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2024.10.24
2024年10月25日
三井物産 金属資源本部長に聞く/稲室昌也氏/インド市場成長取り込む
三井物産の金属資源本部は鉄鉱石、原料炭の安定供給、銅、アルミの供給拡大に加え、新たに電池材料の確保にも取り組む。金属リサイクル事業の強化にも動いており、産業界の必須資源を確保する方針を稲室昌也本部長に聞いた。
――前年の総括を。
「前期はおおよそ狙い通りの実績を出せた。特に後半は商品市況の下落局面も見られたが、当期純利益3351億円は狙いよりも上だった」
――今期は減益。
「2900億円。鉄鋼原料を中心に価格は前年度対比での下落を織り込む。需要面ではコロナ明け繰り越し需要が見られる一方、供給側はインフレ、労働市場タイト化に伴い上流事業はこの5年間コストが上がった。今期はコスト上昇を食い止める」
――中国要因は大きい。
「鉄鉱石の主たる輸出先は中国だ。中国粗鋼生産は政策要因もあり前年水準から抑制されている。特に不動産市況の低迷に伴い経済の勢いが弱い。そのなかでも高炉からの出銑はそれなりに出ている。鋼材輸出は高位推移しているので、鋼材市況が下落しミルマージンが悪くなっている。鉄鋼原料価格にも下方圧力がかかる」
――銅は。
「中長期的な需要増に対し供給能力が追い付かず需給環境は逼迫するとの市場コンセンサスのなか、勢いは鉄鋼原料に比べると悪くない」
――新戦力は。
「足元で実行する案件、今後狙っていく案件は多々あるが、必ずしも収益にすぐ効くものばかりではない。一方、物流・トレーディングは良い方向に向いている。市場環境の悪化により需要の下落もあれば、乗り換える需要に対して埋めていけるものがある。物流面での頑張りが成果として見え始めている」
――鉄鉱石の豪BHP合弁事業では出荷能力のボトルネック解消で量が増える。
「BHPとしての総出荷量は年々増えている。新たな動きでなくかねてから施してきた努力が結実した」
――グリーンアルミの買い増しは。
「増資完了タイミングもあり今期の追加収益貢献は限定的だが、オフテイク増量分は徐々に効き始める」
――銅は。
「コジャワシとアングロ・アメリカン・スールだ。アングロ・アメリカン・スールは立て直しを図っている。4―6月は想定より良かったが、豊富な鉱量を十分に活かした持続可能な体制強化にはまだ時間がかかる。コジャワシは引き続き順調だが、足元の採掘面で品位的に若干落ちるものの、販売工夫で影響は最小化できている」
――原料炭は提携相手のアングロ・アメリカンが事業を売る。
「ドーソンの49%、キャップコールの30%、モランバノース・グローブナーの4・75%と出資比率の異なる合弁事業だが、各々の品位に応じた顧客ポートフォリオも確立出来ている。少数株主の当社からすると、操業を着実に履行できるパートナーを希望。各炭鉱が経済性を持って操業継続される体制を見極めたい」
――米アトラスリチウムに出資し、ブラジルでリチウムの引取権を得た。5年で31万5000トンだが、売り先は。
「鉱山側では段階的なランプアップを計画しており、本格的な開始まで時間がある。市場環境も見ながら売り先を検討していく」
――アルブラスの引取量は14万トンに増えるが、全量がグリーンアルミか。
「アルブラスの使用する電力は全て水力由来であり、全量がグリーンアルミだ」
――内外でグリーンアルミ需要が高まるが、調達量を増やすか。
「世界的に見てグリーン化の動きが一部後退しているのは否めない。それをチャンスとして、脱炭素社会の実現に不可欠なグリーン素材の供給確保は進める。良い案件があれば上流資源も含め検討しており、有望案件の構築を目指す」
――アルブラス以外から調達することは。
「全て見ている。できれば上流権益も、例えばボーキサイトも手が出せるものがあれば検討したい」
――どの地域か。
「限定せずに幅広く検討している」
――具体化するのは現中経期間か。
「現中経期間でめどを付ける。いくつかのオプションの中から絞り込み、着実にものにしたい」
――非鉄金属だと例えばニッケルとか。
「世界的なグリーン化の文脈でも非鉄ポートフォリオの拡充が必要だ。アルミもだが、リチウムもニッケルもそう。ニッケルはインドネシアの中国資本の動きもあるので、タイミングを相当詰める必要がある。アルミ、リチウム、ニッケル等は現中経、次期中経を含めてポートフォリオ拡充する」
――銅は。
「有望案件は限られるのが実態だが、当社の銅ポートフォリオの強化に向け既存の中南米問わず有望案件を追求する」
――アルミでノルスク・ハイドロとは提携関係にあるのか。
「アルブラスの大株主でもあり、関係は深まっている。様々な展開を期待できる有力なパートナーだ」
――中東の直接還元鉄は。
「FID(最終投資意思決定)に向け神戸製鋼所と共同でプロジェクト推進中。生産開始時は天然ガスでの還元から始め、将来的に経済性が許せば水素還元も含めグリーン化を進めていく」
――リサイクルとか地上資源、鉄スクラップも大事だが。
「シムズへの出資を中心にグローバルな金属リサイクル事業を強化中。シムズも取捨選別を進めており、今年8月には英国事業の売却を発表した。シムズの収益基盤強化は北米、豪州、ニュージーランドを中心に進めており、引き続き我々もサポートする。インドMTC社への出資合意も公表した。粗鋼生産や自動車生産が拡大するインド市場の成長を取り込みたい。中国ではアルミ二次合金メーカー、アルコム社への出資を通じ、アルミリサイクル事業を拡大する。国内子会社・関係会社である三井物産メタルズ、エムエム建材などの国内事業基盤に加え、グローバルにリサイクル事業を拡大している」
「非鉄・リサイクル事業のポートフォリオ拡充と並び、当社強みである鉄鋼原料事業も当然ながら継続強化する。強みを生かして有利な条件で着実に進めたい。攻める分野は幅広いが、それぞれに注力すべき対象はしっかりと見えている」
――鉄鉱石の強固な収益基盤をテコに非鉄・リサイクル事業拡大につなげる構図。
「鉄鋼原料では鉄鉱石が最大の収益基盤であり、非鉄・リサイクル事業のポートフォリオ拡充にもつなげていく」
――銅を何万トンにするなど目標は。
「具体的な数字目標は出していないが、責任あるサプライヤーの位置付けは目指したい」
――全く新しい金属などは。
「既存資産の拡張や近隣鉱区の取り込みは既に着実に取り組んでいる。この路線を崩して、新しい分野に飛び込むことは現在のところ積極的な検討対象にない。プラットフォームとしての資源事業の位置付けに対し当社モビリティやインフラ系の業際案件も加わっており、本部間のシナジー効果も大いに発揮できている」(正清 俊夫、田島 義史、増岡 武秀)
――前年の総括を。
「前期はおおよそ狙い通りの実績を出せた。特に後半は商品市況の下落局面も見られたが、当期純利益3351億円は狙いよりも上だった」
――今期は減益。
「2900億円。鉄鋼原料を中心に価格は前年度対比での下落を織り込む。需要面ではコロナ明け繰り越し需要が見られる一方、供給側はインフレ、労働市場タイト化に伴い上流事業はこの5年間コストが上がった。今期はコスト上昇を食い止める」
――中国要因は大きい。
「鉄鉱石の主たる輸出先は中国だ。中国粗鋼生産は政策要因もあり前年水準から抑制されている。特に不動産市況の低迷に伴い経済の勢いが弱い。そのなかでも高炉からの出銑はそれなりに出ている。鋼材輸出は高位推移しているので、鋼材市況が下落しミルマージンが悪くなっている。鉄鋼原料価格にも下方圧力がかかる」
――銅は。
「中長期的な需要増に対し供給能力が追い付かず需給環境は逼迫するとの市場コンセンサスのなか、勢いは鉄鋼原料に比べると悪くない」
――新戦力は。
「足元で実行する案件、今後狙っていく案件は多々あるが、必ずしも収益にすぐ効くものばかりではない。一方、物流・トレーディングは良い方向に向いている。市場環境の悪化により需要の下落もあれば、乗り換える需要に対して埋めていけるものがある。物流面での頑張りが成果として見え始めている」
――鉄鉱石の豪BHP合弁事業では出荷能力のボトルネック解消で量が増える。
「BHPとしての総出荷量は年々増えている。新たな動きでなくかねてから施してきた努力が結実した」
――グリーンアルミの買い増しは。
「増資完了タイミングもあり今期の追加収益貢献は限定的だが、オフテイク増量分は徐々に効き始める」
――銅は。
「コジャワシとアングロ・アメリカン・スールだ。アングロ・アメリカン・スールは立て直しを図っている。4―6月は想定より良かったが、豊富な鉱量を十分に活かした持続可能な体制強化にはまだ時間がかかる。コジャワシは引き続き順調だが、足元の採掘面で品位的に若干落ちるものの、販売工夫で影響は最小化できている」
――原料炭は提携相手のアングロ・アメリカンが事業を売る。
「ドーソンの49%、キャップコールの30%、モランバノース・グローブナーの4・75%と出資比率の異なる合弁事業だが、各々の品位に応じた顧客ポートフォリオも確立出来ている。少数株主の当社からすると、操業を着実に履行できるパートナーを希望。各炭鉱が経済性を持って操業継続される体制を見極めたい」
――米アトラスリチウムに出資し、ブラジルでリチウムの引取権を得た。5年で31万5000トンだが、売り先は。
「鉱山側では段階的なランプアップを計画しており、本格的な開始まで時間がある。市場環境も見ながら売り先を検討していく」
――アルブラスの引取量は14万トンに増えるが、全量がグリーンアルミか。
「アルブラスの使用する電力は全て水力由来であり、全量がグリーンアルミだ」
――内外でグリーンアルミ需要が高まるが、調達量を増やすか。
「世界的に見てグリーン化の動きが一部後退しているのは否めない。それをチャンスとして、脱炭素社会の実現に不可欠なグリーン素材の供給確保は進める。良い案件があれば上流資源も含め検討しており、有望案件の構築を目指す」
――アルブラス以外から調達することは。
「全て見ている。できれば上流権益も、例えばボーキサイトも手が出せるものがあれば検討したい」
――どの地域か。
「限定せずに幅広く検討している」
――具体化するのは現中経期間か。
「現中経期間でめどを付ける。いくつかのオプションの中から絞り込み、着実にものにしたい」
――非鉄金属だと例えばニッケルとか。
「世界的なグリーン化の文脈でも非鉄ポートフォリオの拡充が必要だ。アルミもだが、リチウムもニッケルもそう。ニッケルはインドネシアの中国資本の動きもあるので、タイミングを相当詰める必要がある。アルミ、リチウム、ニッケル等は現中経、次期中経を含めてポートフォリオ拡充する」
――銅は。
「有望案件は限られるのが実態だが、当社の銅ポートフォリオの強化に向け既存の中南米問わず有望案件を追求する」
――アルミでノルスク・ハイドロとは提携関係にあるのか。
「アルブラスの大株主でもあり、関係は深まっている。様々な展開を期待できる有力なパートナーだ」
――中東の直接還元鉄は。
「FID(最終投資意思決定)に向け神戸製鋼所と共同でプロジェクト推進中。生産開始時は天然ガスでの還元から始め、将来的に経済性が許せば水素還元も含めグリーン化を進めていく」
――リサイクルとか地上資源、鉄スクラップも大事だが。
「シムズへの出資を中心にグローバルな金属リサイクル事業を強化中。シムズも取捨選別を進めており、今年8月には英国事業の売却を発表した。シムズの収益基盤強化は北米、豪州、ニュージーランドを中心に進めており、引き続き我々もサポートする。インドMTC社への出資合意も公表した。粗鋼生産や自動車生産が拡大するインド市場の成長を取り込みたい。中国ではアルミ二次合金メーカー、アルコム社への出資を通じ、アルミリサイクル事業を拡大する。国内子会社・関係会社である三井物産メタルズ、エムエム建材などの国内事業基盤に加え、グローバルにリサイクル事業を拡大している」
「非鉄・リサイクル事業のポートフォリオ拡充と並び、当社強みである鉄鋼原料事業も当然ながら継続強化する。強みを生かして有利な条件で着実に進めたい。攻める分野は幅広いが、それぞれに注力すべき対象はしっかりと見えている」
――鉄鉱石の強固な収益基盤をテコに非鉄・リサイクル事業拡大につなげる構図。
「鉄鋼原料では鉄鉱石が最大の収益基盤であり、非鉄・リサイクル事業のポートフォリオ拡充にもつなげていく」
――銅を何万トンにするなど目標は。
「具体的な数字目標は出していないが、責任あるサプライヤーの位置付けは目指したい」
――全く新しい金属などは。
「既存資産の拡張や近隣鉱区の取り込みは既に着実に取り組んでいる。この路線を崩して、新しい分野に飛び込むことは現在のところ積極的な検討対象にない。プラットフォームとしての資源事業の位置付けに対し当社モビリティやインフラ系の業際案件も加わっており、本部間のシナジー効果も大いに発揮できている」(正清 俊夫、田島 義史、増岡 武秀)
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