日本のものづくり産業に高品位な素材を提供し続ける非鉄製錬業界。10年20年といった長期スパンで鉱物資源の安定確保に取り組み、リサイクル原料の国内処理基地の役割も担い、技術・コストの国際競争力を磨き続ける。一方で、昨年来の資源価格下落、電力代の高止まりなど、外部環境のうねりは厳しくやまない。持続と飛躍の好機をどうつかむか、業界団体と所管官庁の官民対談から、現状と未来を探る。
高ボラティリティーの時代
――非鉄各社の業績や事業活動の前提となる国際金属相場が、激しく変動する時代になりました。
西田「最近10年ほどでみると、中国をはじめとする新興国で非鉄金属の需要が急増し、連動して値段も上がった。銅は一時トン1万ドルを超えた。しかし足元ではほぼ半値の5000ドル水準。相場の振れ幅がかつてに比べてずいぶん大きい。一部の資源国には、資源ナショナリズムの高まりのような動きも見られる。パラダイム・シフトという言葉が妥当かどうかは分からないが、コモディティーを取り巻く環境はずいぶん変わった」
萩原「われわれの分析では、2000年代中盤からベースメタルを中心にボラティリティー(=価格変動の幅)が一層拡大した。取引量が拡大し、いろいろなお金が入るようになった。流動性が高まった一方で、アルゴリズム取引などの影響が増し、市場参加者がそろって勝ち馬に乗るというか、価格が一方向に流れやすくなった。原油や銅の需給ギャップは足元で決して大きくないとみているが、相場の上昇力はまだ弱いあたりなど、仕組みがだいぶ変わってきたのかなと思う」
西田「一方向に振れやすく上がり下がりが急峻、というのは如実に感じる。かつて銅鉱石の取引で圧倒的な利益を得た資源メジャーでさえ、今は銅価下落で一転厳しい。われわれ業界としては、非鉄金属の世界需要は、新興国経済に連動して中長期で伸びるとの見方。シェール革命の起きた石油とは需給構造が異なるはずだが、最近は油価が下がると非鉄相場も下がる。ファンダメンタルズ以外の影響も大きい」
萩原「シェール革命は技術革新によって埋蔵量・供給量の余地が増えた面がある。金属は一時値段が高くなったことで高地、奥地などの高コスト、高難度の鉱山開発が進み、供給力は高まったが、大きな技術革新があったわけではない。むしろ鉱石の品位は下がり不純物も増えている。供給難度は結果的に増した。その中で値段がこれだけ乱高下すると、開発を担う企業への影響は大きい」
――価格変動への耐性をどう高められるでしょうか。
西田「日本の製錬各社は歴史的に、日本国内に鉱山がなくなって海外から鉱石を買うようになり、リサイクル原料を補完的に入れる、ということをやってきた。リサイクル原料の処理を徐々に増やすことで、耐性を築いてきた面はあるかと思う。日本は幸い産業のすそ野が広く、使用済みの電子部品や自動車部品が国内に多くある」
萩原「会長が今おっしゃった歴史的経緯は、日本のものづくり産業に素材を安定供給するという視点で、製錬各社が続けてこられたこと。買鉱製錬を中核にしつつ、上流の鉱山に進出する社もあればリサイクルを強化する社もあり、金属箔、金属粉、電池材料のような事業展開もある。各社各様の戦略がそれぞれ浮き輪のように、各社の業績を浮揚させている。先人の工夫のたまもので、資源メジャーが軒並み赤字の現状でも、国内業界全体で見れば沈んではいない」
製錬所の国内立地存続
――非鉄金属の国内消費動向をどうご覧になりますか。
西田「直近5年ほどでみると、年100万トン程度の銅の内需に対して生産は140万―150万トン、亜鉛は足元50万トン弱に対して60万トンほど。内需のほうが小さく、一定量を中国、アジアなどの近隣市場へ輸出している。新しい需要が今後出てくる可能性はあり、たとえばスマートフォンの中には銅もレアメタルも使われるが、数年前までなかった商品。自動車や建設の分野に比べると消費量は小さいかもしれないが、今後も期待してよいものと思う」
萩原「日本のものづくり産業に高品位な素材を届ける、という視点に立てば、新製品に合った高付加価値素材を素材各社から提案し、需要家と一緒に開発する取り組みは、今もこれからも行われる。供給側も個別に見れば、生産量を増やしている製錬所もあれば減らしている製錬所もある。総量の多い少ないよりも、ものづくり産業への素材提案・供給の部分を支援したい」
西田「東日本大震災の後、海外展開についてはBCP(事業継続計画)の観点も出てきた。ただ、今課長のおっしゃったような『擦り合わせ型』の製品は、日本で造る需要家がまだまだ多い。この底流は変わっていない」
(つづく)
(司会=松尾聡子)