2024年6月10日

新社長に聞く/神戸製鋼所 勝川四志彦氏/CN好機に「成長追求」へ/素材・機械系ともに「稼ぐ力」強化

――2024―26年度の中期経営計画で「魅力ある企業への変革」をテーマに掲げた。新社長としてどのような企業グループを目指す考えか。

「すべてのステークホルダーからみて魅力ある企業グループにしていきたいと思っている。そのためには様々なステークホルダーに日々接しているグループ社員全員が目標に向けて行動しなければ、本当の意味で魅力ある企業グループにはならない。経営陣が先頭に立ち、グループ社員と全員で『チーム・コベルコ』として向かっていく。グループ社員との対話の中で、『本質を追求し続ける』ことが大事だと伝えている。重要なことはコミュニケーションであり、双方向で話し合う場を増やす。2050年のカーボンニュートラル(CN)の実現を目指し、未来に向けてグループ社員とともに挑戦していく」

――最終26年度の業績目標として利益額ではなく、ROIC(投下資本利益率)6―8%を目指す意図は。

「景気変動や社会情勢が変化する中で固定的な目標だと企業としてのスピード感が損なわれる。中計期間に事業環境が変わった際に目標を軌道修正しにくいのがこれまでだったが、市場の変化には迅速に対応すべできあり、それには利益額ではなく収益性を重要視するのがよいと考えた。市場が悪化したとしても収益性は守れる可能性がある。そのために何をすべきか、どう実行していくかを考えることが大事だ。資本コストを意識してROIC6%を目指し、好環境下であれば8%に引き上げたい。ROIC6%でROE10%、ROIC8%でROE12%と、一般的に収益性が高い企業とされる値を狙っていく。成長戦略を実行し、2030年に連結売上高3兆円、連結経常利益2000億円、ROIC8%を安定的に確保する事業体を目指す」

――素材系は主に「稼ぐ力の強化」、機械系は「成長追求」を最重要課題としている。各事業をどう強化していくのか。

「『稼ぐ力の強化』と『成長追求』の2つの課題は素材系、機械系ともに実行すべきことではあるが、素材系は主に稼ぐ力を強化する。鉄鋼事業は上昇する固定費をしっかりと販売価格に反映していく。ニーズに応えるための技術力の向上、人材確保、CNに向けた投資が必要になるため、販価の改善を継続し、マージンを維持・拡大する。中国経済減速の影響で海外市況が軟化するなど外部環境は厳しいが、マージンを維持しなければ将来はない。国内需要は中長期的に減少する見通しから粗鋼生産は現在の年600万トンから減る可能性があり、製品構成の改善を続けていく。厚板工場の仕上げ圧延設備を23年度に更新し、高機能商品等の製造が可能となったことに加え、品質・デリバリー面の基本パフォーマンスを強化した。ハイテン鋼は新CGLを導入し、自動車の軽量化に対応していく。特殊鋼棒鋼線材は付加価値のより高い領域の製品を開発していく。海外は北米とアジアを重視し、特殊鋼線材製造のコベルコミルコンスチールなど多くのグループ拠点を展開するタイでの事業を特に強化していく。中国での事業は変化が激しく、市場の見極めが必要と考えている」

――アルミ系事業の黒字化が目先の大きな課題となる。

「アルミ板と素形材のアルミサスペンション・押出品は24年度に黒字化を図る。自動車用のアルミ板は需要の伸びが想定を下回っている。当初、グリーン地金の調達で対応できると考えたが、市場はクローズドループリサイクルへと方向を変え、中国のアルミ板製造拠点は海外からの材料調達が難しくなった。宝武アルミと合弁会社の設立を検討しており、中国国内でサプライチェーンの構築を計画している。人手不足や設備の問題を抱えていた米国のサスペンション・押出品の製造拠点は改善が進んでおり、安定生産を確立してマージンや製品構成の改善に取り組む。24年度にアルミ板、サスペンション・押出品いずれも黒字化を達成し、より高い水準の利益を目指していく」

――CN分野など需要が広がる機械系を中心に1000億円の成長追求投資を進め、事業の拡大を図る。

「機械系3部門のうち機械はCNで追い風が吹き、水素やアンモニア、LNG関連で需要が世界的に増えている。圧縮機などの機械設備を中東と欧州に多く納入しているが修繕するサービス拠点がなく、サービス拠点を展開することで更に受注を増やす。インドの機械関連の製造拠点を拡充し、日本から生産を移管してコスト競争力を生かす。その分、日本の工場は半導体関連の製造装置など新規分野の生産基地に変えていく」

「エンジニアリング事業は直接還元鉄製造のミドレックスの需要が旺盛だ。オマーンでは三井物産と組んで直接還元鉄の製造・販売プロジェクトを計画している。電炉の建設が増え、今後は鉄源の需要拡大と鉄鉱石の低品位化が進む。プラントの販売とともに自社で直接還元鉄を製造し、販売することで更に収益拡大を図り、事業として成長させていきたい。廃棄物や水処理の設備は複数の自治体による廃棄物の一括処理など新規の需要が増える見通しであり、ニーズに応えていく」

「建機は遠隔操作などコト売り・ソリューションビジネスに取り組む。溶接事業もだが熟練工の不足でロボットやソフトウェアの価値が高まっていく。遠隔操作の技術は農機具など他の分野でも応用出来ると考えられ、発想を広げ、価値を認めてもらえるようビジネスを展開していく」

――CNへの対応として加古川製鉄所の高炉1基の電炉化を検討している。

「電炉への転換も候補として検討しているが、電炉に置き換えた場合に高級鋼をどう製造するか、エネルギーバランスの問題をどう解消するかなど超えなければいけないハードルが多くある。30年代後半に迎える高炉改修までの間、慎重に検討し課題をクリアしていく。電炉に切り替えるとしても高炉1基と大型電炉1基体制に拘らず、柔軟な発想で考える。選択肢を広く持つことが重要だ」

――中計3年間に意思決定ベースで9500億円の投資を計画し、うちCN関連に3000億円を充当する。

「まず、製鉄プロセスのCN対応のための投資を行う。政府の補助金などいろいろな条件が決まらないと大規模な投資を意思決定できないが、高炉へのHBI多配合など対応策を進める。CN対応の投資は重要だが、一方でグリーン鋼材の市場の形成も同じく重要であり、鉄鋼業全体で取り組むとともに政府の後押しを期待する。また、製鉄プロセスだけでなく電力事業のCN対応にも投資する。神戸の1―4号機は石炭火力のため、アンモニア混焼に向けた取り組みを推進する。事業の成長やCN対応には多様な人材の活用が不可欠であり、人材戦略投資にもしっかりと取り組み、一人ひとりの成長や挑戦を促し、活躍できる環境を整えていきたい」(植木 美知也)

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