建設業は国内総生産の約6%を占め、就業者数も503万人(2018年)を数える。鉄鋼業としても建設向けの鉄鋼内需は年間約2000万トンに上り、国内最大の需要分野に当たる。その建設業が今どのような問題に直面し、何に注力しようとしているのか。経団連副会長として財界活動も精力的にこなす日本建設業連合会の山内隆司会長(大成建設会長)に聞いた。
――足元、新型コロナウイルスの影響が長引き、建設業界を取り巻く環境も厳しさを増している。
「前期(2020年3月期)までは他業種と比べ比較的波が穏やかだったと感じるが、これから事業環境は厳しくなってくるだろう。特に大手建設会社にとって最大の発注元は民間企業の設備投資で、国内の景気動向に左右されやすい。幅広い業種が苦境に立たされており、設備投資は期待できそうにない。建設業もこれまでのように前途洋洋とはいかず、影響を受けるだろう」
――受注はかなりあるようだが。
「定量的なレベル感は難しいが、今期は間違いなく下振れ懸念が増すだろう。この業界に入って50年になるが、ここ数年はバブル期以来の底堅さを維持してきたもののこれまでが良過ぎただけで、景気をけん引した東京オリンピック・パラリンピック関連の投資も一巡した。今まで通りの受注量を確保できるとは考えておらず、これから厳しさが増すだろう」
――10年後、20年後の建設需要をどう予測する。
「建設投資は人口に比例するため、少子高齢化が進む日本では全体的に縮小する。ピークだった1992年度は84兆円で、ここ数年は東京オリパラを控えて持ち直す動きも見られたが、19年度は63兆円の見通し。人がいなければ学校や住宅などのニーズもなくなり、結果としてわれわれ建設業の需要もなくなる。人口減は構造的な問題で、建設業にもボディブローのように効いてくるだろう」
――少子高齢化の話が出たが、日建連では2015年に『再生と進化に向けて―建設業の長期ビジョン―』を取りまとめた。
「高齢化した建設技能者の大量離職問題に対応するためで、新規入職者が期待できない場合、14年度の343万人から25年度に216万人へ減少すると予測している。これをカバーするために若者を中心に90万人確保(うち女性20万人以上)するとともに、生産性向上による省人化で35万人分の仕事を賄うという目標を立てている」
「また、若い人が建設業に入りたいと思ってもらえるよう、処遇改善にも力を入れている。同ビジョンでは、賃金水準を20代で約450万円、40代で約600万円と設定した。建設技能者は、各建設会社の現場を複数掛け持ちするケースもあるが、いつどこの現場で働いたのかを今までは把握できていなかった。その情報をデータとして一元化し、経験やスキル、資格に応じた処遇を行うための業界横断的な基幹インフラとして、国土交通省が主体となり官民一体で進めているのが建設キャリアアップシステム(CCUS)である」
――週休2日制の定着促進なども含め、働き方改革を推進している。
「21年度末までに4週8閉所の実現を目指している。取り組みは徐々に成果を上げているものの、他産業と比べてまだまだ労働時間が長い。また、工期やコストが関係するため、推進には発注者の理解が不可欠である」
「現場の仕事は外での作業が多く体力を使うが、その分給料が高ければ、そこに魅力を感じる若者もいるのではないだろうか。若い世代にとって魅力のある産業にするためにも、処遇改善に引き続き積極的に取り組んでいきたい」
――現場での省人化も進んでいる。
「当社(大成建設)の話になるが、前回64年の東京五輪時に旧国立競技場を手がけ、昨年11月に新しい国立競技場を完成させた。建設に当たっては、人海戦術はやめようと決めていた。デザインのやり直しのため完成まで36カ月間と短い工期であり、他にも多くのプロジェクトを抱えていたので、生産性を上げるための省人化には積極的に取り組んだ。旧国立競技場は鉄筋コンクリート(RC)造主体だったが、今回はプレキャストコンクリート主体で屋根は全て鉄骨(S)造にした」
――建物のS造化が進んでいる。
「国交省の調査によると、3000平方メートル以上の建築におけるS造の割合は、ここ5、6年で15%ほど増えている。プレキャストやS造のメリットは、あらかじめ工場生産することで、現場作業を極力減らすことができること。トヨタ自動車さんの生産方式ではないが、現場にジャストインタイムで納入してもらい、現場は必要最低限の人数で組み立てに徹することができる」
――昔とは違う。
「私が現場にいた頃は、大きな図面を抱えて型枠大工や鉄筋工などの作業員に指示を出していたが、指示を出している人間が知らないうちに図面が変更されているといったことなども日常茶飯事だった。今は、タブレット端末で図面を見せながら指示を出し、変更も即座に反映されるのでズレがない。調達も電子化され、元請け、協力会社、鉄骨製作会社各々が作成した図面も共通化されることで生産性も格段に上がっている」
「よく自動車メーカーはアセンブリー(組立)産業だと言われるが、建設会社も工場が固定化していないアセンブリー産業だと思う。仕事が発注された現場が工場になり、そこへジャストインタイムで資材や人材を供給する。現場では、例えば資材置き場として使えるスペースが限られているなどさまざまな制約があるが、できる限り無駄を省いて仕事をこなす。それが現場責任者、プロジェクトマネージャーの腕の見せ所である」
――建物は一つ一つ違うため、車のように効率化を図るのは難しいと思うが。
「工夫次第だと思う。国立競技場の建設では、難工事だった屋根を252のユニットに区切り、地上で1ユニットごと鉄骨、木材、照明器具などを組んでクレーンで吊り上げた。当社では、グループ会社も含めて3つのプレキャストコンクリート工場を持っており、鉄骨も各地区に協力していただけるファブリケーターが存在する」
――輸入鉄骨が予定通り納入されず、現場が混乱したとの話も聞く。
「安価な海外ファブリケーターに発注し、予定通り現場に搬入されなかったケースもあったようだが、海外の建設会社やファブリケーターは年々レベルアップしている。当社と合弁を組む中国の大手建設会社である中国建築が施工中の超高層物件を以前現地で見学したが、技術レベルは日本のトップクラスの建設会社と全く遜色ない。われわれ日本の建設会社も中国に進出しているが、今後は中国の建設会社が日本へ進出することも念頭に置く必要がある」
――建築物、土木構造物ともに高度経済成長時に建設されたものが多い。これらの更新についてどう考える。
「18年にイタリアのジェノバで高速道路の斜張橋が崩壊したが、日本においても、インフラの老朽化対策が急務である。国交省の調査によると、日本には、建設後50年以上経過した道路橋が全国に20万橋以上、道路トンネルが2000本以上ある。しっかり検査をして計画的にメンテナンスをしないと、明日は我が身となるかもしれない」
――それには予算が必要となり、特に地方財政は心もとない。
「近年の公共事業予算は年間7兆円レベルだが、将来にかかる維持管理・更新費用は国交省の推計で年間5―6兆円に上るという。地方自治体では土木技術者の数も減っており、独自で点検できない自治体もあると聞く。日建連としても国や自治体と協力しながらやっていきたい」
――近年は自然災害が頻発している。日建連は関係機関と災害協定を結び、第一線で復旧、復興に当たっている。現場から見た防災・減災対策の必要性とは。
「最近気象関係の方から、明治時代に導入された雨量計が役に立たなくなってきたという話を聞いた。地球温暖化の影響からか、以前は想定していなかった南洋のスコールのような土砂降りが多く、ここ数年、また今年も九州での豪雨など大規模な災害が頻繁に発生している。さまざまな専門家を交えながら、その都度対策の見直しを図っていく必要がありそうだ」
――最後に、鉄鋼、鉄構業界に対する要望など。
「私が現場所長を務めていた頃、ある鉄鋼メーカーの耐火鋼材を採用し、鉄鋼業界紙に取り上げて頂いたことがある。土木・建築を問わず、建設業にとって鉄鋼はなくてはならない資材のひとつであり、鉄鋼、鉄構業界とは今後も互いに力を合わせてやっていきたい。また、海外で仕事をすると、日本製の材料に対する信頼がとても高いことを実感する。建設業の技術力と鉄鋼、鉄構業界の高品質で安心・安全をアピールし、国際競争力を磨きながら共に発展していきたい」(深田 政之)