日本製鉄の橋本英二社長は8日の記者会見で2020年度の単独営業黒字転換への道筋を示した。新型コロナウイルスの影響など新たな下押し要素や中国鉄鋼企業との競争など状況は厳しさを増す。業績悪化を「この数年の実力不足の累計」としつつ、いかなる事業環境下でも黒字転換を実現する新たな目標に向け、「大きな痛みを伴う改革」に臨む。
冒頭、新型コロナウイルスの影響、当面の生産対応、単独営業黒字転換への道筋、グループの目指す姿と基本戦略の4点を説明し、「4―6月期の粗鋼生産は700万トン、稼働率は6割ギリギリまで落ち込む。7―9月以降は全く見通せない。私見だが、上期末までにコロナが収束しても20年の全国粗鋼は8000万トンを下回る可能性がある」と指摘。
当面の生産対応について「さらに踏み込んだミニマム操業に徹し、下方弾力性を追求する以外にない。15本ある高炉のうち6本の生産を今回一時休止する。市場動向によっては追加の構造対策として休止せざるを得ない設備も出てくる可能性がある」と話した。
2月上旬策定の20年度当初計画で黒字のめどを立てたが、「1―3月はトラブルが相当減り、コストは予算を達成し、ひも付き価格も不十分とはいえ本格的に進ちょくしていた。状況は一変したが新たな悪化要素を織り込んでも黒字転換の旗は降ろさない。コロナ後の市場構造の変化も踏まえ具体策を検討していく」と強調した。
グループ戦略は最適生産体制への早期移行とともに「戦略商品力の強化による国内事業の立て直し、選択と集中による海外事業の深化の2つが基本方針。海外市場で覇権を拡大する中国ミルへの対抗戦略にもつながる」と語った。一問一答は以下の通り。
――決算の評価は。
「18年度から19年度は需要環境の悪化影響が大きい。減損損失を含めて(赤字決算は)ここ数年の実力不足の累計と反省せざるを得ない。製鉄所の減損や国内外の事業における減損も同様だ。需要環境は18年度上期までは良かったので減損で膿を出して良しとするのではなく、なぜ膿がたまったのか。これをきちっと把握するように指示している。二度と膿を溜めない」
――実力不足の累計とは。
「つくる力、売る力という基本的な部分で、ここがうまくいっていなかったが、改善してきている」
――製鉄所の合理化については。
「6人の新所長と話し合いを行っている。コロナの影響あるが、発表したのが昨年11月。20年4月以降、何をやるかについては具体化が進んでいたのでワークが止まっているということはない」
――高炉6基を休止するが、総量ではどれほど落ちるのか。
「出銑ベースでは3割だが、稼働を継続している高炉についても出銑を落とすことになっており、3割以上の減産となる」
――今後の価格政策はどのように。
「ひも付きのお客様向けと市況分野と分けて考える必要がある。一般輸出のホットコイルと、例えば自動車のお客様に出している製品とでは全く商品が異なる。上工程からの造り込みが違うので市況品と切り離して考えないといけない。ひも付きは需給の変動と直接関係がないという考え方だ。商品開発力、海外の供給網を含めた設備投資、ソリューション提案など経営資源のほとんどはひも付き向け。商品の価値なり貢献を適切に価格に反映していただかなければならない。働き方改革など社会的背景を持ったコスト増要因はあるが最大限のコスト吸収努力をした上で公平な分担を真摯にお客様にお願いしていきたい」
「一般市況対応については直接コントロールすることは不可能だ。中国が全世界の5割以上の粗鋼生産量がある中で、当社は7000万トン。したがって採算が取れない分については生産能力の構え方を見直すしかない。すなわち、市況形成分野(市況品)の依存度を下げていく。最適生産構造体制を進め、需要見合いの生産あるいは現地化をする、ということだ」
――瀬戸内製鉄所呉地区について。2023年9月末をめどに全設備の休止を掲げているが、スケジュールは。
「現時点では分からない。呉で生産している製品を他地区で代替しなければならない。量的にも品質的にも。ただ、前倒しで実行できるように最大限の努力をする。お客様や、労働組合、地域の方々のご理解を得ないといけない」
――協力会社含めて呉に残りたいと考えている従業員や関係者の雇用や支援は。
「呉製鉄所の全体を閉鎖するわけで、当社としては他の製造拠点に転勤をしていただくことで対応していく。オールジャパンで雇用を守り抜くというのが基本的な考え方だ」
――新型コロナの影響が顕在化する前と後で鋼材需要全体にどんな変化があるか。
「需要の変化を考えるときには2つのことを考える必要がある。ひとつは内需。6000万トンのうち、(1)2000万トンが建設、(2)2000万トンが国内向けの製造業、(3)2000万トンが間接輸出だが、この(3)がポイントになる」
「また鋼材の直接輸出は国内粗鋼生産量1億トンのうち4000万トンある。高炉品は30年間で内需が3000万トン強落ちた。これに対し、輸出を増やすことで一定の生産量を維持してきた。そこで鋼材輸出がどうなるかがもう一つのポイント。輸出相手国は新興国が多いが、購買力の低下が懸念される。また供給源として中国の影響は大きい。現状の輸出規模を維持するのはどうか。これまで、全体の45―50%が輸出だったが、(新興国など)現地にしっかりした供給力がない中でやってきたもの。地産地消、各国の自国産化が進めば、粗鋼生産1億トン維持するのは難しいのではないか」
――87年当時の合理化と現状は何が違ってどういう厳しさがあるか。
「大きく2つある。
1点目は国際競争環境がより厳しくなっているということ。2000年以前は中国の存在は鉄鋼産業では考えられなかった。鉄鉱石、石炭という高炉原料価格が高止まりする中、鋼材製品が安いという現象は起きなかった。また一国で世界の粗鋼生産量の過半を占める現状がある」
「2点目は、現在の基幹設備のうちの大型設備、あるいはエネルギー(電力、水)を更新さざるを得ないこと。この老朽更新費用が巨額である点。以前は国内メーカーの設備老朽化はそれほどでもなかった。足元では修繕費が上がっているなど、固定費が圧縮できにくくなっている。これがより難しくしている」
――君津の高炉を休止し大分を稼働継続させるのはなぜか。
「ひも付き受注の状況、コスト競争力など総合的に判断した」
――室蘭製鉄所の高炉改修についてスケジュールは。
「改修を2カ月弱前倒しで行う。計画を決めたときは需要が旺盛で、母材の備蓄に時間を要すると見ていたが、世界景気がスローダウンし、コロナの影響もあって、結果としてそれが早く進んだからだ。室蘭の製品は自動車向けが多いが、改修により競争力の質・量ともに上げていくことに変わりはない」