――さて日本鉄鋼業の現状をどのように見ている。
「日本は需要が減少しても企業数が減らない産業が多い。造船、飲料、化学メーカーなど、統合再編の話は出てくるが最終合意に至らない。一方、金融、鉄鋼、石油、そして商社の鉄鋼部門は市場縮小と同時に企業数が縮小してきた。鉄鋼ではNKKと川崎製鉄が2002年に経営統合し、12年には新日鉄住金が誕生した。さらに新日鉄住金が日新製鋼を子会社化する。これほど見事に業界の構造改革を進めてきた産業はないだろう。いま鉄鋼業は未曾有の危機にさらされており、鉄鋼メーカーにとっては、いかに生き残るかが課題となっている」
――中国の過剰生産問題は深刻。
「世界の鉄鋼業界全体の問題だと中国は言っている。これは詭弁だろうが、非難しあうばかりでなく、中国独自の力で解決してもらうために生産構造課題解決のノウハウを提供する必要がある。OECDで議論され、伊勢志摩サミットでも首脳宣言に盛り込まれた。各国首脳、鉄鋼メーカートップの冷静な判断で解決の糸口を探ってほしい」
――解決に何年かかるのか。
「3年では難しい。10年かかると中国の鉄鋼業は崩壊してしまう。確たる根拠があるわけではないが、5年はかかると想定し、国際競争力の強化、新商品や新プロセス技術の開発に注力してはどうだろうか。企業展望を拓く、健全な仮説と受け止め、5年後の健全なマーケットでの成長戦略を描いてみてほしい」
――日本の鉄鋼業は国際競争力強化を急いでいる。
「新日鉄住金は、厳しい収益環境にあるが、中期経営計画の3年間で、減価償却約7000億円を大幅に上回る1兆3500億の国内設備投資を実施する。設備の最新鋭化が目的で能力を増強するものではない。3年間で3000億円の海外成長戦略も計画する。日新製鋼との連携強化による効果も期待できる」
――普通鋼電炉メーカーの業界再編も動き出した。
「輸入品との競争が少ない、地産地消の稀有な産業で、合併メリットを見出しにくいが、徐々に進んでいる」
――ステンレスは世界的な構造不況が続いている。
「やるべきことはたくさんある」
――鉄鋼業界は、まだ再編余地がある。
「新日鉄の副社長時代だった思うが、鉄鋼流通業界団体の新年会の挨拶で、『国内需要は減少し、流通業界は企業数が半分になる』といって、新年早々縁起でもないと、とても嫌な顔をされた。配慮が足りない発言だったと反省しているが、現実に半数になった分野もあるのではないか。新日鉄住金が誕生し、船会社、商社、物流など旧両社グループの機能会社が見事に後に続いた。思いがけず、多くのことがスピード感をもって前に進み、それぞれに統合効果を発揮し始めている。まだまだ再編による発展余地はあるだろう」
――新日鉄社長時代は最高益を更新し続けた。
「宗岡(正二・新日鉄住金)会長からは、『三村さんはついていた』とコトあるごとに言われる。それは否定しない。社長に就任したのが2003年4月で、ちょうど中国経済が急成長期に入った。ある日、輸出営業部から『オファー価格がすべて通る。異常事態なので、少し様子をみたい』と報告が入った。その後、輸出価格は急騰し、大きく利益をあげることができた。私の社長時代は、中国のプラスの面のみをフルに享受した」
――世界鉄鋼市場は成長が鈍化している。
「世界の鉄鋼市場は90年代後半まで年率1%、30年間で1億トンの成長ペースだった。中国が高度成長期に入り、世界が5%成長経済に変わった。その結果、年間1億トンペースで鉄鋼需要が拡大し続けた。原料はじめ、ありとあらゆるものが不足し、サプライヤーは巨額の増産投資を繰り返した。5%成長が未来永劫に続くわけはないが、関係者の多くが、そう思っていた。世界経済は3―4%成長、世界の鉄鋼需要は年率1%成長が常態であり、その前提で経営課題に取り組むべきだろう」
――アルセロールミッタルの成長戦略は斬新だった。
「ミッタルスチールがアルセロールを4兆円で買収し、時価総額はピーク時に10兆円を超えた。それが、一時、1兆円を下回り、時代の移り変わりを感じる。新日鉄(新日鉄住金)はピーク時が約6兆円、現在は約2兆円だ。鉄鋼業の再編・統合は、設備集約などの地域内のシナジーを追求するものだと思っていたが、ラクシュミ・ミッタル氏は、世界各地の鉄鋼メーカーを買い続けた。25人くらいのレスキュー隊を派遣して、経営や操業に手を入れることで収益改善を追求した。新しいビジネスモデルとして成功したと思っていたが、原料権益にも手を出してしまった。新日鉄は資金制約がある中、経営資源を鉄鋼業そのものに費やすべきと判断した。収益力が見劣りする期間はあったが、明暗が分かれた」
――最後に鉄鋼業界へのメッセージを。
「必ず良い日は来る。中国の過剰問題が解消するであろう5年後を見据え、国際競争力を徹底的に高める方策を推し進めてもらいたい」