2024年8月22日

東京貿易HDの経営戦略を聞く/坪内秀介社長/4部門に再編 強み磨く/事業開発型商社グループへ

戦後、高炉メーカーとの取引をスタートし、現在は広範・多岐にわたる事業を展開している、東京貿易ホールディングス(本社=東京都中央区)。商社として製鉄所に耐火物を納入するなどトレーディングを拡げながら、2023年には4月に播州電装(TB播州電装、本社=兵庫県加古川市)を、9月に日本アドバンスロール(JAR、本社=茨城県ひたちなか市)を子会社化した。既存事業を磨き上げると同時に顧客目線に立った新規領域にも進出し、16の国内外事業会社とともに、事業開発型商社グループへの発展を目指している。24年度から4カ年の第7次中期経営計画を始動させた坪内秀介社長に経営方針、中・長期ビジョンなどを聞いた。

――東京貿易グループの事業展開の考え方を。

「当社は1947年10月に創業し、22年に75周年を迎えた。八幡製鉄(現日本製鉄)の指定業者として鋼材を輸出する一方、鉄鉱石やマンガン鉱石を輸入し、販売していた。トレードで規模を拡大してきたが、自分達で事業を手掛けることで、顧客への提供価値をさらに最大化させるべく取り組んできた。今ではグループ企業の東京貿易マテリアルが鉄鋼製品をはじめ、各種資材や資源をそれぞれの需要産業に供給するとともに、TBグローバルテクノロジーズがローディングアームなどエネルギー関連機器を、ティービーアイは監視カメラなどのセキュリティー機器を、また東京貿易テクノシステムが各種三次元測定機などを企画から開発、製造、アフターサービスをそれぞれ一貫で手掛けており、顧客により高い価値を提供している」

――強みは何か。

「トレードするだけでなく、顧客に価値を提供するため、モノづくりからソリューションまで一気通貫の事業基盤を整えていること。また、各需要産業のトップレベルの顧客と取引している点にある。トップレベルの顧客が事業を展開するために欠かすことができないサービスを提供しているのが強みだ」

――24年4月から組織を再編成した。

「創業からしばらくの間は東京貿易の中に各事業部を設置していたが、事業部制では採算意識が希薄になり、収益への責任をより感じてもらうため、06年から連邦経営にシフトした。東京貿易はホールディングス会社になり、事業会社を傘下に置くことで各事業の自立性を高め、採算改善を図った結果、収益が拡大してきた。ただ、組織がサイロ化し、グループ内の事業会社が自社の利益追求のみに重きを置くようになり、グループ内でシナジーを生み出すことが難しくなったため、さらなる成長を遂げる施策として今回、組織の再編に踏み切った」

――具体的には。

「当社の強みを発揮でき、成長を目指すビジネス領域として、『エネルギーインフラ』、『マテリアルサプライ』、『イメージソリューション』、『スマートマニュファクチャリング』という4つのセグメントを定めた。セグメント会議で情報を交換するなど、これらのビジネス領域で顧客のニーズを捕捉して困り事を解決し、ビジネスチャンスに繋げる。当社はニッチ分野に強いという特長があるものの、視野が狭くなりがち。4つのセグメントを定めたことで顧客と、その需要産業をより高い視座で捉えることができ、変化を捉え、求められる価値をスピーディーに提供することが可能になる。事業会社単体の商材やノウハウではなく、グループトータルで提供できるようになると考える」

――セグメントの特徴を。

「『エネルギーインフラ』は、タンカーからエネルギーなどを荷揚げする装置・ローディングアームを主体に扱う。当社は国内シェアナンバーワン。カーボンニュートラルに向けた動きが加速しており、顧客はエネルギー転換の開発を進めている。至近でアンモニア用を手掛けるほか、川崎重工業と液体水素用の開発にも取り組んでいる。海外市場へのアプローチも強化する。『マテリアルサプライ』は鉄鋼製品、非鉄金属製品も入る。23年は4月にワイヤーハーネスを手掛ける播州電装を、9月に鍛造ロール専業メーカーのJARをグループに迎えた。『イメージソリューション』は、セキュリティー機器の開発・製作・販売がメイン。画像処理技術を自社開発しており、セキュリティーカメラに加えて顔認証まで踏み込む。『スマートマニュファクチャリング』は三次元測定機の開発・製造・販売を通じて、モノづくりのオペレーション高度化のためのソリューションを提案する。例えば自動車メーカーでは測定技術を活用したものづくりの自動化を推進しており、そこにソリューションを提供していきたい」

――管理、コーポレート両部門も強化する。

「事業会社の管理部門、コーポレート部門を統合し、強化することを検討している。購買など重複部署を一元化し、制度などはよりベストなものに合わせていくことで、コーポレート部門の質を高めていきたい」

――TB播州電装、JARについては。

「子会社化に伴うシナジー発揮はこれから。ワイヤーハーネスは当社グループで初めて扱う商材になる。JARは国内外の高炉メーカーや特殊鋼・ステンレスメーカー、電炉メーカーに鍛造ロールを納めている。当社は高炉メーカーの鋼材を販売しており、国内外の営業ネットワークを利用し、拡販に取り組む」

――23年度を振り返って。

「連結ベースで売上高は490億7400万円、経常利益52億3400万円を計上した。各事業会社が収益を確保している。また播州電装とJARを子会社化したことも奏功し、大幅な増収増益となった」

――そのM&Aに対する考え方を。

「提供する商材・事業を増やす必要があり、事業育成との比較で時間を節約できるM&Aは有効な手段と考える。セグメントで描く成長戦略を実現するためにもM&A、新規事業立ち上げなど、あらゆる選択肢を排除しない」

――24―27年度の第7次中期経営計画を策定し、スタートした。

「それぞれのニッチ分野でナンバーワンになったことで、成長に対するマインドセットが弱くなっている。国内外のマーケット環境や顧客の経営方針は大きく変化しており、新しい事業を創出して商材の付加価値を高め、この変化を捕捉して成長し続けるため、事業開発型商社グループへの発展を遂げる。最終の27年度における収益目標は売上高1000億円、経常利益100億円とし、高収益体質の1000億円企業を目指す。社会・顧客の課題を能動的に発見し、その課題に対して当社グループならではの解決策を提供することで、価値を提供していきたい」

――海外展開は。

「23年度ではカタールに支店を開設した。天然ガスの産出国であるカタールには天然ガス用ローディングアームの需要があり、販売体制を強化する。24年度以降はインドに注力する。ローディングアームやワイヤーハーネスなど各商材を売り込むビジネスチャンスは多い。当社はロシア・モスクワに現地法人を置き、ロシアとその隣国に日本製品を輸出していたが、ロシア・ウクライナ情勢でこのビジネスが止まっている。インドからロシア隣国に輸出する足掛かりを得るためにも、出先機関の開設を検討する」

――人材の確保、育成も重要課題になる。

「7次中計の大きな柱の1つで、事業とともに人材を育てる。グループワイドで社員を育てる仕組みも考え、事業会社間の異動も検討する」(濱坂浩司)

スポンサーリンク