――総合素材グループは2019年4月、エネルギー事業グループの炭素本部、金属グループの鉄鋼製品本部、化学品グループの機能素材事業と生活産業グループの住宅資材事業を統合した機能素材本部の3本部体制で始動した。炭素本部の初年度の取り組みと手応えから。
「三菱商事は7営業グループを10営業グループに括り直したが、総合素材グループは、その内最も多い4営業グループより事業が集まっている。それぞれのグループから来た事業は、主に川中・製造業・素材という共通項を持っており、課題も似ていることから、課題解決に向け知恵を出し合ってきた。炭素本部としては、三菱商事の中でも歴史が長く、その意味では深い知見やネットワークを持つものの、ビジネスモデル自体は昔から大きくは変わっていないことから、次世代に向けての収益モデルを創出するため、初年度は課題の洗い出しや成長分野の見極めを進めてきた」
――炭素本部の事業内容は。
「鉄鋼業、アルミ産業が主要な対面業界。おもな商材は石炭コークス、ニードルコークス、人造黒鉛電極、コールタール、燃料用石油コークス、カーボンブロック、アノード(陽極)など。鉄鋼製品、アルミ地金、タイヤ・ゴム製品、リチウムイオン電池、発電燃料などの原料、素材を扱っている。主要関係会社は、石炭系ニードルコークスを製造する韓国のPMC Tech、高炉ブロックやアルミ製錬用カソードを製造する日本電極、アルミ製錬用アノードを製造する中国のMZASがある」
――総合素材グループは単体約500人、連結約1万人。炭素本部の組織、陣容は。
「炭素原料部、石油コークス部の2部構成で、単体約70人、事業投資先を含む連結先の人員約700人。本社のほか上海、北京、ドバイ、デュッセルドルフ、ヒューストンに駐在員を配置。MZASがある江蘇省やPMC Techがある韓国にも数人が出向している」
――主要商品は。
「北米から輸入する燃料用石油コークスが取引量としては大きい。製油所で熱分解装置から製造される石油製品で、セメント業界や電力会社に供給している。鉄鋼業界向けでは、三菱ケミカル香川事業所の石炭コークスの海外高炉ミル向け輸出を手掛けている。その他、高付加価値商品として人造黒鉛電極やその原料となるニードルコークスも取り扱っているが、世界市場が百数十万トンで市場規模はそれほど大きくない」
――足元の市場環境を。
「世界経済の停滞による鉄鋼市況の低迷や過年度の需給逼迫の反動による電極在庫の積み上がり等により、電極をはじめ炭素材全般の市場環境は極めて厳しく、回復には1年から1年半程度はかかると見ている」
――中国は粗鋼生産が増えている。
「電炉鋼は好調時に80%だった操業率がいまだ60%程度にとどまり、電極はまだ在庫調整局面にある。中国を除いた世界の電極需要の回復も、中国での在庫調整が進んだ後となることからかなり先になると考えられ、厳しい局面は続く」
――「中期経営戦略2021」で取り組んでいるテーマは。
「ビジネスを創出、育成して、収穫し、次世代の事業へ入替えをしていく『循環型成長モデル』の構築を目指しており、炭素本部としても同様のサイクルで主体的に機能を発揮できる成長分野に経営資源を投入していく」
――ターゲットを。
「世界の鉄鋼業の高炉プロセスから電炉プロセスへのシフト、自動車産業の内燃エンジン車からEVへのシフトという大きな2つのマクロトレンドがあると考えている。これらをターゲットとして経営資源を振り向けていく」
――高炉から電炉へのシフトの対応とは。
「まさに検討中の課題だが、電炉で使われる電極、その原料となるニードルコークスの強化、という従来の考え方を超えてモノからコトへというモデルに、三菱商事としてどのような機能を以て貢献していくかがポイント」
――EVシフトへのアプローチは。
「例えば、POSCOケミカルがこのほど、EV用リチウムイオン電池の負極材の工場建設を開始した。POSCOケミカル、三菱ケミカル、三菱商事の合弁会社であるPMC Techでは、電気炉用の人造黒鉛電極の原料となるニードルコークスを製造しているが、ニードルコークスは負極材の原料でもある。EVは中国で先行し、欧州で急速に広がり、日本も続くと考えられる。その様なトレンドの中で、社内の関係部局等とも協業し、負極材への原料供給にとどまらず、EVへとつながるサプライチェーンを創出していきたいと考えている。鉄鋼製品本部の事業会社、メタルワンは電池のケースを扱い、金属資源グループは幅広い電池材料ビジネスに関わっている。自動車・モビリティグループはEV関連ビジネスを展開している。それぞれのレベルで解決すべき課題があり、三菱商事グループ企業を含めて情報を共有し、循環型成長モデルを創出していきたいと考えている」
――タスクフォースなどの横断的組織は。
「1+1を2にするだけではビジネスモデルは変わらない。総合素材グループ自体が一種のタスクフォースのような取り組みであり、本部毎というような組織を意識せずに自然体で連携している」
――鉄鋼製品本部、機能素材本部との連携は。
「鉄鋼製品本部は鋼材、機能素材本部は塩ビ等の化学品、硅砂、セメント、木材・建材等を扱っている。3本部に共通するのが素材産業という川中に位置し、製造業を結びつけるサプライチェーンを構成しているところ。現状ではいずれも似たような産業課題を抱えていることから、本部間の人事交流も積極的に進めており、自然体で連携が始まっている」
――鉄鋼、アルミともに中国が世界の6割を生産する。
「中国企業はあらゆる産業に進出し、技術も猛烈なスピードで進化してきている。炭素材の事業を推進する上で、中国とどう向き合うかは重要な課題となっている」
――世界的には「脱炭素社会」への対応が求められている。
「多くの産業が脱炭素を含めて環境問題への対応を迫られており、SDGs経営に課題とビジネスチャンスがある。例えば炭素材は構造材、反応材として展開してきたが、これからは環境問題へのニーズを起点として、負極材を代表とした機能材に用途の広がりが進むと思われる。ちなみに、炭素原子60個で構成された20面体のサッカーボール状の分子『フラーレンC60』の発見でノーベル化学賞を受賞した英国のクロトー氏は、『19世紀がFe(鉄)、20世紀はSi(シリコン)で、21世紀をC(炭素)の世紀』と定義づけている。中長期的には、ぜひ炭素材で環境問題対応に貢献する事業を構想し、実現していきたい」
(谷藤 真澄)