2016年4月27日

【中】資源・製錬 新・百年の計 ■官民対談 萩原・経済産業省資源エネルギー庁鉱物資源課長「資源安下の資金需要くむ」/西田・日本鉱業協会長「国内製錬所の進化続く」

――非鉄製錬は電力多消費産業。震災以降、国内製錬所のコスト負担が増しています。

西田「関係省庁からご配慮をいただきつつも、震災前に比べて業界全体で約170億円(2014年度)のコスト増。われわれの製品はLME(英ロンドン金属取引所)で値段の決まる国際商品なので、国際的にそん色のない水準に先々見直していただければありがたい。再エネ特措法(再生可能エネルギー特別措置法)の賦課金減免措置もぜひ堅持していただきたい」

萩原「日本の産業の競争力を高めていけるよう、事業環境を整備することがわれわれの本務。業界からのご指摘を十分に踏まえて検討を続けたい。再エネ特措法の改正案は、再生エネルギー発電事業者の認定制度の新設、買い取り価格の決定方法の見直し、賦課金の減免制度については国際競争力強化の概念を導入して、減免対象事業者の省エネの取り組みを確認する、といった是正ポイントを盛り込んでいる」

――製錬所の国内立地を維持する意義は何でしょうか。

西田「国内製錬所で造ったものの大半は日本の顧客に納められる。デリバリーも含めて長年続けてきた事業サービス。われわれは装置産業で、海外鉱山開発にも20年30年というスパンで取り組んでいる。長期的な視点、判断が必要だ」

萩原「国内発生のリサイクル材を国内処理できることも大事なポイント。銅、鉛、亜鉛、それぞれの製錬所で生じる中間物を互いにやり取りし、有価金属を分離していくインフラが、業界の長い歴史の結果、国内にある。自動車のシュレッダーダストや使用済みの排ガス浄化触媒、廃電子基板は、今もアジアや北米から入ってくる。今後はTPP(環太平洋経済連携協定)もあり、環太平洋経済圏の中の製錬所、という役割になるかもしれない。非常に高い環境基準でリサイクルを行っている点も競争力になる」

西田「製錬所は定期修理や維持更新投資のたび、精度の高い設備を導入したり、計数化、IT化を進めたりもする。工程内にカメラを沢山付けて、今まで見えなかったものを『見える化』すれば、従来仮説だったことを検証できるようになり、新たな気づきも起こり得る。まだまだ成長、進化している」

萩原「実際に製錬所を見に行くと、会長が今おっしゃったような各社の工夫に驚かされる。技術の成熟は技術の完成ではなく、進歩が続いている。そうした部分に着目し、われわれも技術開発をバックアップしたい」

優良資産の獲得チャンス

――足元の資源価格下落は、優良な鉱山案件の獲得好機とも言われます。

萩原「資源メジャーは価格が高かった時に開発した資産を抱え、財務改善を理由に売却機運を高めている。日本企業が従来アクセスできなかったような資産も含まれる。あるいは、探鉱ジュニアが開発資金を集めづらくなり、一定の探鉱費を維持し続けている日本企業やJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)に対する、パートナーとしての位置付けがずいぶん変わってきた」

西田「鉱物資源の安定確保は業界共通の関心事。これまでもご支援をいただいているがJOGMEC、JBIC(国際協力銀行)、NEXI(日本貿易保険)などを通したリスクマネー供給の制度を拡充していただければ、企業も舵を切りやすくなる」

萩原「資源開発には多額の資金が必要だが、企業は株主との関係もあり、従来のように全額を民間調達するのは難しい。加えて、冒頭に高ボラティリティーの話が出たが、資源開発に必要な長期の資金、10年15年先に返済するような資金は、ここ10年ほど、金融市場での調達ハードルが非常に高まった。企業のみなさんには政府系機関の機能を利用することで、レバレッジを利かせていただきたい。3月以降、『高ボラティリティー時代の鉱物資源の安定供給に関する研究会』として、各社と個別に意見交換の場を設けている。既存の制度の運用、改正、あるいは新しい資金のニーズをくみ上げている。目先1―2年が勝負と思っている」

――資源価格の下落を受けて、資源関連企業の減損損失が相次ぎました。

西田「減損会計は時価会計の手法の一つで、時価会計とは投資家が異業種の企業を比較する時、財務諸表を同じ時価ベースに合わせる意味合いを持つ。資源各社は、寿命の長い鉱山開発プロジェクトに中長期の価格前提を置くが、将来キャッシュフローの割り引きなど所定の会計手法に基づいて、現在価格に評価し直した結果が減損損失。監査法人が会計上の整理として、こういった減損を計上すべし、と見解を示し、各社が受け入れたものと捉えている。あくまで会計上の整理の話だ」

萩原「足元の価格を低く見積もるほど、鉱山の資産価値は低く出る。今回減損が相次いだ理由の一つとして、銅鉱山ビジネスにおける足元の銅価格の見方が、資源メジャーも含めてそろってきたのかなと。会長のおっしゃった会計事務所もある種の仲介役になり、減損を出さざるを得ない流れになったと思う。日本では減損損失が株価下落に働いたが、資源メジャーの株価は逆に回復した。資産を厳しく評価したことで、来年度から収益性が高まる、中長期的な収益の土台ができた、と投資家が見たからだ。日本では足元の損にネガティブな反応が出る。資源ビジネスの括りでみると、欧米市場の見方のほうが成熟しているように感じる」

西田「日本でも減損会計が徐々に定着しつつある。市場の評価は今後少しずつ変わっていくかもしれない」

(つづく)

(司会=松尾聡子)

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