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2024.12.20
2023年1月19日
大阪、地域と町工場つなぐ/九条、「鉄の町」の隆盛再び/若手発信「カンバン」町彩る/住民への認知深め人材獲得へ
鉄の加工工場が多く立ち並ぶ大阪市西区の九条地区。「鉄の町」として曲げ・切断・穴開けといったさまざまな加工を得意とする町工場が集まり、互いに協力しながら発展し続けてきた。しかし、町工場の数は次第に減少し、取り巻く環境は厳しい状況が続く。てづくり工場組合では、そんな九条を再び盛り上げるべく町工場の後継者たちが集結。地域を巻き込んだ取り組みを行っている。
町工場後継者たちの挑戦
大手企業の影響力が増している鉄鋼業界で、これから町工場を受け継ぎ、守っていくにはどうしたらいいか…。十数年前、大手IT企業から家業である鋼材加工の溝西鉄鋼へ戻ってきた櫻井宏充代表は、この業界の厳しい環境を目の当たりにした。生き残るには他社とは違うアプローチで、「伝える力・発信力」が必要だと感じた。他社の取り組みを分析し、自分たちは何を活用できるのかを考える中で、視点を変えることに着目。「鉄の町・九条」を新しい見せ方で、地域創生・後継者不足解決につながる情報発信を始める。
歴史ある産業集積地の九条を地域ブランド化するため、2015年に「てづくり工場組合」を後継者仲間とともに設立。鉄をあつかう町工場の技術を発信したいという思いを込め、「てつ(鉄)」と「ものづくり(製造業)」を掛け合わせた「てづくり(手づくり)」は自分たちの技術を表している。現在は、溝西鉄鋼、黄山金属プレス工業所、山市鉄鋼、土井商店、柊谷熔接所、森鋼材、田村商店の7人が集まる。
看板で町を一つの工場のように
普段自分たちが作っているものは一般の人たちには目にとまりにくいもの。各社が持っている技術を活用し、目に見えるものを作ろうと立て看板を制作・販売する「カンバンまちfactory」を立ち上げた。
「新型コロナウイルスが流行し始めた頃、なにか地域を盛り上げることはできないかと模索していた」と櫻井代表。そこで、町工場の加工技術が連携したサステナブルな看板を町に設置する「カンバンノアルマチ」プロジェクトを始めた。ビジネスから外れた地域貢献につながる取り組みとして、自分たちの工場をはじめ、小学校や飲食店、美容室など町中に「カンバン」が広がっている。
看板の土台は丸棒やH形鋼を加工し、丸みを帯びた看板は統一感とかわいらしさを演出。工場で出た廃材を利用しており、コストがかからずSDGsにつながっている。現在、九条の17カ所に設置されており、オリジナルデザインでそれぞれの思いを伝え、九条の町をつないでいる。
昔の九条と今の九条
九条の町が位置するのは大阪市内を流れる安治川沿い。「鉄の町」として栄えた歴史は江戸時代までさかのぼる。船大工の住処となっていた九条地区は、鋼材やねじ・釘の産業地として多くの工場が並んでいた。
「小さかった頃はもっと町工場が多かった。町工場がある風景が当たり前の日常の中で過ごしてきた」と櫻井代表が話すように、かつては工場が集まっていた場所も今では住宅が増え、騒音や環境の影響でトラブルになるケースも少なくない。「住工共存」を目指す中で、メディアに出ることが住民の安心につながり、互いに分かり合えるのではないかと櫻井代表は考える。
地域とのつながり
地元の子どもたちにものづくりの現場を知ってもらうため、工場見学会やワークショップなどのイベントを開催している。製造業の魅力を伝え、興味を持ってもらうことで将来、ものづくりに携わる人が一人でも多く増えればと願う。
産学連携にも力を入れており、大阪商業大学の池田ゼミとフィールドワークを通して、九条の小学校や公園などにモニュメントを設置する活動も実施した。本年度は「カンバンノアルマチ」の普及に一緒に取り組んでいる。「学生の力もあってこのプロジェクトは町工場以外にも広がった。さまざまな視点・考えのアイデアが集まり、われわれも良い刺激になった。学生にとっても、社会人と接する良い機会になっている」と櫻井代表は手応えを感じている。
九条という町のこれから
「家業の継続と発展を目指し、地域・自社のブランディングを進めることで、九条で働きたいと思ってくれる人を増やしたい」(櫻井代表)。カンバンを九条の町に広め、それぞれが連携しながら高め合う。既存の価値観にとらわれず、地域・自社の価値・メリットを追求することで、町工場の3Kのイメージを変え、人材採用にもつなげる。
九条の強みは、加工技術がそろっているところ。素材から加工、表面処理まで全部一つの町で完結する。「お互い切磋琢磨しながら、技術の相談をし合う。すぐに次の加工工程の町工場に持っていくことができるため、納期も早く、単価も抑えられる。九条とはそういう町」と櫻井代表。良き伝統を受け継ぎながら、「町工場ってかっこいい」と思ってもらえるような時代に合った「ものづくり×町づくり」に取り組んでいく。
(篠原 沙綾)
町工場後継者たちの挑戦
大手企業の影響力が増している鉄鋼業界で、これから町工場を受け継ぎ、守っていくにはどうしたらいいか…。十数年前、大手IT企業から家業である鋼材加工の溝西鉄鋼へ戻ってきた櫻井宏充代表は、この業界の厳しい環境を目の当たりにした。生き残るには他社とは違うアプローチで、「伝える力・発信力」が必要だと感じた。他社の取り組みを分析し、自分たちは何を活用できるのかを考える中で、視点を変えることに着目。「鉄の町・九条」を新しい見せ方で、地域創生・後継者不足解決につながる情報発信を始める。
歴史ある産業集積地の九条を地域ブランド化するため、2015年に「てづくり工場組合」を後継者仲間とともに設立。鉄をあつかう町工場の技術を発信したいという思いを込め、「てつ(鉄)」と「ものづくり(製造業)」を掛け合わせた「てづくり(手づくり)」は自分たちの技術を表している。現在は、溝西鉄鋼、黄山金属プレス工業所、山市鉄鋼、土井商店、柊谷熔接所、森鋼材、田村商店の7人が集まる。
看板で町を一つの工場のように
普段自分たちが作っているものは一般の人たちには目にとまりにくいもの。各社が持っている技術を活用し、目に見えるものを作ろうと立て看板を制作・販売する「カンバンまちfactory」を立ち上げた。
「新型コロナウイルスが流行し始めた頃、なにか地域を盛り上げることはできないかと模索していた」と櫻井代表。そこで、町工場の加工技術が連携したサステナブルな看板を町に設置する「カンバンノアルマチ」プロジェクトを始めた。ビジネスから外れた地域貢献につながる取り組みとして、自分たちの工場をはじめ、小学校や飲食店、美容室など町中に「カンバン」が広がっている。
看板の土台は丸棒やH形鋼を加工し、丸みを帯びた看板は統一感とかわいらしさを演出。工場で出た廃材を利用しており、コストがかからずSDGsにつながっている。現在、九条の17カ所に設置されており、オリジナルデザインでそれぞれの思いを伝え、九条の町をつないでいる。
昔の九条と今の九条
九条の町が位置するのは大阪市内を流れる安治川沿い。「鉄の町」として栄えた歴史は江戸時代までさかのぼる。船大工の住処となっていた九条地区は、鋼材やねじ・釘の産業地として多くの工場が並んでいた。
「小さかった頃はもっと町工場が多かった。町工場がある風景が当たり前の日常の中で過ごしてきた」と櫻井代表が話すように、かつては工場が集まっていた場所も今では住宅が増え、騒音や環境の影響でトラブルになるケースも少なくない。「住工共存」を目指す中で、メディアに出ることが住民の安心につながり、互いに分かり合えるのではないかと櫻井代表は考える。
地域とのつながり
地元の子どもたちにものづくりの現場を知ってもらうため、工場見学会やワークショップなどのイベントを開催している。製造業の魅力を伝え、興味を持ってもらうことで将来、ものづくりに携わる人が一人でも多く増えればと願う。
産学連携にも力を入れており、大阪商業大学の池田ゼミとフィールドワークを通して、九条の小学校や公園などにモニュメントを設置する活動も実施した。本年度は「カンバンノアルマチ」の普及に一緒に取り組んでいる。「学生の力もあってこのプロジェクトは町工場以外にも広がった。さまざまな視点・考えのアイデアが集まり、われわれも良い刺激になった。学生にとっても、社会人と接する良い機会になっている」と櫻井代表は手応えを感じている。
九条という町のこれから
「家業の継続と発展を目指し、地域・自社のブランディングを進めることで、九条で働きたいと思ってくれる人を増やしたい」(櫻井代表)。カンバンを九条の町に広め、それぞれが連携しながら高め合う。既存の価値観にとらわれず、地域・自社の価値・メリットを追求することで、町工場の3Kのイメージを変え、人材採用にもつなげる。
九条の強みは、加工技術がそろっているところ。素材から加工、表面処理まで全部一つの町で完結する。「お互い切磋琢磨しながら、技術の相談をし合う。すぐに次の加工工程の町工場に持っていくことができるため、納期も早く、単価も抑えられる。九条とはそういう町」と櫻井代表。良き伝統を受け継ぎながら、「町工場ってかっこいい」と思ってもらえるような時代に合った「ものづくり×町づくり」に取り組んでいく。
(篠原 沙綾)
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