神戸製鋼所は4月1日に従来の鉄鋼とアルミ・銅の両部門を組み換え、「鉄鋼アルミ事業部門」と「素形材事業部門」の2事業部門に改編した。鋼材とアルミ板を一つにまとめることで顧客対応や製品開発力の向上などさまざまな効果を得る。需要分野別の戦略を強化するとともに「ものづくり力」の強化につなげる改編の狙いと期待を鉄鋼アルミ事業部門長を務める柴田耕一朗副社長に聞いた。
――組織を改編した目的から。
「4点に集約される。1つは顧客主義の体制の充実。お客様の窓口を一本化し、自動車フロント組織を設置した。2つ目がものづくりの強化。横串を通しやすい組織構造を追求し、鉄鋼とアルミで共通する素材と部品を基軸とした。3つ目は事業をする上での意志決定と実行の迅速化でユニット制を導入した。4番目は競争力の源泉である社員の成長だ。その観点に立ち、強みを認め合い、弱みを補強するために組織を再編した。仕事の質を上げていく」
――製造の強化にどうつながるのか。
「加古川製鉄所の薄板工場と真岡製造所のアルミ板圧延工場は互いに共有できる知識、技能がある。これまでも横串を通そうとしてきたが、異なる組織の間では難しかった。互いの良い点、悪い点がよく見え、特に安全管理は違いが大きく、加古川の係長が真岡の工場にパトロールに行くなど活動を始めている。真岡は品質をしっかり守りながら歩留まり、生産性を向上しないと業績につながらない。『品質を担保しながらのコスト削減や生産性向上のアプローチなど加古川を参考にしたい』との声が出てきた。今後、ものづくりは確実に向上していく」
――事業運営の方針は。
「予想される最悪の事業環境でも黒字化できるサステナブルな鉄鋼アルミ事業を構築する。当社は多くの経営資源を持つが、その中でも最も重要なのは人だ。モチベーションを上げることが計画を成就させる大きな手段となる。それにはしっかりとした未来をみせること。経営陣や中間管理職以上がどんな環境下でも黒字化できることを示さなければならない。それから成長の機会を与えること。真岡の社員が加古川に赴任する、あるいは鉄鋼とアルミの間をローテーションで異動するなど人を成長させ、業績向上に寄与していければと考えている」
――各種鋼材の強化策は。
「特殊鋼線材は世界的に大きなシェアと世界に誇れる高い技術を持つ。今の地位を維持し、追いつかれないための施策が重要だ。特殊鋼線材は単体では機能せず、二次加工メーカーが加工して初めて製品になる。商品開発に加え二次加工メーカーとの連携を強化する戦略だ。二次加工メーカーが部品メーカーから要求されていることは多く、素材の面から解決する、あるいは当社のソリューション提案力で二次加工メーカーの競争力を上げていく。二次加工メーカーが抱えている問題を収集して解決し、ともに成長していく」
――薄板の強みのハイテン鋼をどう伸ばしていくか。
「加古川に新CGL(溶融亜鉛めっき設備)を建設し、来年2月に稼働を始める。新しい性能を持つハイテンを開発していきたい。高い加工性を担保するハイテン鋼が主流だが、部品機能を考慮した特性も具備したハイテンを開発し、使い勝手の良さを追求する。新CGLの投入で当社のプレゼンスを向上させたい。お客様の承認を順次取得し、生産量を増やし、収益効果を得ていきたい」
――厚板も市場は厳しい。
「新型コロナの影響で造船の商談が行われていない。テレワークが進むとオフィス需要が減り首都圏のビルの建築が不要になる可能性があり、需要動向を注視する。限られたパイの中でシェアを獲得するために国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)に関わる製品の開発が不可欠だ。納期の要求に柔軟に応え、必要な商品を投入する。納期と商品開発力が厚板の未来を決する」
――自動車用アルミパネル材の需要は。
「期待したほど伸びていない。一部の自動車メーカーは、足元、軽量化よりも電動化や自動運転に注力されている。電気自動車でも電費を下げる必要はあり、軽量化のニーズ、その手法としてのアルミ化のチャンスは出てくると考えている。ソリューション技術センターとタイアップして需要喚起に努める。アルミ板の自動車向け比率は30%強で将来50%近くに引き上げる。真岡製造所に新しく整備する熱処理・表面処理設備と神鋼汽車アルミ材(天津)をフル稼働させることがまず必要。真岡の新設備は20年度末頃の本格稼働を目指し、顧客にサンプル出荷を行っている」
――鋼材とアルミを融合した商品は。
「自動車用のドアを鋼材とアルミでハイブリッド化することで軽量低コスト化が可能など、自動車メーカーに広く提案している。提案するアイテムを増やしていきたい。ソリューション技術センターを設置する以前に自動車軽量化企画室で提案していたが、シーズ開発の側面が強く、もうけることに貪欲でなかった。シーズ開発主体の活動から、もうかる技術、もうかるソリューションにステージを変えていきたい」
――アルミ板の現状と強化策は。
「アルミパネル材や自動車部品向けは新型コロナの影響を受けている。一方で缶材はアルコール飲料の消費がイベント関連で減ったが、家飲みによる需要が増えた。今後も缶材の需要は底堅いと考えている。コンピューター磁気ディスク向けも堅調。ディスク材を製造しているマレーシア工場はロックダウンによる稼働制限を受けたが、テレワークの浸透でディスク需要は堅調さを保つとみている」
――4―6月は減産が続いた。7―9月はどの程度の回復に。
「粗鋼生産は4―6月に前年同期比30%強減少した。7―9月は自動車メーカーによって生産状況に差があり、粗鋼生産は4―6月に比べ5%ほど増え、25%の減産になると固めにみている。当社の鋼材の約5割が自動車向け。自動車の生産に左右される。電機関連は減少し、7―9月も厳しい状況は続くが、10―12月以降は徐々に回復するとみている。自動車向けのアルミの生産は4―6月が25%減。高級車向けなので鋼材ほどは落ちていない」
――業績悪化で投資を見直すことに。
「鉄鋼もアルミも大型投資はひと段落し、刈り取る時期にきている。作業負荷軽減など小さな投資は全て凍結している。実施する投資は必要不可欠な更新投資、安全品質と環境に関わる投資に限定している」
――海外の鋼材製造拠点は。
「中国は需要が戻り、グループの二次加工メーカー4拠点はいずれも好調で過去最高の生産ペース。新型コロナで抑制された消費者の購買要求が爆発している一過性のものか、長く続くのか、見定める必要がある。一方でタイは苦戦している。自動車生産がなかなか回復してこない。海外初の特殊鋼線材製造拠点としてKMSで昨年度までに認証取得を進めてきたが、市場は不透明だ。タイの拠点からアセアンやインド、あるいは中国への輸出など事業運営を考えなければならない」
――鞍鋼集団と合弁の冷延ハイテン製造拠点の生産状況は。
「鞍鋼神鋼冷延高張力自動車鋼板は新型コロナの影響で一時生産が落ち込んだが、今は回復している。日系自動車向けは認証を取得し、当初計画を確保したが、狙っていた中国系OEMからの受注が進んでいない。地場メーカーとの競争が激しいためだ。鞍鋼集団が巻き返しに向けて当社との間で協力体制を活性化させており、足元、中国系自動車メーカーのEV向けで採用が決まった。さらに他の中国系自動車にも売り込んでいく。生産能力は年60万㌧あるが、ハイテン比率はまだ低く、早期にハイテンの比率を上げていきたい」
――鞍鋼とCGLを共同で建設する考えは。
「中国内でCGLが多く建設され、利益を上げるのは難しく、考えていない。冷延ハイテンの生産を増やしていく」
――中国など海外勢が技術力の面で追い上げてきている。
「タイヤ用スチールコードなどハイカーボンの分野は販売量の差につながるほど技術に大きな差はない。価格が低く、太刀打ちできない。特殊鋼線材は追随する中国や韓国の企業はない。連続鋳造や分塊など設備に違いがあり、さらに二次加工メーカーが技術を保持している。二次加工メーカーと連携して技術を守り、どう伸ばしていくか。これが海外勢の追い上げを許さない大きな施策になる。ハイテンは中国勢、韓国勢が追い上げており、加古川の新CGLへの期待度は高い」
――ひも付き価格是正は大きな課題だ。
「収益の効果を上げるには適切なエキストラをいただくことが最低条件。価値に見合った適正な対価を得ていく。そのために営業面も強化しなければいけない。製造の観点から設定する価格と営業面から設定する価格は往々にして異なる。自動車フロント組織に営業と技術者を配置し、神鋼としてあるべき価格を設定した上でお客様と交渉する。製販一体の交渉活動は薄板の大きな戦略であり、自動車フロント組織の重要な役目となる」
――社員に伝えたいことは。
「アルミ板で公的認証の再取得を完了したが、ようやくお客様への信頼回復のスタートラインに戻ったということを自覚してほしい。ここから信頼を積み重ねていかなければならない。今は守りのマインドが強いが、お客様に貢献する、ものづくりの企業として成長していける攻めの活動を皆で展開していきたい」(植木 美知也、増岡 武秀)