2022年3月25日

4月引受分 薄板全品種1万円上げ 日本製鉄販価、8カ月ぶり

日本製鉄は24日までに、国内店売り・リロール・パイプ・軽量形鋼向け熱延黒皮・酸洗・冷延・めっきの全薄板品種の販売価格を、4月引受分(5月出荷相当分)からトン当たり1万円(約1割相当)値上げすることを決め、需要家・流通業者などに要請を開始した。2021年9月出荷以来、8カ月ぶりの値上げで、2020年度下期からの累計値上げ幅では熱延黒皮はトン当たり7万円、酸洗・冷延・めっきは同7万5000円となる。すでに昨年9月までの値上げについては、完遂したとしている。

 薄板を取り巻く環境は、もともと昨年から世界的にカーボンニュートラルの動きが本格化する中で、環境対策を意識した鉄鋼生産や輸出の抑制などの中国の産業政策の転換、環境対策に関連する形で起きた電力不足による中国での諸資材の高騰などがあり、鋼材需給の引き締まり・先高観の傾向があった。ここにきて原料産地で天候不順、ロシアのウクライナ侵攻が加わり、世界的に鋼材需給が急速にタイト化。中でも欧州では半製品拠点であったロシア・ウクライナからの供給途絶で鋼材市況が急騰、足下ではホットコイルでトン当たり1500ドル近くに達している。インドやアジアミルも欧州向けの輸出を増加させているもようで、アジアの鋼材需給についても引き締まった環境に変わっている。

 一方、国内については自動車の半導体に代表されるサプライチェーンの断絶などで薄板3品在庫が1月末時点で460万トンを超えるなど増加し、在庫調整の途上にある。日鉄の店売り向け受注についても「トレンドとしては低い水準」(薄板営業部)としている。ただ、日鉄では半導体をはじめたとした各種サプライチェーンのネックといった特殊要因を除くと、電機、自動車、建築・建材関連などの実需は底堅く、日鉄・名古屋製鉄所の高炉改修や各ミルの定期修理など供給減要素も加わり、市場自体に大きな崩れは起きていないとみている。自動車などの不安定さは続くものの、日鉄によると店売り分野に限ると「4―6月中には在庫調整は完了する」としている。

 こうした中、円安傾向などもあって、原料・物流費・諸資材などを含めたコストが大きく上昇、4―6月は前期に比べ鋼材換算でトン当たり3万円を超える規模にあるとされる。ウクライナ情勢などによってはさらに不安定化する懸念もあり、日鉄では今後の国内のマーケット動向などを慎重に見極める意味も込め、4月引受分からの値上げを決めた。さらに今後も大きな変動が予想される需給・国内外市況・諸コスト動向などを見極めながら継続的に価格改定を検討・実施する意向を示している。ひも付き需要家に対しても、各種コストアップや低生産性・低採算注文の採算改善も含めた価格改定を申し入れる予定であるほか、日鉄鋼板や日鉄建材などグループ会社も二次製品の追加値上げの検討に入った。

 すでに東京製鉄が今週初めに値上げを表明、これに続いて今回の日鉄の値上げ決定で、一時停滞していた国内薄板市況の潮目は大きく変わるものとみられる。ただ、鋼材自体が過去最高水準の価格帯になるほか、急速な円安によって木材・セメントなどの資材は軒並み上昇しているだけに、大都市圏を除いた地域などでは設備投資や生産計画の見直しなどの動きも散見され、内需の縮小を懸念する声も聞かれる。

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