――このほど発表した「中期経営計画ローリング」(2019―20年度)の位置付けから。
「昨年4月に社長に就任し、『KOBELCO VISION“G+"』の達成に向けた16―20年度中期経営計画の進捗状況の確認作業に入った。素材系、機械系、電力を3本柱とする成長戦略については、素材系では鉄鋼、アルミ事業において約1600億円の自動車軽量化戦略投資を意思決定し、グローバル供給体制を拡充した。また電力では今年度後半から真岡発電所が稼働開始を予定するなど、必要な投資を着実に意思決定し、実行に移してきた。一方、収益面では、16年度は中国の建機事業で多額の貸倒引当金を計上し、連結経常損益が191億円の赤字に転落。17年度は国内を中心に経営環境が良好で711億円の経常利益を計上したものの、品質不適切行為が発覚した。18年度に入り、素材系では鉄鋼において生産設備トラブル影響による損失が発生し、アルミ・銅は品質不適切行為の影響による生産性の低下や歩留まり悪化に加え、固定費やエネルギーコストが増加。機械系は原油価格低迷によるエネルギー分野の案件減少により、非汎用圧縮機の需要が想定を下回り、収益は伸び悩んだ。この結果、18年度は経常利益が346億円に半減。さらに本年度は300億円に後退する見通し。戦略投資も思い通りに立ち上らない案件があり、一部収益化が遅れている。このように損益面では、中計で描いた道筋から大きく外れている実態が明らかになった。今後も3本柱の事業戦略の方向性に変わりはないが、今回『中期経営計画ローリング』を策定し、その中で19・20年度の2年間で徹底して取り組む重点テーマや次期中期に向けた継続的テーマを抽出し、具体策を盛り込み、シナリオを描き直した」
――重点テーマのひとつ「素材系を中心とした収益力強化」では、鉄鋼とアルミ・銅の組織改編という思い切った経営判断を下した。
「当社は世界でも類を見ない複合経営企業であり、鉄鋼、アルミ・銅、溶接、機械、エンジニアリング、建機、電力などの幅広い事業を展開している。複合経営の強みを発揮するには事業間の連携シナジーが重要で、さまざまなアプローチを続けてきた。結果としては思うように進展しない面もあったが、品質不適切行為が発覚したことで経営層はもちろん、多くの社員が強い危機感を抱き、個々の事業ではなく、神戸製鋼グループの全体戦略が従来以上に必要という機運が高まってきた。そこで取引先から総合力を評価していただくための需要分野別の戦略を強化することにした。来年4月以降、素材系事業のうち鉄鋼とアルミ・銅事業については『鉄鋼・アルミ事業部門』(仮称)、『金属素形材事業部門』(同)に改編する。逆境をチャンスと捉え、守りつつ攻めに転じる経営判断であり、人材、商品開発、製造技術などの面でシナジーをフルに引き出していく」
――新組織の機能分担は。
「『鉄鋼・アルミ事業部門』は、鉄鋼の線材条鋼、厚板、薄板、アルミ・銅のアルミ板の『素材』で構成。『金属素形材事業部門』は鉄鋼の鋳鍛鋼、チタン、鉄粉、鋼管、アルミ・銅のアルミ鋳鍛、押出、銅板、銅管の『部品』で構成する。需要分野別の戦略的組織であり、例えば自動車分野については、薄板とアルミ板の営業、商品技術を統合し、溶接事業部門と連携して自動車軽量化のトータルソリューションを提案。チタンとアルミ鋳鍛は航空機分野に機体軽量化のソリューションを提供していく。圧延や熱処理、鋳造・鍛造や押出などの要素技術、品質管理ノウハウを共有することで、ものづくり力も強化できる。調達・購買、システム、物流、設備保全など共通機能の強化、事業部門管理などガバナンスの強化にも結び付けていく。この社運を賭けた新体制をより良い組織とするため、プロジェクトやタスクフォースを立ち上げ、議論を進めている」
――素材系の収益力強化に向けて、「ものづくり力の強化と販売価格の改善」も追求する。
「鉄鋼は超ハイテン、特殊鋼線材、アルミは板、鋳鍛造品、押出・加工品など優位性のある製品の拡販を進めるとともに、品種構成を高度化していくことが基本戦略。鉄鋼は上工程を集約した加古川製鉄所の設備・制御保全体制を徹底的に強化し、生産トラブルを防止して安定生産を続ける。アルミ板は真岡製造所のアルミパネル材製造設備の増強効果を引き出して、生産量を増やしていく。一方、原材料・副資材価格、エネルギーコストの上昇を踏まえ、販売価格改定について丁寧に説明し、ご理解を得ていく」
――新組織の役員体制、経済的効果は。
「役員体制は白紙。新組織の議論を重ねる中で、より良い体制を見極め、経済的効果も見定めていく。人事・組織交流によって営業、技術基盤が大きく広がり、ソリューション提案力も強化できる。大きな効果を引き出せると期待している」
――中計の戦略投資について。
「自動車軽量化戦略投資として、加古川の超ハイテン鋼板設備の新設、真岡のアルミパネル材製造設備の増強、米国のアルミ押出・加工品の製造・販売拠点設立など、ほぼすべての計画を意思決定し、実行に移している」
――もうひとつの重点テーマ「経営資源の効率化と経営基盤の強化」については。
「事業の評価方法を見直す。資本コストをより意識した事業管理指標として、投下資本収益率(ROIC)を導入。事業部門ごとの収益性を管理・評価し、連結ベースの目標ROA5%を実現するポートフォリオを組み立てていく」
――資金・資産の効率化も徹底する。
「成長戦略投資が先行する中、DEレシオ1倍以下の財務規律は堅持している。19・20年度も先行投資が続くため、500億円をターゲットに資金の効率化に取り組む。海外グループ企業の運転資金効率化、投資の厳選、政策保有株式の見直しを検討していく」
――グループ会社再編を含むガバナンスの強化も図る。
「90年代から事業の選択と集中を継続し、現在は素材、機械、電力の事業領域での持続的成長に向けた取組みを進めているが、経営環境は刻々と変化しており、事業の見直しは永遠のテーマとなる。連結売上高は2兆円規模だが、複合事業経営のため個別事業は大きくない。事業部門別の部分最適で管理してきた約200社の子会社について、改めて全体最適の視点で見直しを進めていく」
――神鋼不動産は株式の75%を東京センチュリーと日本土地建物に売却した。
「神鋼不動産の企業価値をさらに高めるには、事業ノウハウと資金力を持つパートナー2社との事業提携が不可欠と判断した。神鋼ケアライフも同様の理由で住友林業に大半の株式を譲渡した」
――一方、神鋼鋼線工業は子会社化した。
「神鋼鋼線、テザックワイヤロープの関係会社2社が合併し、株式交換によって神鋼鋼線への議決権所有割合が40%以上に上昇し、子会社となった。線材製品はグループの中核事業であり、連携強化によるシナジーを追求していく」
――溶接材料ではJFEグループとの合弁会社JKW、銅管は三菱マテリアルとのコベルコマテリアル銅管がある。事業ごとのM&Aについてのスタンスを。
「具体的な案件はないが、社長就任時から申し上げている通り、あらゆる事業、ビジネスについて是々非々で検討、判断していく」
――アルミについては。
「アルミは板、押出材、鋳鍛造品を製造しており、中国ではパネル材と鍛造品、米国では押出材と鍛造品を現地生産している。品種構成とグローバルネットワークが強みで、アルミ事業全体でのM&Aは想定していない。米ノベリスとの韓国アルミ圧延合弁事業は、中国の製造拠点への母材供給が目的で、このようなプロセスごとのアライアンスは今後も可能性がある」
――金属総合素材メーカーであり、世界のマルチマテリアル化をリードできるポテンシャルを持つが、炭素繊維など金属以外の分野、企業とのアライアンスは。
「炭素繊維や樹脂、接着などの技術動向はウオッチしている。需要家ニーズも踏まえて柔軟に対応していく」
――「中期経営計画ローリング」で掲げた次期中計に向けた継続的テーマのひとつが「自動車軽量化戦略の実行」。
「金属総合メーカーとしての独自のソリューション提案を推進している。フードやフェンダーはアルミパネル、ボディの骨格やドアインパクトビームは超ハイテン、足回りはアルミ鍛造サスペンション、異材接合技術などの軽量化素材と加工法や構造、接合方法などを総合的に提案している。直近の展示会などでは、水素ステーション向け機器、急速充電器車、ゴム混錬機やタイヤ走行試験機など機械系メニューも加えたトータルソリューション提案ができる体制を整えた」
――将来ビジョンとして、次期中計で目指す3本柱の利益構成を改めて示した。
「素材系が4―5割、機械系が3―4割、電力が2―3割の利益構成を目指す」
――電力は神戸・真岡発電所がすべて稼働する23年度以降、経常利益400億円規模の安定収益基盤を確立する。将来ビジョンは足元のROA目標5%相当の1000億円を大きく上回る。
「まずは今回の中期経営計画ローリングで示した19・20年度で取り組むべき施策をしっかりやり切ることで、次の中計期間での成長の足掛かりとするとともに早期のROA5%達成を目指す」
――地域・社会貢献活動について。
「コベルコスティーラーズがラグビー・トップリーグで15季ぶりの優勝を果たしてくれた。また、モータースポーツではSUPER GT『LEXUS TEAM SARD』に協賛している。スポーツや文化を通じた社会貢献活動は社員の誇り、グループの一体感につながるものであり、できる範囲で続けていく」
(谷藤 真澄)