2016年4月20日
【第6回】非鉄戦略 課題と展望 ■チタン 航空機分野に注力 製造コスト低減が課題
チタンは重量が鉄の60%、比強度は鉄の2倍、アルミの3倍と軽くて強く、耐食性や生体適合性などの点でも優れており、理想的な金属素材の1つといえる。東京大学生産技術研究所の岡部徹教授は「特性から見ればチタンは夢の素材。あらゆる素材がチタンに置き換わる可能性がある」と話す。
チタン産業の成長の鍵となるのが航空機産業だ。米ボーイングや欧エアバスなどが製造する最新の大型航空機では、機体の軽量化を追求し、主要素材がアルミ合金からCFRP(炭素繊維強化プラスチック)などの複合素材へ移行している。チタンは熱膨張率がCFRPに近いため、接合部品やエンジン部分などに使われ、1台当たりの使用量が全体重量の15%程度まで増加している。
航空機需要は今後も年率4―5%で伸長するとみられ、航空分野の需要は底堅い。チタン生産量の世界シェアでは中国が4割を占める首位だが、欧米の航空機分野には厳しい品質認証があるため、安価な中国品との競合を避けられるという側面もある。
日本のスポンジチタン、展伸材メーカーも航空機産業でのシェア拡大を目指し取り組みを進める。神戸製鋼所と日本エアロフォージが14年にエアバス社の最新鋭旅客機「A350XWB」の着陸装置向けのチタン鍛造品を製造・供給する契約を締結するなど着実な成果が出始めている。新日鉄住金と東邦チタニウムの合弁会社である日鉄住金直江津チタンも航空機向けチタン合金の製造体制を強化している。
一般工業向けでは、プレート式熱交換器(PHE)や電力や各種プラント向けの比率が高い。また建材として羽田空港D滑走路や浅草寺の部材として実績があり、近年では中国でその特性が評価され美術館などへの採用が進んでいる。ただ「初期コストの高さから敬遠されるケースがある」(展伸材メーカー)。
1件当たりの使用量は多いが、案件の多寡により需要量に大きな波が生じる傾向がある。民生分野でも電子機器の筐体や日用品、スポーツ用品などさまざまな分野に採用されるが、いずれも一部の高級品などに限定され、競合素材であるステンレスやアルミほど需要量は拡大していない。
チタンの普及を目指す上で最大の課題となるのがコストだ。スポンジチタンの製造コストの大半を電力コストが占める。昨今の電力コストの高止まりは、国内チタン産業の成長にとって足かせとなりかねない。製錬から加工までの拠点が国内に存在し、一貫したサプライチェーンを構築できるという点が、新規用途を開拓する上での強みの一つでもある。業界として国に環境整備を促すとともに、各社が徹底した生産の効率化、コスト削減に取り組んでいる。
長期的には、革新的な製錬技術の開発が命題となる。スポンジチタンの製造法は現在も1930年代に開発された熱還元法(熱還元法)がベースとなっており、コスト低減のボトルネックとなっている。より低品位の原料や電力消費を抑えた効率的な製造プロセスの実用化が求められている。
スクラップの使用比率も年々向上しつつあり、航空機向けでは原料の約6割がスクラップとされる。ただ、現状では国内で発生するチタンスクラップの9割近くが海外で再溶解されている。チタンの普及拡大を目指す上で国内リサイクルプロセスの確立も重要な課題となる。
通商課題については昨年、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)において、現在米国が課すスポンジチタン15%、チタン展伸材5・5―15%の輸入関税を10―15年かけて撤廃する内容で大筋合意に至った。こうした関税障壁は欧州圏にも存在し、完全撤廃に期待がかかる。
経済産業省が昨年まとめた「金属素材競争力強化プラン」では技術開発戦略、国内製造基盤強化戦略、グローバル戦略の3つの戦略が掲げられており、日本チタン協会は16年度の重点課題の1つとして、具体化に向けた検討を進める方針だ。
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