2020年5月19日

「鉄鋼事業戦略-中期経営計画2023「変革と成長」-」 三井物産 執行役員・鉄鋼製品本部長 藤田浩一氏 既存事業の果実化注力 インフラ分野 IMRを大々的強化

――中期経営計画(2020―22年度)における鉄鋼製品本部の基本方針から。

「事業環境が激変する中、全社方針として『変革と成長』を掲げ、成長軌道への早期回復を目指している。鉄鋼製品本部としては、『鉄をはじめとする素材の力を活かし、産業課題・顧客の潜在的ニーズを先取りした、モノ・コトを自ら創るプロ集団』とあり姿を設定し、変革と成長を追求する」

――鉄鋼製品本部は20年3月期のグローバルベースの連結純利益が前期比52億円減の47億円だったが、中計の収益目標は。

「三井物産の20年3月期連結純利益は3915億円。中計最終22年度の目標は4000億円で、資源分野が1700億円、非資源分野が2400億円(その他調整・消去▲100億円)。今期は全社計画が1800億円で、資源分野が1200億円、非資源分野は800億円(その他調整・消去▲200億円)。鉄鋼製品本部としては、コロナ影響が上期は続くと想定、下期中心の50億円を計画している。最終年度の22年度は人員数や資産に見合った存在感を発揮できる数値目標を掲げている」

――ターゲット分野を。

「次世代モビリティ、エネルギーソリューション、サーキュラーエコノミー、デジタルエコノミーをテーマに、これまでの『モビリティ』『エネルギー』『インフラ』に新たに『流通』を加えた4領域で事業と物流の両輪でビジネスを発掘・良質化させていく」

――「あり姿」と利益目標を実現するための重点課題は。

「事業、物流ともに選択と集中を徹底し、組織の筋肉質化を図っていく。物流はマーケットの影響が大きいためコントロールできない事態に陥ることもあるが、事業に関しては自ら選択し、経営資源を投入してきたわけで、ここで十分に果実化できていないという実態を直視し、やるべき施策を実行していく。一つ目の重点課題が、事業経営力の強化。世界最大級の自動車プレス部品メーカー、ゲスタンプ・オートモシオンとともに進めるグローバル事業の果実化、世界最大の電炉メーカー、米ニューコアとともに北米で展開する鋼材加工物流事業スチール・テクノロジーズのさらなる成長戦略、風力発電用タワー・フランジのグローバルサプライヤーであるGRIの事業再構築、エネルギー総合サービスGEGの戦略的事業集中で収益拡大を推し進めていく。同時にEVモーター事業、インフラメンテナンス事業等を新たな収益の柱に育てていく」

「二つ目が、三井物産スチール(MBS)、日鉄物産、エムエム建材という得意分野が異なる3つの物流のプロ集団を通じたグローバル物流ネットワークの形成。MBSは三井物産のアセットを最大限に活用できるメリットがある。日鉄物産は日本製鉄グループ関連ビジネスのプロフェッショナル。エムエム建材は建設鋼材分野で最大のポジションをキープしている。3社の強みを活かして、マーケットを縦横に開拓していく。三つ目が物流ネットワークとデジタルトランスフォーメーションの融合。新型コロナウイルス影響で流通改革が加速しており、将来も見据えて経営資源を先行投入していく。四つ目が『インフラ』事業の規模拡充。主力の『モビリティ』と『エネルギー』の2つの分野は、コロナ禍による世界景気縮小の中で急減速している。そんな状況下でもインフラ分野では活動が継続されている。各国政府が景気浮揚策としてのインフラ投資を拡大することもあり、既存インフラの老朽化対策、長寿化に資するIMR(インスペクション、メンテナンス、リペア)事業は市場耐性が高く、ここを大々的に強化していく」

――EVモーターの事業展開は。

「モーター製造事業をグローバル展開する台湾の東元電機と合弁で、EVパワートレインの開発・製造・販売をグローバル展開するTEMICO・インターナショナルを設立。インドのバンガロールに建設中のEV駆動用・産業用高効率モーター製造拠点が本年末の本格稼働を予定している」

――IMR事業のイメージを。

「循環型社会をテーマに電炉事業とインフラ長寿命化に寄与する総合インフラメンテナンス事業を強化していく。大和工業への出資を通じて、国内外のインフラ鋼材供給基盤拡充に取り組んでいる。また構造物の総合メンテナンス企業であるショーボンド・ホールディングスと合弁会社を設立し、IMR事業の海外展開を図っていく。インフラ老朽化が進むタイで事業を立ち上げ、その後、広く横展開していきたい」

――新型コロナウイルスの影響で、モビリティ、エネルギーともに厳しい状況が続くいている。

「『モビリティ』について自動車生産が回復し始めているところもあるが、コロナ収束後の真の需要を見極めていく必要はある。『エネルギー』については、オイル&ガス分野は主要プロジェクトのキャンセル、サスペンドなどがあるが、再生可能エネルギー関連は引き続き需要が期待できる。インフラは建設業自体が世界各国のエッセンシャルビジネスとなっており、特に当社が注力する国内や新興国においては、加工・流通機能を発揮しながら確実に市場を捕捉していきたい。またインフラの省人化・老朽化対策は先進国にとって喫緊の課題であり、新型ウイルスによって先が見えない状況だからこそ、景気の浮き沈みに左右されにくいIMR事業はチャンスが広がると期待している」

――海外戦略は。

「事業と物流両輪で収益力を強化していく。米州は現在、コロナ影響で厳しい環境にあるが、スチールテックを中心とした自動車関連ビジネスを強化する方針で、USMCA(新NAFTA)域内の物流も引き続き強化していく。アジアについては、インフラを主軸に、現地法人、RSA(リージェンシー・スチール・アジア)、現地事業を活用したインフラ鋼材需要の捕捉に動いており、エムエム建材もアジア市場で活動する。IMR事業はASEANから、EVモーター事業はインドからスタートさせる」

――欧州・アフリカは。

「エネルギー分野の事業強化がポイント。オイル&ガス分野では既存北海に加え、中東、アフリカの需要を捉え、総合サービスプロバイダーである英グローバル・エナジー・グループ、風力タワーメーカーのGRIなど出資パートナーとの連携を一層強化し、特に再生可能エネルギー関連分野を強化する」

――中国は回復が先行している。

「総合力を生かした地産地消対応、物流強化に引き続き注力する。世界最大級の鉄鋼メーカーとなった宝武鋼鉄との合弁サービスセンター、宝井事業を通じて自動車用鋼材需要を着実に捕捉していく」

――宝武集団との次の一手は。

「宝武グループで電子商取引を展開する欧冶グループに一部出資しており、海外でのEコマース展開について検討を進めている」

――宝武集団は製鉄業における海外展開を考えている。

「世界的に鉄鋼生産能力が過剰となっているため新規プロジェクトについては慎重に考える必要がある。ブラウンフィールドの案件で、妥当性があれば検討を妨げるものではない」

――脱炭素社会への対応が求められ、鉄鉱石価格が高止まりする中、電炉事業への関心が高まっているが、ニューコアと連携強化は。

「スチールテックのパートナーであり、信頼関係を築いている。ESG経営は全社テーマでもあり、ニューコアとのビジネス拡大は可能性を追求したい」

――中計における投融資計画について。

「既存事業の生産性向上、果実化に注力する。特にゲスタンプの果実化、スチールテックのさらなる成長戦略、GRIの建て直しに要員やツールなど経営資源を投入していく。DX、IMR事業にも先行投資を行う。事業の選択と集中は大胆に進める方針で、撤退する事業も出てくる」

――鉄鋼業界は内需縮小が続いており、再び構造転換期を迎えている。

「2―3年後には業界の構図が一変している可能性もある。鉄鋼メーカーを含めてオールジャパンで海外市場に臨む局面が訪れるかも知れない。幸い商社の鉄鋼製品ビジネスにおける事業構造転換については手を打てている。常に商社グループの先頭を走り、何が起きても優位なポジションを確保できるよう手立てを講じていく」

――MBSとの機能分担と長期戦略について。

「MBSは、三井物産におけるマーケットのフロントラインで、三井物産の戦略実現を担う組織と位置付けており、事業を良質化するためのリソースは積極的に投じていく。日鉄物産、エムエム建材、セイケイ、新三興鋼管との連携も強化している。経営環境はより厳しくなっているが、自立自走のスタンスで、サバイバル合戦を勝ち抜く企業風土もできつつある」

――日鉄物産との連携強化策は。

「日本製鉄が推進するグローバル戦略に沿った日鉄物産の海外展開で協業を進めるとともに、株主として日鉄物産の企業価値向上に資する支援を積極的に検討していきたい」

――三井物産の他の営業本部、三井物産グループ企業との連携について。

「緊急事態宣言下、出社原則不可となっているものの5月7日に本社移転を行った。オフィス環境、働き方も変わり、他本部連携は注力すべき課題と認識している。例えば『モビリティ』ではEVパワートレインや次世代モビリティ向けの素材提案で化学品、モビリティ、エネルギーソリューションなどの他本部と連携。組織の枠にとらわれず、他本部と共同で事業機会を探り、シナジーの創出も追求していく」

(谷藤 真澄)

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