【学習機能付きYG】
HCGLのめっき槽はZAM用、亜鉛めっき用などで使い分ける4ポット式。日新が独自開発したガスワイピング(YG)でめっきの付着量をミクロン単位でコントロールするが、東予は多様化するニーズに対応する学習制御機能を組み込んでいる。
クーリングタワーは、54メートルと他社のCGLに比べて低い。エア冷却と気水冷却をミックスしたプロセスを導入し、イニシャルコストを抑制。冷却しながら凝固速度を調整するZAM用のエアジェットクーラー、ペンタイト用の亜鉛と鉄の合金層をつくる合金化処理装置、表面を滑らかな肌に仕上げるミニマイズド・スパングル装置などを装備する。
冷却後のコイルは2スタンド式スキンパスミルで形状をフラットに整え、ロールコーターで注文仕様に応じて後処理を施され、検査工程を通過して出荷される。
ライン中央の入側、出側、センター、検査などを7人体制で操業しているというが、酸洗・冷延工場と同様、作業者の姿はほとんど目に入らない。
【最新設備に更新】
設計能力は酸洗・冷延ラインが月産9万トン。最大幅1350ミリ、最大厚6・0ミリ仕様で0・15ミリまで圧下できる。めっきラインは6万トン。最大幅1350ミリ、板厚0・6―6・0ミリ仕様である。
全社方針に沿って総コスト削減を進めつつ、設備更新を進めている。2014年8月に酸洗タンクをシャローバスからアイボックス方式に転換。塩酸の低温化による蒸気の使用量削減、塩酸の使用量削減を具体化し、収益改善に貢献している。15年3月にはめっきラインのYGノズルの応答性を高め、目付量を大きく変更した際のトップ・エンドのカットロスなど歩留まり改善を図った。
足元の生産量は酸洗・冷延ラインが9万トン。東予の最新鋭冷延ミルを最大限に活用する全社方針に沿って、サイズ・品種構成上のフル生産を継続。3万トンを半製品として堺製造所、日新製鋼建材の本社製造所に供給する。
めっきラインもほぼフル操業の月産6万トンを継続。品種構成はZAMが約7割、ペンタイトが約3割。ZAMについては東予が0・8―6・0ミリの厚手、堺が0・25―1・2ミリ、日新製鋼建材本社製造所は0・25―2・3ミリの薄手と需要家ニーズや出荷エリアなどによって生産を分担している。新商品のZAMプラスは、黒色外観の「黒ZAM」を堺、防眩性を付加した「ZAM+ZPG処理」などは日新製鋼建材本社製造所で生産している。
【30年前に始動】
のちにZAMとして商品化される高耐食性亜鉛めっき鋼板の開発、冷延・表面処理鋼板の能力増強計画は、いずれも約30年前にスタートした。
1990年代初頭、住宅の長寿命化ニーズが高まり、プレハブ住宅用構造材として、より耐食性に優れる表面処理鋼板の開発が求められていた。
当時、日新は呉でホットコイルを生産し、堺・大阪・市川の3製造所で冷延・表面処理鋼板を製造。3製造所とも高操業が続き、能力増強が経営課題となっていた。
こうした中、日新は呉の対岸にある東予市(当時)に第4の製造所を建設することを決定、91年6月に立地協定の調印式を行った。
日新はその後、Zn―Al―Mg三元系合金めっき鋼板の開発に成功。97年に工業規模での連続製造に成功。98年に「ZAM」として商標登録し、販売を開始した。
「東予製造所」は99年10月に酸洗設備の操業を開始。00年4月に酸洗・冷延連続ライン、5月にめっきラインをそれぞれ稼働させ、ZAMの営業生産を本格化した。
00年6月に開催された竣工式で、初代の三喜俊典所長(現会長)は、「無人物流設備など、すべて世界一の品質性能と生産性を持つ製造所の誕生である。新しい溶融めっきラインで表面処理の新しい世界を築くZAMの営業生産を担っていく」とあいさつし、東予とZAMの成功を宣言した。
【未来のファインスチール】
ZAMは住宅用建材から自動車、家電、産業機械、土木資材など幅広い分野で採用が拡大し、販売量は月間7万トンペースに達している。東予は「酸洗・冷延9万トン、めっき6万トンの安定フル操業が足元の最大のテーマ」(渡辺所長)である。
東予は操業開始20年を控え、主要設備の更新・新鋭化が課題であり、日新にとってはZAMに続く革新的な表面処理鋼板の開発が経営課題となっている。
本年3月に新日鉄住金グループの日新製鋼・東予製造所となり、技術融合や生産最適化などによる競争力強化策の選択肢が大きく広がった。東予はファインスチールの未来を開拓する重要なミッションを担い続ける。
(谷藤 真澄)