2024年9月27日

営業戦略を聞く/JFEスチール 祖母井紀史副社長/高付加価値品比率高める/グリーン鋼材・倉敷電炉が中計の肝

――需要が年度当初の見通しを下回る水準で推移し、通期の単独粗鋼生産予想を下方修正した。市場の先行きをどうみているか。

「自動車は認証問題などの影響で減産が続いたが下期は徐々に回復し、24年度の国内生産台数は前年度(約870万台)並みを想定している。造船は手持工事が3年分ほどあり、比較的堅調だ。建機・産機は輸出次第だが、足元は生産調整局面にある。建築は、首都圏の再開発やデータセンターなど大型案件の計画は多いが人手不足や資材高の影響で先送りの動きが出ており、総じて下期も低調な見通しだ。当社の24年度の単独粗鋼生産予想は前回5月予想から上期で40万トン下方修正した。下期については不透明な要素もあるが当初想定水準への回復を

見込む」

――第1四半期に鋼材輸出を大きく減らしたが、第2四半期はやや増やしている。

「鋼材輸出は従来から販売している海外のお客様や海外事業会社向けの原板供給が中心だが、上期は自動車生産が前年より20%程度減っているタイやインドネシアの事業会社向け原板を減らした。米国の利下げ観測・ドル安からタイバーツ、インドネシアルピアが上がり、経済環境は多少改善してきている。ベトナムは政情不安から需要が鈍化し、中国からの鋼材輸入増もあって鋼材市況が軟化している。各国は保護主義を志向しており、輸出環境は厳しくなる。各国のAD提訴による影響を注視している。インドは乾季を迎えたことや総選挙後の政策動き出しにより、経済が上向いていくと想定している」

――鋼材の販売価格を見直し、成果を上げてきた。数量が減る中で価格を上げスプレッドを改善し収益の向上につなげている。足元は輸入材が増え、主原料価格も下落する一方で物流費など諸物価のコストが上がっているが、価格政策をどう進めていくか。

「価格は、主原料・為替、副原料・資機材・物流費・外注を含めた労務費といった諸物価、再生産やCN化が可能なレベルの利益、の三層構造。主原料価格や為替によるコスト変動はお客様に理解され、諸物価についても大方理解されている。製品ごとのエキストラの改善もかなり進んだ。製品の価値に見合った価格への改善活動は継続する。流通含め国内の鉄鋼業は安値で数量を取るのではなく、得るべき利益を重視するようになり、長年の懸案だった流通の加工賃改定も動き出している。一時的な輸入材との価格差は理解しているが、当社としては流通の販価・加工賃改善の流れを維持するためにも販価を大事にしていく。カーボンニュートラル(CN)対策などで多額の投資を必要とすることも見据え、お客様とよく会話をしながら、鉄鋼業の状況を理解していただき、サプライチェーン全体で利益が出る構造にしていきたい」

――現中期経営計画のテーマ「量から質への転換」が進んでいる。今年度上期に倉敷地区で電磁鋼板の第一弾の能力増強が完了する。戦略商品の能力増強・拡販にどう取り組む考えか。

「価格競争にさらされにくい高付加価値品の比率は今年度に50%まで数量を伸ばす。高付加価値品比率を 60、70%と引き上げていきたいが、量より質を選んでいるということではなく、質をよくして量を維持する考えだ。方向性電磁鋼板(GO)は変圧器、無方向性電磁鋼板(NO)は電動車用の主機モーター向けなどで中長期的な需要増が見込まれる。電磁鋼板は機能材なので、開発した技術や高いグレードが評価され、使用が広がっていく。倉敷地区での第一弾のNO生産能力増強は上期に立ち上がり、品質確認などを進めている。第二弾の増強投資も進めている。さらに先の投資は海外となると考えている。インドではJSWスチールとGO製造合弁会社を設立し、27年度の生産開始を計画している。インドは高い経済成長が続き電力需要が増える見通しであることからGOの需要も相当量増えることが見込まれる。インドにおいてはGO以外の品種も含め、JSWと成長投資を考えていく。インドだけでなく、北米や他の需要が伸びる地域でも電磁鋼板の製造拠点を検討していく」

――自動車用の高張力鋼板(ハイテン)の需要も増えていく。25年度開始の新中計で取り組む強化策は。

「軽量化やCNへの対応を考えると、自動車はもとよりその他の分野でもハイテン化のニーズが国内外でより一層増えていくと考えている。ハイテン材の供給能力を強化するため、全社で積極的な投資を進めていく。厚板では世界でも製造できる鉄鋼メーカーが限られる洋上風力向け大単重厚板において、海外のファブリケーター向けの納入を開始しており、今後はJFEエンジニアリングのモノパイル工場など国内向けにも出荷していく。形鋼は建築の省力化につながる加工法とセットで提案し、付加価値の高い事業構造にしていく。ステンレスは千葉地区の新電気炉でCO2排出量削減を図りながら、新エネルギー関連で増える需要を捉える。また、次期中計における品種セクター共通の視点として、グリーン鋼材の拡販、新商品や新規分野を拡大して商品群を高度化することによる非価格競争力の強化、お客様や流通、アライアンス先などと組むことで競争力を上げるパートナー戦略、の三点が挙げられる」

――新中計ではCN対策が具体的に進む。検討している高効率・大型電気炉導入は大きなテーマに。

「グリーン鋼材であるJGreeX(ジェイグリークス)の拡販と電炉導入が新中計の大きなポイントとなる。JGreeXについては幅広い分野・品種での採用が拡がっている。サプライチェーン全体でのCO2削減価値負担モデルを構築したJGreeX使用ドライバルク船の第一号が6月に進水したが、同船は日本海事協会の「環境ガイドライン」に基づき世界で初めてグリーン鋼材の使用を示す記号が船級符号に付記された形で認証される予定で、そのバリューは将来的に海運・造船業界の脱炭素対応にも寄与すると考えている。倉敷地区での高効率・大型電気炉導入検討については高品質・高機能鋼の製造が重要なカギの一つだ。CN対策に向けて高い品質や機能を持つ電気炉鋼を求める需要家も出てくる。電気炉で製造可能なものと難しいものを判別し、何を造るべきかを定め、技術と営業が一体となって市場に商品を提供していく。電気炉導入の際に必要な原料の鉄スクラップについてはサーキュラーエコノミーの観点でお客様からのスクラップ回収モデルも築いていきたい」

――中国市場は非常に厳しい状況が今後も続く見込みだが、事業拠点を見直す考えは。

「中国は巨大なマーケットであり、それぞれの事業ごとに是々非々で対応していく。例えば、自動車用鋼板を製造している広州JFE鋼板は日系自動車の販売減影響を受けているが、一方、中華系への拡販や操業改善などで黒字を確保している。一方で自動車・建機用の鋼管を製造・販売している嘉興JFE精密鋼管は収益が厳しく、事業環境の改善も見込めないと判断し、撤退を決めた。現在、清算手続きを進めている」

――物流の2024年問題への具体的な対応策は。

「システムも活用しながらトラックの待ち時間を減らす仕組みを進めている。今のところ、デリバリーに触れる影響するような問題は顕在化していないが、トラックドライバーの確保は今後一層難しくなると見込んでおり、能力確保に向けた対応策を引き続き推進する必要がある。モーダルシフトは有効性の高い施策であり、内航船などで一次輸送を行い、ラストワンマイルをトラックで運ぶ効率のよい鋼材の物流システムをさらに強化していく」(植木 美知也)

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