――伊藤忠丸紅鉄鋼の鋼管戦略における北米の位置付けから。
「マルベニ・イトウチュウ・チューブラーズ・アメリカ・インク(MITI)は北中南米をカバーする伊藤忠丸紅鉄鋼(MISI)最大の海外鋼管事業拠点。エクソンモービル、シェブロン、コノコフィリップスなどメジャーの世界本社や重要拠点がヒューストンにある。ヒューストンは世界で最も重要な営業拠点であると同時に、情報収集拠点でもある。米国市場でのメジャーとの接点は彼らの非米での展開をフォローする上でも大きなアドバンテージとなる」
――MITIの概要を。
「単体60人で、うち駐在員は10人。ここヒューストンに本社を置き、油井管、ラインパイプ、特殊管のマスター・ディストリビューター機能を担うとともに事業会社の管理・運営を行っている。傘下の事業会社は米国がスーナーなど6社、カナダはホールマークなど4社。10社を含めた人員は連結ベース(子会社のみ)で500人規模」
――スーナーは、2013年に約600億円を投じて買収した。鉄鋼商社業界において過去最大級の投資に至った経緯を聞いておきたい。
「経済的に掘削が困難とされていたシェール(頁岩)層の油田・ガス田を開発する技術革新が21世紀に入ってから急速に進展し、シェールガス・オイルの生産量が飛躍的に増え、米国は45年ぶりに世界最大の産油国に返り咲いた。オイルメジャーはメキシコ湾など高度な技術と巨額の資金を要する深海の海底油田に強みを持ち、当初は『シェール革命』を軽視していた。ところがリーマン・ショック直後を除き、2010年前後の5―6年間は油価(WTI)がバレル90―140ドルの歴史的高水準で推移。ファンド系の資金がシェール産業に流入し、独立系企業によるガス・オイルの生産量が急速に増えてきた。これに慌てたオイルメジャーがシェールビジネスに本格参入してきた結果、陸上のシェール・オイル開発に比較的多く使用される汎用品の需要が伸びてきた。この需要を取り込むため、米国最大手の油井管問屋スーナーを買収した。シェールオイルの比率はその後も上昇し、19年には87%を超えると予想されている。大きな投資となったが、判断は間違っていなかった。現在もスーナーは単一の油井管問屋としては米国最大規模で、取扱量は年間100万トン弱。ヒューストンに本社があり、自社ヤード5拠点、第三者ヤード100拠点強、販売事務所10拠点、ねじ切り工場2拠点を展開し、主に油井管を扱っている」
――さらに本年2月に油井管問屋のCTAPを買収した。
「CTAPはコロラド州に本社があり、自社ヤード11拠点、第三者ヤード30拠点強、販売事務所4拠点の体制。ロッキー山脈から北部バッケン地域の石油・ガス鉱区に強みを持ち、自社で輸送ネットワークも保有する。スーナーとCTAPは地域や取引先の構成で補完関係にあり、機能も少しずつ異なる。北米のサプライチェーン・マネジメント強化策として大きな一手となった」
――100%出資の2社に加えて、49%出資企業が3社ある。
「3社のうち、2社はマイノリティ―ステイタス(チカソー・ディストリビューターズはネイティブアメリカン、ペトロアミーゴス・サプライはヒスパニック)を持ち、それぞれの優位性を生かしたビジネスを展開している。チャーター・パイプは中小顧客をカバーしており、規模を問わず良質のビジネスを展開している企業を買収していく戦略の一環。加えて周辺サービスで付加価値を高めていく戦略に沿って80%を出資したGBプレミアムがランニング・スーパービジョン・サービスを行っている」
――カナダについては。
「カルガリーに本社を置くMITCはラインパイプ一般、ホールマークは油井管を扱う。カナダの在庫・流通ビジネスの核となるホールマークは本社をMITCと同じオフィスに置き、大型自社ヤード1拠点、第三者ヤード15拠点を展開。エブラズ社などカナダ地場油井管ミルとの良好な関係を生かして、上流は製造プロセスおよび品質管理状況の適時把握、下流はランニング・サービスも手掛けることで、油井管の製造から地中へのランニング・サービスまでカバーする体制を築いている。ラインパイプ敷設計画が環境問題でなかなか前に進まず、生産した原油・ガスの輸送がボトルネックとなって低迷している西カナダにあるが健闘している。49%出資のゲートウェイは小径のラインパイプが中心、33%出資のイーストコースト・チューブラーズは東カナダのニューファンドランド島で海上リグ向けの高付加価値の油井管を扱って好調である」(ヒューストン=谷藤 真澄)
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