういうところへ輸出できるか、という議論ではない。余剰スクラップを国内でどう使うか、ということになる。余剰した鉄スクラップを国内の製鋼資源としてどう使うか、国内での使用方法を再検討するべき。その時に市場原理に任せてしまうと限界が出てくるのは電炉業界。今もすでに電力コストの上昇で非常に厳しい。しかし、鉄鋼循環を支えているのは電炉業であり、国策として継続できる方向性を考える必要がある。電炉業はリサイクルの中核になっており、なくしてはいけない」
――日本の鉄鋼蓄積と鉄スクラップの発生状況。
「日本の国内発生は伸びない。鉄鋼蓄積の仕方を見ると、1970年代と90年代にそれぞれ山がある。70年代は高度経済成長を背景にどちらかと言えば重厚長大型の鉄鋼蓄積。90年代を越えてそれ以降は社会が成熟し、軽薄短小型――情報通信関係など薄物の鉄の使われ方、鉄鋼原単位の小さいものとなっている。今の需給に反映されているのは70年代の蓄積分。その後の90年代の蓄積分が鉄スクラップとして発生してくるのは30年経った2020年頃。直近までの建築物の建替え更新もピークを越え、これから出て来るのは軽薄短小型の蓄積を反映したものとなり、量的には望み薄となる。ただ13億トンの蓄積が前提となっており、これからの発生はほとんど横ばいで動くのではないか」
「1998年から2008年の10年間に老廃スクラップ発生は約800万トン増えた。この間に中間処理業者でシュレッダーやギロチンの基数の増設や大型化が進められた。背景としては非常に順調な発生があった。ところが09年にリーマン・ショックの影響で急激に落ち込む。10年以降徐々に回復したもののいまだ伸び悩んでおり、この状態がずっと続くと考えられる。現状設備は過剰な状態にある。稼働率はギロチンが平均50―60%、シュレッダーが35%程度と、業態として例えばこの先10年続けるのは体力的に難しい」
「これから軽薄短小型の鉄鋼蓄積から発生する鉄スクラップによりH2以下のローグレードの流通量が増えてくる。混ざり物の多い、あるいは薄物が増えてきている。電炉にとっては歩留りが悪化。それに希釈配分が必要になり原料コストが上昇する。要するに発生量はそれほど期待できず、品質も落ちてくるという発生の問題がある」
――業界として対応策は。
「そうした前提で中間処理業者はどうしていくべきか。まず三代目への世代交代の時期を迎えているが、なかなか後継者がいない。発生量が横ばい、品質も低下し売り上げは減少する。リーマン前に投入した設備過剰もある。各種リサイクル法の整備により鉄リサイクル業の"うま味"も低減している。また中国系バイヤーの存在が集荷過当競争につながっている。対策として、輸出協同組合や、グループ・ホールディングス化、自治体の粗大ゴミや非鉄など扱い品目の多様化、多業種からの参入、国外への転進などすでに動き始めている。中間処理業者は真剣に将来を考える時期、時代に流されず自分たちの業をどうしていくか、問題意識を持っていくべきと思う」
「電炉による鉄スクラップ需要も低下する可能性がある。高炉も今はなかなか買わない。海外の市場も限られてくる。それらを見ているだけでは仕方ない。高炉が買えるようなものを作るとか、協力して使ってもらうとか。高炉にも働きかけなければいけない。2008年の忙しい時には転炉鋼の鉄スクラップ配合比は15%まで上昇した。今は高炉溶銑で足りている状況で、市中スクラップは不要になっている。さらに今後高炉材の輸出も今の4000万トンをピークに減少していくことが考えられる。輸出先となっている東南アジアでも自国の高炉が立ち上がってくる」
「今の仕組みでは高炉も市中鉄スクラップを買う状況にない。ただ、もう少し長い目で見たとき、国内に有効な資源があるのならこれを使わない手はない。そういう発想を持って、新製鋼法――高炉や電炉だけでない、その中間に位置するような製鋼法の技術開発が進めばどうか。輸入鉄鉱石の代替が少しでもできる、そういう技術開発が必要になっている」
「ただ、やはり核になるのは電炉メーカーであることに揺るぎない。今も鉄スクラップの使用量は年間2600万トン。13年間で消費量は800万トン減少したが2030年にはどうなっているか。例え年間2000万トンに落ちていたとしても電炉が使用する鉄スクラップの量は最も多い。電炉使用と輸出で減少した分は高炉メーカーが引き受ける、そうした発想をしていかないと巷に鉄スクラップが溢れることになってしまう。輸出がどうなるか、ということを超えて、日本全体の資源バランス、鉄鋼バランスへと視点を拡大して、全体的に鉄鋼循環をどう考えるかが必要なのではないか」
(千葉 健司)
▼林誠一(はやし・せいいち)氏=66年3月、明治大政経学部卒業。76―95年、新日本製鉄・総合調査部に在籍中、鉄スクラップ需給調査を担当。89―95年、日本鉄源協会調査研究委員会委員長に着任。日本の鉄鋼蓄積量推計、鉄源流通調査、アジア鉄源需給見通しなどを実施。その後、日鉄技術情報センターを経て、06年7月、鉄リサイクリング・リサーチを設立。44年1月生まれ。