近年多発する世界の気象災害。その原因と指摘される地球温暖化だが、温室効果ガスの排出増につながる電力多消費型のアルミ産業も変革を迫られている。ポストコロナのアルミ産業にどのような未来が待っているのか。
「2020年までにライフサイクルの観点からカーボンニュートラルを目指す。低炭素と認証された持続可能なアルミ製品の展開で次の段階に進むことができる」とノルウェーのアルミ精錬大手ノルスクハイドロのスベイン・ブランザグ社長は17年に低炭素地金を発表した際コメントした。
ノルスクハイドロはノルウェー5拠点で水力発電を使って製錬した低炭素地金REDUXA4・0と再生地金CIRCALの販売を強化している。露ルサールも追随して水力発電由来の地金ALLOWの拡販を進める。
世界大手がこぞって環境負荷の小さい地金精錬に舵を切った。背景には世界規模で急速に高まる環境問題への対応がある。アルミ地金1トンを造るのに1万5000キロワットの電力が必要。4人家族が年間に使用する電力の3―4年分に相当する大量の電力を消費する。精錬部門は年間1000万トン超の二酸化炭素(CO2)を排出しており、電力を石炭火力に依存している場合の地球環境への負荷は非常に大きい。
ノルスクハイドロのREDUXA4・0は従来の4分の1のCO2排出量で精錬が行える。1キロの生産に付き4キロまでCO2排出を抑えたことが名称の由来。水力発電に加え、風力、太陽光発電も用いて生産しており、将来的には1キロ当たりのCO2排出量を2キロまで抑える。各工程でのCO2排出量は、ボーキサイト加工が0・1キロ、アルミナ精製が1・3キロ、アノード処理が0・2キロ、通電が1・0キロ、電解が1・6キロ、鋳造が0・1キロ、輸送などが0・6キロ以下となる。
露ルサールの生産する低炭素地金ALLOWも1キロ当たり4キロまでCO2排出量を抑えた。25年までに少なくとも95%を水力発電やその他の再生可能エネルギーに切り替える。
圧延品を用いた環境配慮の取り組みでも、ノルスクハイドロはスウェーデンのElonroad(イーロンロード)と共同で道路に敷設したアルミ製レールによる電気自動車(EV)の充電システムの開発を18年から進めている。
EVが道路に敷設されたアルミ製レールの上を走行することで自動的に充電される。スウェーデン国内では、公共交通機関向けに3年にわたる実証試験を現在行っており、ルンド市で6月からアルミレール1000メートルを敷設し、試験的な運用を開始した。
日本のアルミ業界も温暖化対策を進める。今年3月に日本アルミニウム協会が発表した長期ビジョンで、展伸材の再生地金の比率を10%から50%に高め、海外からの新地金調達を抑える方針を示した。
国内では展伸材生産時のCO2排出量削減のため、アルミの資源循環を実現する生産プロセスの技術開発を行う。展伸材への再生地金比率の増加や再生可能エネルギーの利用により、50年にCO2を44%削減する。
国内での取り組みに加え、海外製錬の低炭素地金の生産など温暖化対策を考慮すると70―80%の削減効果が期待でき、政府目標の温室効果ガス80%削減を達成する。
国内の大手圧延メーカーはEVの普及と自動車の軽量化に伴う自動車用のアルミ製パネル材の将来的な需要増に対応するため、生産設備の増強を進めている。神戸製鋼所は真岡製造所(栃木県真岡市)にパネル材製造ラインの増設を進めており、UACJも福井製造所(福井県坂井市)にパネル材設備を増強した。
足元では大手自動車メーカーは軽量化よりも自動運転技術に注力しているが、「今後、電気自動車の電費を下げる必要性が生じたら、軽量化の観点でアルミにもチャンスがあるだろう」と大手圧延メーカー幹部は語る。
非鉄建材各社も環境負荷低減に根差したZEH対応の商品展開を進める。ZEHの4要件は断熱性能の基準である強化外皮基準を満たすこと、空調や照明などに用いられる一次エネルギー消費量を省エネ基準より20%以上削減すること、再生可能エネルギーを導入すること、基準一次エネルギー消費量の100%削減を達成することが求められる。
20年に予定されていた省エネ基準適合義務化は見送られたものの、政府は30年までに13年度比で温室効果ガスを26%削減する目標を掲げる。一般家庭では39%の削減が求められる。
冷暖房効率を高めるため、高断熱のアルミ樹脂複合窓や樹脂窓に各社とも注力しており、LIXILはアルミと樹脂のハイブリッド構造を持つ「サーモスX」、YKKAPは高性能樹脂窓「APWシリーズ」を拡販している。
アルミ樹脂複合窓サーモスXは断熱性が従来の樹脂窓商品に比べ、約30%向上した。アルミの意匠性、耐久性、採光性のほか、樹脂の断熱性と防露性の両方の長所を持つ。樹脂窓APWシリーズも一次エネルギー消費量を20%以上削減する。
新型コロナウイルスの感染拡大による景気悪化で需要が停滞するアルミニウム。感染拡大が収まらずこの先も厳しい環境は続く見通しだが、新たな時代の芽が確実に育っている。世界のアルミ産業は原材料の製造から最終製品まで含めて、環境負荷の小さな産業へ生まれ変わろうとしている。
(増岡 武秀)