2024年9月10日

神鋼商事の成長戦略/中期経営計画2026/(2)金属本部長/足達雅人専務/資源循環ビジネスに商機/新SC構築 マルチマテリアル提供

――2024年度の新中期経営計画開始とともに組織を金属本部と機械・溶接本部へと5本部制から2本部制に変更し、金属本部の中に鉄鋼、アルミ・銅、原料の3ユニットを配置した。組織改編の狙いとは。

「これまで鉄鋼と非鉄金属、鉄鋼原料の3本部に分かれ、組織の壁のようなものが文化としてあり、また鉄鋼と銅板は神戸製鋼材を主に販売しているが、アルミは神鋼材以外の材料も取り扱い、アルミ専業コイルセンター(CC)や機械加工事業などの当社独自のサプライチェーン(SC)を築くなど部門間で色合いが異なり、縦割りの意識が強かった。原料はカーボンニュートラルへの対応に向けてバイオマス燃料の拡大、再生可能エネルギー関連へのアプローチに臨む必要がある。部門ごとに事業を進めていては変化の激しい時代に立ち向かえない。組織の壁を取り払い、情報や人材の流動化を活性化していく」

――各ユニットの成長戦略をどのように進めていくのか。

「第一にマルチマテリアルを考える。メーカー系商社ながら鉄鋼、アルミ・銅、チタン、鋳鍛鋼、鉄粉、ステンレスなど多くの素材を扱い、加工機能を備えている。アルミ・銅ユニットでは製造系事業会社を持つ。中計で掲げる『第二の創業の本格化』に向けて投資戦略は大きな要となる。各ユニットで新しいSC構築を目指し、鉄鋼や原料、アルミ・銅が相互に連携し、マルチマテリアルを提供する。スキルを1つ、2つプラスした人材がいると事業や戦略が組みやすい。商品や人材の流動性を高め、事業の枠を広げていく」

――組織の枠組みを取り払うことで求める効果とは。

「プロジェクトや事業投資についてユニット間でプロセスを共有する。M&Aについてロングリストからのアプローチ、あるいはM&A先と相対で行うなどさまざまなケースに対し、経営層と現場までが一体となってプロセスを共有することで推進力が増す。有望市場であるEVと充電インフラは非鉄金属やステンレスの加工品など多くの商材が使われ、当社として多くの提案が可能。アルミ・銅ユニットが中国でアルミCC、ベトナムで押出加工会社を運営するノウハウを他のユニットの事業にも生かしていく」

――トレードから事業投資へシフトする。投資戦略とは。

「内需が縮小する中でトレード事業だけでは成長に限りがあり、事業投資が重要になる。トレード事業はDXを活用し効率化を進める。本中計は主に国内で投資を活性化させ、素材系トレードビジネスにおいては顧客目線に立ったDX活用によってプラットフォーム化を推進し、在庫の削減や効率的な納期運営、省人化を図るシステムを導入する。効率化によって生まれる人材を事業投資に振り向ける。航空宇宙や船舶向けなど加工製品のASEANや欧州への輸出を計画している」

「アルミ・銅は資源循環と半導体の仕上げ加工を含めたオリジナルSC構築に大きく投資する。半導体製造装置向けアルミチャンバーの仕上げ加工を行う神商精密の国内拠点が25年後半に稼働を始め、中国の神商精密器材(蘇州)と神商精密器材(揚州)とで半導体向けアルミ加工の日中のSCが出来上がる。従来の中国での素材調達から粗加工、仕上げ加工に加え、日本での神鋼材活用による粗加工、仕上げ加工を行う体制を築き、カントリーリスクや為替変動に柔軟に対応できる最適生産を来年度にスタートする。原料はバイオマス燃料の安定供給に資源を投じる」

――素材系と原料のユニットで追求するシナジーとは。

「資源循環ビジネスの分野が有望だ。前中計に参画した自動車用アルミパネルリサイクルに加え、本中計ではエックス線選別機を導入したリサイクル事業参入を計画している。併せて神商精密日本では操業当初からこれまでのノウハウを基に水平リサイクルを始める。培ったリサイクル技術を生かし、資源循環ビジネス事業会社を設立し、家電や自動車のポストコンシューマリサイクルにも参画する。原料ユニットと連携して集荷力を上げ、資源の国内循環を目指す。中計の投融資200億円(DX関連除く)のうち多くが金属本部。検討の案件がすでに多く出てきており、具体化し、将来の利益の源泉とする」

「人材の流動化については本年度より開始し、機械・溶接本部含め効果的で社員のエンゲージメントを高める人事施策を進める。アルミの担当者が鋼材も扱い、海外でも活躍し、M&Aや新事業を立案・実行するなどプラス1、2のスキルを持つマルチな人材を育成する。人事担当の役員でもあるのでダイバーシティ含め活性化していきたい」

――海外戦略にどう取り組む。

「ASEANは重点エリアであり、ベトナムのアルミ押出加工会社の増強を計画している。インドは潜在需要は大きいが日本の素材では競争が難しく、将来の課題だ。中国市場は慎重に見るが神商精密の拠点が地産地消のSCを築き、アルミCCの蘇州神商金属も増強投資を終え、販売が中国・欧米系中心と地産地消で戦う体制を整えている」

――中計の金属本部の利益目標は。

「26年度に全社の8割程度を見込んでいる。かなり高い目標だが本部として鉄鋼は厳しい市場の中で利益水準の維持を目指し、23年度に落ち込んだアルミ・銅は回復・成長を進めていく」

――将来の金属本部のあるべき姿とは。

「企画推進機能を本部内に備えたい。事業買収や新事業立ち上げのノウハウを持ち、本部が事業戦略を打ち出し事業会社の運営も管轄する。本社はコーポレートとして一段高い立場から管理する体制をイメージしている。プラス1、2のスキルを持つ人材がマルチマテリアルのサービスを提供する。強みをさらに強くし、魅力ある会社にしていきたい」

(植木 美知也)



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