――2023年度を振り返って。
「国内建築向け鋼材需要は資材費など建設コスト上昇や人手不足を背景として物件の工期延長や見直しがあり、盛り上がりを欠いた。当社の販売数量も前年度比で6%減少したものの、契約単価の維持に加えて等辺山形鋼のサイズエキストラ改定、北海道における異形棒鋼の運賃エキストラ見直しを含めた販売価格改定に注力した。同時により細かくコストを解析して各種改善策を講じ、コスト削減と安定生産を図った結果、経常増益となり、現在の5製造所体制になった17年度以降で過去最高益となっている。形鋼は異形棒鋼に比べて収益状況が厳しく、今後さらなる改善に取り組む必要がある」
――2024年度の市場環境予測を。
「国内の建設向け鋼材需要は前年度比で微減になるとみている。建設分野は人手不足が顕在化しているが、24年4月から時間外労働規制が厳格化され、施工時間の制約要因になる。施工能力は上方弾力性に乏しく、ゼネコン各社は選別受注を進めている。鉄骨造、鉄筋コンクリート造ともに物件の着工遅れ、計画見直しもあり、需要低迷が長引く見通しだ。一方、条鋼の輸出先であるアジアの鉄鋼マーケットも停滞中で、異形棒鋼の輸出ターゲットにしている韓国は建設需要が冷え込み、KS規格(韓国産業規格)を取得した豊平、東部両製造所は採算が合わないことから、異形棒鋼を輸出できない状況が続いている。鉄スクラップ価格は高止まりし、電力などエネルギーコスト、賃上げによる諸物価高騰、物流費アップなど製造コスト負担増が想定される」
――5製造所の取り組みはどうか。
「豊平は安定操業を続け、販価維持に努めた結果、製造所単独の収益が過去最高レベルに達した。東部はKS規格を取得し、輸出成約に繋げた。またディールコネクトの鉄スクラップ納入予約・管理システム『Onetap(ワンタップ)納入管理』システムを当社として初めて導入し、機能している。水島は扱いの難しい鉄スクラップを活用する一環として、スクラップ小型破砕機が順調に稼働しており、嵩比重の低いスクラップを破砕することで1回当たりのバスケット装入量を増やし、装入回数を減らすことで熱ロス低減を実現している。24年1月から電気炉炉上からの鉄スクラップ装入をスタートし、熱ロスをさらに減らしている。姫路は25年10月稼働に向けて伊・ダニエリ社の次世代型製鋼用電源システム『Q―ONE』導入に取り組んでおり、順調に進捗している。鹿島は23年8月から異形棒鋼ベースサイズの製造を再開し、東日本エリアにおけるデリバリーを改善した。また輸出ビレットを12㍍に長尺化し、アジアを主体にニーズを捕捉している」
――24年度の方針を。
「24年度は7次中期経営計画の最終年度にあたる。収益目標はすでに超過達成しており、『Q―ONE』などの大型投資にも着手した。引き続き各製造所で操業安定による生産性向上やコスト競争力の維持・強化を図るとともに、顧客への付加価値提供に力を注ぎながら、再生産可能な価格の実現を意識した『量を追わない価格重視』の販売姿勢を継続し、収益確保を目指していきたい。国内鋼材需要が低迷する中、輸出拡大を図り、形鋼類でオーストラリアの認証取得サイズの拡大を目指している。円安環境下、これまで輸出実績のなかったマレーシアやベトナムの需要家から引き合いが来ている。一方、物流の2024年問題への対応は重要課題。ドライバーの処遇改善や料金体系見直しを進めながら、車両数の安定確保を目指すとともに、製品物流では幌付トレーラー導入や豊平で試験運用している車両稼働の見える化を進め、スクラップ輸送では『Onetap納入管理』システムの全所導入を推進していく」
――形鋼の強化策は。
「姫路、鹿島の製造実力を向上し、品質やデリバリーなどの非価格競争力を高めるかが鍵になる。姫路は設備投資を実施するなどで、月間生産数量を現行4万トンから4万8000トンまで引き上げる。すでにオンライン寸法測定装置を設置しており、24年度には戦力化し、寸法精度を上げる。安全対策や技能伝承の効果を含めた大形工場の能力をアップするため、24年内の完了をめどに圧延ラインの型替え自動化を進める。鹿島は異形棒鋼、中小形形鋼のサイズレパートリー拡大も視野に入れる」
――設備投資計画を。
「23年度は70億円程度になり、24年度は60億円程度を計画する。老朽更新のウエイトが大きいが、姫路は10億円程度になり、大形工場の能力向上を大きなテーマとする」
――資源リサイクル事業をどう進めるか。
「水島、鹿島両製造所で産業廃棄物の処理を手掛けているが、23年4月から本格スタートした鹿島は順調に処理数量を増やしている。電気炉の超高温溶融による廃棄物の再資源化ニーズはさらに高まる見通しで、第3の拠点設置を検討している」
――カーボンニュートラル(CN)、DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応は。
「CN実現に向けて、省エネルギーを推進中。電気炉に排ガス分析装置を導入し、排ガス成分をリアルタイムに分析して酸素吹込み量などをダイナミックにコントロースすることで2次燃焼率を向上させて電力原単位の削減に取り組んでいる。水島の電気炉炉上からの鉄スクラップ装入も省エネの一環であり、このほかデータサイエンス技術適用による効果を最大限発揮する。DXについてはデータ収集基盤の構築が進み、今後はデータ解析による操業改善やコスト削減に注力していきたい」
――グリーン鋼材普及に向けた取り組みを。
「普通鋼電炉工業会がワーキンググループを発足させており、当社は主要メンバーとして電気炉鋼材製造で非化石価値を有する電力活用によるCO2ミニマムとした環境配慮型電気炉鋼材の検討を進めている。日本の電炉業界が競争力を維持・強化するためには競争力を保ちながらグリーン鋼材を実用化することが必要。同時にサプライチェーン全体で環境価値をどのように高め、共有するかも大きなテーマになる。電炉鋼材の基本価値に対する新たな付加価値として、環境負荷低減価値を持つグリーン鋼材の実証化推進の手法などを検討する」
――25年度から次期中計がスタートする。
「8次中計は25―27年度の3カ年ながら、35年までの10年間を見据え、ありたい姿を描いた上で策定する。国内外でCNに向けた動きが加速する中でJFEスチールとのグループ連携も大きなテーマで、とくに鉄スクラップ調達でのグループ連携模索は大きな論点になるとみている。10年スパンの長期視点で製造基盤整備の老朽更新を進めていくことになるが、物価高で設備投資が高額になる中、省エネ補助金を活用しながら新技術導入による効果も得ていく。操業安定化などを視野にトランスの老朽更新を見据えて姫路以外の製造所でも新電源設備導入を検討する。福利厚生充実や作業環境改善などの人材確保に向けた投資も強化する。すでにバイタルウォッチを620台導入し、従業員の健康状態をリアルタイムで把握し、病気や怪我、トラブル回避に努めており、人口減少・少子高齢化の環境下で働きやすい職場環境を創出し、人材確保に努める。厳しいマーケット環境下で収益目標を打ち出すのは難しいが、一定レベルの収益を計上し続けていきたい」(濱坂浩司)