11日に発生した東北地方太平洋沖地震は、東北の企業と住民に甚大な被害をもたらした。新日本製鉄が製鉄所を構える釜石や、電炉工場はじめ建材工場や物流など鉄鋼関連の事業所の多い仙台港に津波が押し寄せ、いずれも操業停止に追い込まれた。地場の問屋や鉄スクラップ業者、鉄骨加工業者など被害は想像に難く、従業員や工場の状況確認が急がれている。
「安否がつかめない従業員がいる」。仙台市内から南へ20キロの岩沼臨空流通工業団地に倉庫を持つ、関東大手問屋の役員は11日夜の電話取材に悲痛な声で答えた。団地は海岸から2キロほど。マグニチュード8・8の地震の後に、高さ2メートルの津波が直撃した。
同じ団地の別の大手問屋では、関東の本社社員が電話やメールで必死に連絡。12日午前にようやく、全員が高台に避難していたことが確認できた。
東北最大港の仙台港では、JFEスチールグループのJFE条鋼仙台製造所と東北スチールが隣接して電炉工場を操業。津波による車や流木によって幹線道路が寸断され、JFE条鋼仙台では500人強が管理センター事務所に避難した。電炉では、宮城県の伊藤製鉄所石巻工場や青森県の東京鉄鋼八戸工場も浸水し、停電によって操業を停止した。
豊かな海に恵まれた岩手県の三陸。宮古市で海洋構造物向けや、大船渡市で太平洋セメント向けなどの鉄骨加工業者や鋼材問屋が事業を営むが、狭あい地のため、事業所が海に面し、津波の被害を免れなかった。
東北最大の地場建材商社で、八戸市に本社を置く吉田産業は各営業拠点で大きな被害はなかったが、「地震より津波の影響が大きかった」(吉田誠夫社長)と、海岸に近い鉄鋼流通センターが1メートル以上浸水。その八戸で高炉向けに石灰石を採掘する住金鉱業は、鉱山に大きな異常はないものの、積出港が津波警報発令中(12日時点)のため、点検できない状態に置かれている。
鉄スクラップ業者で東北最大の青南商事では、従業員の無事を確認できたが、塩釜工場と仙台工場が津波の被害を大きく受けた。岩手県花巻市の今弘商店も被災はないが、停電から工場が停止。福島県須賀川市の大越工業も設備に支障はないが、従業員の生活環境の復旧を優先し、12日午後から荷受けと引取りを中止している。
東京電力福島第1、第2原子力発電所で事故が発生し、操業を停止している。東京電力と東北電力管内の電力供給力不足が生じる可能性が高まっている。JFE条鋼仙台は自動車向け特殊鋼棒線の需要が堅調であり、他の異形棒鋼電炉も復興用資材の供給を担うため、それぞれ本社と協力して対策を講じる見込み。異形棒鋼電炉では、すでに関東地区の電炉に応援要請する方向で検討している。
仙台市内の高炉メーカーや商社の事業所では、伊藤忠丸紅鉄鋼やJFE商事などが従業員の安否を確認。日鉄商事は釜石営業所、住金物産は秋田営業所でも人災がなかった。
大阪本社に対策本部を設置したSRGタカミヤは、青森東通センターが地震発生後の避難勧告で退避し、従業員の安全を確認。岩手県奥州市のねじメーカーのナテックは従業員の被害なく、設備被害や生産への支障を確認中。特殊鋼のウメトク東北営業所も被害を調べている。
ただ、サンドビック瀬峰工場がライフラインを断たれ、稼働再開のめどが立たず。サステックやスチール、アラヤ特殊金属は東北事業所と12日時点で連絡が取れず、状況をつかめていない企業も多い。海岸部や山間部に事業所を持つ地場の企業も少なくなく、なお予断を許さない状況が続いている。