――新中期経営計画初年度の市場環境は厳しく、鉄鋼グループ(G)の利益は上期に352億円と前年同期比13・5%減少した。鋼材と鋼管の両部門のうち、まずは鋼材について現状と下期をどうみているか。
「中期計画でチャレンジングな目標を掲げているが、上期は残念ながら目標に見合ったペースにはならなかった。鉄鋼Gとして当初の通期利益計画890億円を今回、740億円に下方修正した。そのうち鋼材は歯を食いしばって取り組んでおり、前年並みを維持できる見通しだ。中国経済が落ち込み、その影響がASEANに及び、いずれも当社の薄板の主力地域なのでかなり苦しんでいるが、鋼材の事業は他の地域と他の鋼材品種のポートフォリオの力が機能している。前中計を通じて取り組んできた下振れ耐性力の強化によって利益を維持できている」
――鋼管は北米での市況下落が響き、主な減益要因となった。
「北米事業の回復は遅れており、利益は前年並みに留まる見通し。北米以外の鋼管は堅調。米国のオイル・ガスのリグ(掘削機)の稼働数は当初の600基台という見込みに対して足元580基程度に留まるものの、1基当たりの鋼管使用量が増えており、鋼管需要そのものは悪くはない。開発業者が技術革新を進め、操業効率を追求し、水平掘りの長さも延びた結果、米国の原油生産量は落ちず、高水準を維持している。一方でアジアからの鋼管輸入が増え、米国内の鋼管ミルが対抗して受注しようと製品価格を下げた結果、鋼管市況は下落している。当社の鋼管問屋の販売マージンが落ちたが、売りと買いをつないだビジネスの比率を高くしており、市況下落時の在庫評価損を避けることができている。在庫量も抑えているが回転数は上がり、健全な状態にあるので市況が反転した時のキャッチアップは速いだろう。鋼管市況は下期に底を打ち、利益は上向くとみている。米大統領選の影響で市場は様子見となり、EV(電気自動車)も鈍化しているが、新たな政治体制の経済政策に注目する。非米は長期契約の船積みが年明けから始まるが、ガス中心に生産の拡大が見込まれ、新しい長期契約の話もあり、ビジネスの拡大が期待できる」
「鋼材は下期の利益は上期並み、鋼管は北米の改善・非米の伸長を織り込み、鉄鋼Gの下期の利益は390億円と上期より増えると予想している。通期予想は下方修正したが、できる限り上積みを図っていく。利益の内訳は鋼材3割、鋼管7割だが、両部門とも伸ばし、鋼材4割、鋼管6割を理想としている。そのための施策も打っていく」
――米国市場が堅調な一方で中国市場の停滞が長引いている。アジアの事業戦略に変更は。
「中国は市場の変調でコイルセンターなど事業会社の業況は厳しく、地場の有力企業との連携など戦略の見直しを進めている。退くことは考えていない。ASEANも同じように市場が変わりつつあり、機能や価値、フォーメーションをどう変えていくべきか検討している。機能をどのように守り、また磨いていくか。ターゲットは自動車と並ぶ大きな需要分野の建材市場だ。マレーシアでローカル資本と組み建材分野にも注力しているが、タイやベトナム中心にASEAN全体での建材分野の取り組みを考えていく」
――成長市場のインドで特殊鋼メーカーのムカンド・スミ・スペシャルスチールの強化策を検討している。
「ムカンドの特殊鋼圧延事業は上工程と下工程のアンバランスを補正しようとパートナー企業と検討している。インドの特殊鋼市場はまだまだ輸入材が多いのでムカンドの競争力を高め、国産化を進めていきたい」
――国内需要は下期をどうみているか。
「国内需要は上期並みとみている。自動車の生産回復が進むことを期待しているが、その中で住友商事グローバルメタルズは奮闘し結果を出している。国内の事業会社は住商メタルワン鋼管や伊藤忠丸紅住商テクノスチール、各コイルセンター含め健闘している。住友商事は不動産デベロッパーでもあり、また各支社支店も地域の工事物件の情報を把握している。住商本社が全国の物件情報を集め、建材資機材の売り込みのチャンスを探り、事業会社とも適宜連携しながら、総合商社としての強みを発揮している」
――着床式洋上風力発電に使われる大径鋼管「モノパイル」の世界大手メーカー・EEWへの出資を決めた。
「現在独禁法の審査を受けており、年内にクロージングできるとみている。そうなれば年明けから事業への参画が始まり、連結益も加わる。EEW自身の受注も堅調。欧州での着床式洋上風力の開発はしばらく続く見通しであり、モノパイルを製造するプレーヤーも少ないので期待している。当社はEEWに厚板を販売しているが、出資後はEEWのモノパイルも販売することにもなり、相乗効果も見込む。欧州の企業に出資する意義は大きく、欧州市場をさらに広く捉えられるようになり、事業の発展を期待している」
――国内は需要が減少する中で流通の効率化が課題となっている。
「内需が減少し、鉄鋼メーカーが構造改革に取り組む中で鉄鋼商社としてどのような機能を持たなければならないか、どのような機能が求められているのか、核心を押さえないといけない。鉄をやり抜く商社として勝ち残るために最優先すべきことを考える。流通にとって大事なことは機能を磨くこと。単に再編の形を議論するのではなく、機能を追求しなければならない。商社として最も重要なのは『売る力』だが、直接売る力だけでなく、当社扱いだとひと味、ふた味違うという付加価値を総合商社として考え、住友商事グローバルメタルズとともに実行していく」(植木 美知也)