2017年4月11日

激動の時代―2025年を見据えて 【1】高炉メーカー 価格是正が喫緊の課題/高度ITで世界最先端を

鉄鋼業は激動の時代を迎えている。中国の生産能力過剰問題は解消に相当な時間がかかりそうだ。石炭や鉄鉱石、鉄スクラップなど原料価格は乱高下を続けている。この10年で世界の粗鋼生産量は2億5000万トン増の16億トンに拡大したが、中国が3億トン増の8億トンに増加し、日本は1億2000万トンから1億500万トンに減少。新日鉄住金が誕生し、日新製鋼を子会社化した。鉄鋼メーカーは将来の内需縮小を想定して設備集約など国内の構造改革を加速し、海外への収益基盤拡大を急いでいる。2025年を見据えた鉄鋼業の課題と展望を探る。

【25年の鉄鋼市場】

世界経済は堅調に推移しているが、米国第一主義を掲げるトランプ政権による保護貿易などの影響が懸念され、中国の景気刺激策の息切れも不安材料となっている。欧州では英国のEU離脱影響がいずれ本格化してくる。中東、北朝鮮などの地政学的リスクも高まっている。不確定要素が増大しており、中長期の市場予測は難しいが、高炉メーカー経営層やアナリストの見方を踏まえ、25年前後の鉄鋼市場規模(=表)を予測してみた。

世界鉄鋼需要を牽引してきた中国はピークアウトし、インドが緩やかな拡大を続けるが、国際市場は大きく伸びない。日本は20年以降も建設需要が堅調に推移するが鉄鋼消費は緩やかに減少。全国粗鋼は1億トン前後で推移する。

【高炉の収益力】

日本の高炉メーカーは、収益が著しく低下している。資源サプライヤーとのパワーバランスが入れ替わり、石炭・鉄鉱石の年間契約の見直しを余儀なくされた。小刻みで大幅な原料価格変動を鋼材価格に転嫁しきれず、メタルスプレッドの修復に追われ、利益の源泉となるマージンが大幅に縮小。中国の過剰生産・輸出による国際市場の混乱もあって、高付加価値品の高生産が利益に結びつかない「構造不況」に陥っている。

2017年3月期の新日鉄住金の連結経常利益予想は1300億円(前期2009億円)。JFEホールディングスは700億円(642億円)だが、一過性要因を除いた「実力利益」は450億円(1400億円)に減少し、鉄鋼事業のJFEスチールはゼロ(1085億円)となる見通し。神戸製鋼所は経常損益が300億円の赤字(289億円の黒字)、日新製鋼の経常利益は55億円(62億円)にとどまる見通しである。

高炉メーカーは装置産業であり、「高まる品質要求に応えつつ、安定供給責任を果たすには設備更新や商品開発などの製造基盤整備が不可欠」(新日鉄住金の進藤孝生社長)。マージンを改善して再生産可能な体制を取り戻すための価格是正が、高炉メーカーの共通テーマになっている。

【再生産可能利益】

新日鉄住金は中期経営計画(15―17年度)で「総合力世界ナンバーワンの鉄鋼メーカー」実現を掲げ、国内競争力基盤の充実、海外事業の収益拡大・戦力化に注力。財務面のターゲットは連結売上高経常利益率(ROS)10%以上で、5000億円規模の経常利益が目標となる。

JFEスチールは「グローバル鉄鋼サプライヤー」を目指す中計(15―17年度)で、製造実力の向上、技術開発力の強化、海外事業強化を推進。収益率目標はROS10%であり、売上規模からすると経常利益2500億円が目指すところとなる。エンジアリング事業、商社事業を含めたJFEHDとしては3000億円台回復が当面の目標となる。

神戸製鋼は「KOBELCO VISION G+」(16―20年度)で素材・機械・電力の3本柱による盤石な事業体の確立を目指している。20年度のROA5%以上が目標で、その時点の総資産によるが1400億円以上の経常利益を目指すことになる。

日新製鋼は16年度までの中計で日本金属工業との統合シナジー最大化、収益体質強化、コア製品戦略などを推進。380億円(リスクシナリオは220億円)の経常利益目標を掲げてきたが、未達に終わった。新日鉄住金の子会社となり、新日鉄住金グループ内でのシナジーを追求し、収益基盤を再構築する。

各社が再生産可能な体制を再構築するには、中計の利益目標をまずクリアしなければならない。

【課題と展望】

新日鉄住金はこれまでの施策に加え、日新製鋼と経営資源を持ち寄り、相乗効果を創出することで一層の競争力強化が可能となる。両社は操業技術、設備・保全等のベストプラクティス追求、調達コスト削減、グループ全体での生産効率化、資金・キャッシュフロー対策など年間200億円以上の相乗効果を見込む。日新を加えた新日鉄住金グループとして「総合力世界ナンバーワンの鉄鋼メーカー」の地位を確実なものとし、持続的成長と企業価値向上を追求する。

JFEスチールは、コストアップ要因となっているコークスの自給体制を再整備し、焼結機の更新も進めている。グループ内機能の再編を本格化。棒線事業は製造・販売機能を一体化し、小径溶接管事業、機械・電気系の設備保全機能をそれぞれ統合。建材分野はグループ連携強化を図り、電磁鋼板は川下分野を一体化した。海外ではベトナムの高炉一貫製鉄所への出資、UAEのラインパイプ合弁、米ニューコアとのメキシコでの自動車鋼板合弁などを決めている。20年以降を見据える次期中計では、グループ事業構造改革の成果を引き出しつつ、「コスト競争力を持つ商品、高機能商品の比率を高め、(グローバルベースで)収益基盤を再構築する」(柿木厚司社長)ことになる。

神戸製鋼は、素材系の最大の課題である「鉄鋼事業の収益力強化」のため、加古川製鉄所への上工程集約成果を確実に引き出さなければならない。機械系は「建機事業の収益力強化」がテーマ。コベルコ建機とコベルコクレーンの事業統合効果、欧米での拡販、中国ビジネス構造改革の成果を追求する。電力事業は新規プロジェクトが出そろう23年度以降、経常利益が400億円程度に拡大する見込み。G+(プラス)には「自動車・航空機軽量化へのマルチマテリアルによる新たな展開のプラス、20年度のさらに先を見据える期間面のプラスの意味を込めている」(川崎博也社長)。3本柱がそろう23年度以降にコングロマリット経営の真価をフルに発揮する構えである。

2025年前後の鉄鋼市場予測 【業界の行方】

2020年を挟んで中国発の金融不安などが発生し、世界同時不況が起きるワーストケースだと日本の鉄鋼需要は5000万トンに縮小し、全国粗鋼が9500万トン以下に落ち込む。

中国・韓国の大手鉄鋼メーカーはスケール・収益力で日本メーカーを追い越し、技術先進性でも猛追。「特に設備年齢が若く、成長投資に資金を集中できる中国メーカーは手強くなってくる。アルミや炭素繊維などとの競争も厳しくなってくる」(SMBC日興証券の山口敦シニアアナリスト)。

日本の高炉メーカーは、相次ぐ設備・操業トラブルに歯止めをかけて、安定操業体制を再構築しなければならない。海外事業の早期収益化もテーマ。そして最大の課題である再生産可能な適正水準への価格是正を急ぐ必要がある。さらに「日本鉄鋼業としては、IoTやAIなど高度ITを製造プロセスや品質管理、技術・商品開発にいち早く取り組み、世界最先端を走り続けなければならない」(進藤・日本鉄鋼連盟会長)。

これらの課題がクリアされないままワーストケースに直面した場合、高炉業界はもう一段の設備集約、企業再編を迫られる。

(谷藤 真澄) 全24回、2回目以降は産業新聞をご覧ください

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