――近年ステンレスの需要環境はどう変わってきたか。
「世界の主要ステンレスメーカーが加盟する国際ステンレス・フォーラム(ISSF)の統計によれば、2014年に粗鋼生産量が初めて4000万トンを超えた。10年間で約7割増えたことになる。そのうちの半分は最大需要地である中国のメーカーが生産したものだが、世界の人々の生活がより豊かになれば、洋食器をはじめ、ステンレスとしての消費量は増えていく。ISSFでも年率4%で需要が拡大するとの試算がある。これは普通鋼よりも伸び率は高い。ステンレスは普通鋼より価格は高いが耐食性をはじめ強度、耐熱性、加工性、意匠性などにも優れた特性を備えている。また、100%リサイクル可能な材料として高く評価され、使われ方は多岐にわたっている」
――国内の動きはどうか。
「日本におけるステンレス熱間圧延ベースの生産量はピークが04年の378万トンであり、15暦年は276万トンと27%減少している。国内見掛け消費量もピークは04年の255万トンであり15暦年は188万トンと26%減っている」
「21世紀以降の需給変化に対して、日本では、新日鉄住金ステンレス(NSSC)が誕生(03年)し、JFEスチールがニッケル系薄板の生産を休止(05年)、クロム系薄板に特化した。日新製鋼は日本金属工業と統合(12年)し、17年3月をめどに新日鉄住金の子会社となる方向で進んでいる。この10数年で汎用鋼種の代表であるSUS304(ニッケル系)の製鋼一貫メーカーが大手6社から同3社となった。これは汎用鋼種のグローバル競争について先を見据え判断した結果であり、日本は技術力を生かしたより付加価値の高い製品およびデリバリーを含めたサービスの拡充、用途開発を競う方向に変わっている」
――日本メーカーの生産量世界シェアは7%程度だが、それでも生き残れると。
「日本は"技術先端地"として、世界ではトップを走り続けなければならない。そうすることで魅力や実力を高め、海外ミルとの連携も含め、将来を切り開いていかねばならない」
――ステンレスとしての需要先(用途)はどう変わっているか。
「10年程度のスパンでは変わっていない。ステンレス鋼板受注量(内需)は105万トンと前年比では2%減少したが、構成比では自動車用が25%強を占め、販売業者向け(店売り)も25%程度。これに続くのが家庭用機器用(厨房、水回りなど)で13%程度。建設用は10%弱というのが大別した結果だ」
――伸び悩む要因は。
「自動車生産や家電製品の海外移転が進んだことが大きい」
――商品開発はどうか。
「既存鋼種のアップグレードのような、いわゆる機能性をより高めた開発が各社で進んでいる。ステンレスは世に出てまだ100余年。普通鋼の歴史とは比較にならないほど新しい鉄鋼製品であり、大きな可能性がある素材。各社の研究開発が進むことで日本のステンレスブランドが世界で確固たる地位を確立し、一層の競争力強化につながる一助となるよう、協会として尽力していく所存だ」
――協会の事業では技術開発のコンペ(ステンレス協会賞)を実施している。
「2年ごとに開催し15年度で16回目を迎えた。過去の受賞作品(最優秀賞)では第1回(93年)が真空断熱調理鍋、全自動洗濯機ステンレス製洗濯槽など、現在では一般的な製品に拡大してきたが、回を追うごとにより先端技術が生かされた製品・商品開発が進んでいると認識している。われわれ生産メーカーとユーザーが一体となって開発する土壌が出来ている点が日本の強みだろう」
「15年度は水素ビジネスに関連した受賞が2件あった。社会インフラの充実に向けて、今後は素材の複合化などさまざまな可能性のあるコンペになっていくのではないか。そのためにも協会としてはステンレスに関する知識啓蒙、普及活動とともに、ウェブサイトの充実、パンフレットなどによる情報提供、出版物の刊行、出前講座などを通じてPRしていかないといけない」
――ステンレスは合金鋼であり原料含有率が高いのがネックだが。
「同様の機能や特性を持つ製品をいかに合金成分を工夫して、よりコスト競争力のある形で提供できるかが、技術・商品開発の大きなポイントの一つになる。また、今後CO2を含めた環境問題への対応も大きな課題となる。これについては、世界ステンレス業界共通のテーマであり、ISSFなどとステンレス協会がタイアップして基準整備をするなど、しっかり役割を果たさなければいけない。それがひいては日本メーカーが競争力を維持・高めることにもつながると思う」