(宮本副社長)
――減損損失により大幅赤字となったが、どの程度の規模感か。
「過去最大の赤字。リーマン・ショック後は相当落ち込んだが、すぐに回復した。また、単独赤字も過去なかったレベル。旧新日本製鉄、旧住友金属工業の統合の際は和歌山、堺、広畑で減損したが、今回は名古屋、鹿島という主力製鉄所で大きな減損を計上することになった」
――通期の見通しについて。
「足元は減損を除くと事業損益として540億円となるが、一過性で520億円あり、実力利益は年度で1060億円。下期だけで見ると厳しく、実力は100億円程度となる。世界の鉄鋼需要は先行きの不透明感が強く、楽観できない。国内も当面厳しいとみている。日本の製造業は、新型肺炎によって中国に関わるサプライチェーンに影響が出る懸念もある。来期は、今期の420億円の災害損失の戻りがあり、減損損失によって600億円程度の償却費減が見込まれ、コスト改善効果もある。ひも付き価格の改善による効果を加えて黒字化したい」
(右田副社長)
――呉製鉄所はなぜ休止するのか。
「休止に関する全般の考え方として、競争力ある一貫製鉄所を中心とした全社最適生産を構築することを基本とした。呉製鉄所はミル、ラインの実力を評価したが、高付加価値商品を一貫で製造する実力が相対的に劣位だったので休止し、優位な製鉄所ラインに生産を集約する。効率的なところで集中生産する。主な製鉄所は建設後約50年を経過するが、全ての設備を老朽更新するわけにはいかず、集約したラインで老朽更新投資を行っていく」
――休止という表現だが、再稼働する考えはあるのか。閉鎖ではないのか。
「設備を止めて、人員も移動し、設備もいずれ除却解体する。閉鎖していくことになる。意思決定の変更がない限り再稼働は想定していない」
――呉製鉄所の地元経済、雇用への影響について。
「大変重要な問題と捉えている。呉製鉄所が一番大きな影響を受けるが、それに限らず設備休止により、従事する社員、協力会社の社員にも影響が及ぶ。過去にも大規模な合理化をしたが、雇用の場を確保するのに最大限注力してきた。雇用の場の確保を最優先していきたい。協力会社についても最大限の取り組みを図る」
――今回の設備再編で、どの程度の雇用に影響するか。
「直接の雇用で約1600人になる。協力会社はそれ以上になるだろう」
――どのように対応していくのか。
「グループの社員は、製鉄所内の配置転換をベースにするが、配置転換できない場合については職種、技能が活用できる他の製鉄所で活用していく。協力会社はそれぞれの経営者の考えがあると思うが、人手不足の現状も考えると、実務経験などを考えて、当社グループで活躍いただきたいと考えている」
――実現可能なのか。
「当社の主要な関係会社の年間採用者数を踏まえると現実的に対応可能と考えている。協力会社は経営者の意向、従業員の事情もあるため分からない部分はあるが、真摯に向き合い、丁寧に話しあっていく。採用と自然減の中で合理化の人員は吸収していく。それをうまくマネジメントしていきたい」
――希望退職はないのか。
「全く考えていない」
――定年延長への影響は。
「昨年4月に定年延長に関する方向性をアナウンスしたが、意思決定はしていない。どういうやり方が良いのか、調査・研究し、話し合っている。定年延長の時期に影響するかどうかは現時点で申し上げることはできない。定年延長は時代の要請であり、ニーズは変わるものではない。定年延長について方向性は変わらない」
――約500万㌧の粗鋼削減となるが、どのようなことを想定し、考慮したのか。
「将来の需要見通しを踏まえたうえで、今回の設備対策で確保する収益、需要家の皆さんに供給責任を果たしていく点、雇用を守ることなどを考えた。500万㌧で十分かどうかは分からないが、様々なプランを考えながら、環境変化に応じて必要な施策を実行していくことになる」
――いままで製鉄所、製造所を閉鎖するケースはあったのか。
「事業所の閉鎖について事例はある。直近では君津製鉄所東京地区を閉鎖するが、かつての東京製造所であり、川崎製造所を閉鎖した。鉄源を持つ一貫製鉄所を閉鎖するのは初めて」
――設備休止による約1000億円の直接的な収益改善効果を見込んでいるということだが。
「1000億円については固定費のウェートが高いが、コスト競争力が高いミルに生産を集約するので変動費の改善効果も見込める」
――効果はいつから出てくるのか。
「設備休止時期が一つの目安。最も遅いもので2023年度上期末めどとなるが、設備休止をしてすぐに効果が出るわけでない。一定の期間を得て効果が出てくる」
――構造改革はプラザ合意後に匹敵する規模だが。今回の危機をどのように位置づけているのか。
「過去の合理化との比較は難しいが、足元が極めて厳しい収益状況にある。将来的に国内市場は縮小していくだろうし、海外での競争も激化すると想定し、現状の生産能力は大き過ぎると考えて今回の対策に踏み切った。過去と比べると中国のプレゼンスが全く違う。原料サプライヤーとの関係、内需の見通し、地球温暖化対策などの状況も過去とは異なる」