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2024.12.20
2024年6月6日
非鉄新経営―変化を好機に―/三井金属社長 納 武士氏/DX導入し生産性向上/固体電解質、量産を視野
三井金属は今年度までの3カ年中期経営計画「22中計」でデジタルトランスフォーメーション(ⅮX)やグリーントランスフォーメーション(GX)を加速させるとともに、人を最重要経営資源と位置付けた人事制度改革なども行う。納武士社長にこれらの取り組みや成果を聞いた。
――亜鉛・鉛の八戸製錬でDX、GXを推進する。
「22中計で全社的なDXに取り組む中、金属事業は八戸製錬で先行的に実施している。八戸はISP法を導入する世界の7製錬所で最も生産能力が大きく、コークスを使用するため当社事業拠点でスコープ1のCO2排出が最も多い。カーボンニュートラル実現に向けた現場の危機意識は高く、GXの観点からもまずは八戸でDXによる生産性改善やコストダウンに取り組んでいる」
――成果はどうか。
「トラブルの早期発見などで出ている。これまでは現場のデータや成分分析結果を人が転記、入力していたためタイムラグがあった。DX化により、データが基準から外れると早めに気づいて傾向管理ができるようになり、解析も迅速化。現場の人のアクションも早くなった。また、過去のトラブル時のデータをインプットしたことで、同様のトラブルが起きた際にどう対処すれば良いかすぐ分かるようになった」
――八戸の取り組みを今後どう展開する。
「さらなるブラッシュアップと同時に、他拠点に横展開する。まずは三池製錬を考えている。その次は神岡鉱業の鉛製錬。いずれも八戸と同じ乾式製錬だ。乾式製錬は湿式よりもトラブルの頻度が高く、起きてしまうと復旧に時間がかかる」
――八戸では排ガス中のCO2回収実証も行い、回収率9割と結果は良好だった。
「モデルガスを用いた研究所での試験と同水準の回収結果を出せた。これを受け、今年度中に規模を少し大きくした中規模試験を検討している。次の25中計期間中には大規模実証試験を行いたい」
――CO2分離回収が実用化すれば、それ自体のビジネス展開もあり得るか。
「事業創造本部が開発した吸着物質の販売と、それをユニットにした吸着マシンとしての販売の2つのかたちで検討している。吸着物質の粉体は、すでに一部の大手企業で評価を受け、評価結果が良好なことからもう少し話を前進させようというところまで来ている。これはかなり規模の大きな設備だが、CO2回収ニーズは比較的小規模の事業所でもある。100%子会社の三井金属エンジニアリングと連携してシステムまで造ることを考えている」
――製錬所ネットワークを活用したリサイクル率向上の取り組みを聞きたい。
「日比共同製錬がグループに戻ってきたことで、亜鉛・鉛製錬所とのネットワークを活用したグループ内でのリサイクル処理量を増やせるようになった。その成果は利益面でも表れてきている。当社が生産するメタルに占めるリサイクル原料比率は亜鉛が51%、鉛が69%、銅が26%。銅は国内トップクラスと考えている。現中計期間に何%まで高めるという目標はないが、さらに増やしていくには不純物の許容や処理能力をどう上げていくかが課題。そのための投資はあり得る」
――亜鉛製錬事業は、エネルギーコスト増や買鉱条件悪化で世界的に環境が厳しい。
「電力コストだけでもこの数年で80億円あまり上がった。将来の亜鉛相場や為替も分からず、できるだけ競争力を高めないといけない。その観点で神岡鉱業の水力発電増強なども実施した。製錬所ネットワークでリサイクル比率を高めることや、有価金属の回収率上げることも重要。省エネ投資を進め、維持更新投資は厳選する」
「亜鉛をインゴットで売るだけでは付加価値が小さい。例外がビスマスやアルミを添加する調合亜鉛だ。需要家と長年の信頼があり、当社の強みになっている。需要家との関係をしっかり保っていきたい」
――高速・高周波用途や高密度多層基板向けの高機能銅箔「VSP」の事業戦略を。
「当社のVSPは市場シェアが高い。市場の拡大についていくには、供給力が非常に重要。供給できなければ、需要家は競合企業の材料を使うことになる。銅箔を貼り付ける樹脂は需要家の仕様がどんどん変わるため、それに合う銅箔の表面処理をうまく開発できるかも大切。この2点がしっかりできていれば競争優位性を維持できる。これは十数年前のマイクロシン(キャリア付き極薄電解銅箔)と同じだ」
「VSPを生産する台湾工場は、付加価値の高い銅箔を優先的に造る。それで生産能力が足りなくなれば、ミドルレンジなどの製品生産をマレーシア工場に移し、マレーシアで最も付加価値の低いものから減らしていく」
――電解銅箔事業でのDXの取り組み。
「上尾工場では、後工程の不良品検査などにDX技術を導入し、生産性を改善させた。歩留まりも上がり、少額の投資で生産能力を月間50万平方㍍増やせたことは極めて大きな成果と言える。マレーシアと台湾も工場は設備がフルに入っているため、DXで生産性を上げていきたい」
――新規事業の全固体電池用の固体電解質『A―SOLiD』はサンプルの引き合いが順調に増え、相次ぎ増産を打ち出している。売上高もすでに19億円程度あるとのことだが、将来性と立ち位置をどうみているか。
「全固体電池の採用を考えている多くの自動車メーカーなどとお付き合いさせてもらっており、固体電解質市場でトップを走っていると思っている。サンプルの増加に対応するため生産能力を3倍まで増やすことを決めたが、実際に採用となれば量産設備が必要だ。そういう時期が遠からず来そうな話も出てきており、そろそろ量産を考えようということも話している」
――電池リサイクルはどうか。
「研究所に全固体電池のリサイクルを検討するチームがある。金属の開発センターなどから人材を集めた。これは金属事業がある当社の強みと言える。リチウムイオン電池の正極材や負極材を手掛けてきた知見もある。全固体電池は液式のリチウムイオン電池よりも長寿命と言われているため、使用済みが本格的に出てくるのは30年後とかになるかもしれないが、循環型社会では開発者がリサイクルも考えないといけない」
――強化方針を示したセラミックス事業には経営資源をどう投じていくのか。
「セラミックスは主に2つの事業がある。一つはMLCC(積層セラミックコンデンサー)や電子部品の焼成用窯道具。メッシュ型のものを開発し、それが伸びている。様々な要望に対応する商品開発力が非常に高く、利益も上がっている。電子部品市場は必ず伸びるとみており、30年度までの想定を超えそうだ」
「もう一つはメタロフィルタ。溶けたアルミから不純物を除去するもので、世界シェアの7割弱をにぎる。アルミ市場も自動車向けや缶材で伸びており、設定している利益率に達しそうだ。中国と日本に工場があり、開発力と需要が伸びた時の増産に力を入れるのとともに、M&Aも検討する」
――今年度の春闘で組合要求を上回る月額2万円のベアを回答した。働き方や社員の待遇に関する取り組みを。
「現中計で実力主義の人材マネジメント、つまりジョブ型制度に変更した。例えば工場長に求めるスキルがこういうものだと社員に対しオープンにして、これを満たす適任者をつける。年功序列は全く関係ない。ジョブ型はチャンスがあるが厳しい面もある。やる気、能力のある人を活かす。これとセットで行ったのが65歳定年制。65歳にかけ待遇が下がる会社もあるが、当社は65歳まで100%待遇のまま変わらない」
――DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)も推進する
「ダイバーシティ推進室を現中計から設置した。室長は銅箔開発に携わっていた女性社員が就いている。ダイバーシティは前進しており、えるぼし認定も取得した。今年度はさらに働きがいの部分に力を入れて取り組む」
――働き方に関する取り組みで会社の雰囲気は変わったか。
「本社や管理職の人たちと話すと大分変わってきている。しかし、半年に1度調査するパーパスの浸透度を見ると、現場に近いところはまだ浸透してない部分もある。次の中計では『探索精神と多様な技術の融合で、地球を笑顔にする。』というパーパスの社内浸透、また社外への発信をさらに強化したい」
――次期中計の方向性。
「中計の骨格をつくるため、係長や課長が中心となり女性も3割あまり入ったチームを立ち上げた。全社ビジョンで2030年のありたい姿を掲げており、大きな方向性に変化はない。パーパスを基軸とした両利きの経営と統合思考経営を変える必要は全くない。その浸透や、どの事業を伸ばすのかといったポートフォリオの動的管理はもう少し進めないといけない」
(田島義史、鈴木大詩)
――亜鉛・鉛の八戸製錬でDX、GXを推進する。
「22中計で全社的なDXに取り組む中、金属事業は八戸製錬で先行的に実施している。八戸はISP法を導入する世界の7製錬所で最も生産能力が大きく、コークスを使用するため当社事業拠点でスコープ1のCO2排出が最も多い。カーボンニュートラル実現に向けた現場の危機意識は高く、GXの観点からもまずは八戸でDXによる生産性改善やコストダウンに取り組んでいる」
――成果はどうか。
「トラブルの早期発見などで出ている。これまでは現場のデータや成分分析結果を人が転記、入力していたためタイムラグがあった。DX化により、データが基準から外れると早めに気づいて傾向管理ができるようになり、解析も迅速化。現場の人のアクションも早くなった。また、過去のトラブル時のデータをインプットしたことで、同様のトラブルが起きた際にどう対処すれば良いかすぐ分かるようになった」
――八戸の取り組みを今後どう展開する。
「さらなるブラッシュアップと同時に、他拠点に横展開する。まずは三池製錬を考えている。その次は神岡鉱業の鉛製錬。いずれも八戸と同じ乾式製錬だ。乾式製錬は湿式よりもトラブルの頻度が高く、起きてしまうと復旧に時間がかかる」
――八戸では排ガス中のCO2回収実証も行い、回収率9割と結果は良好だった。
「モデルガスを用いた研究所での試験と同水準の回収結果を出せた。これを受け、今年度中に規模を少し大きくした中規模試験を検討している。次の25中計期間中には大規模実証試験を行いたい」
――CO2分離回収が実用化すれば、それ自体のビジネス展開もあり得るか。
「事業創造本部が開発した吸着物質の販売と、それをユニットにした吸着マシンとしての販売の2つのかたちで検討している。吸着物質の粉体は、すでに一部の大手企業で評価を受け、評価結果が良好なことからもう少し話を前進させようというところまで来ている。これはかなり規模の大きな設備だが、CO2回収ニーズは比較的小規模の事業所でもある。100%子会社の三井金属エンジニアリングと連携してシステムまで造ることを考えている」
――製錬所ネットワークを活用したリサイクル率向上の取り組みを聞きたい。
「日比共同製錬がグループに戻ってきたことで、亜鉛・鉛製錬所とのネットワークを活用したグループ内でのリサイクル処理量を増やせるようになった。その成果は利益面でも表れてきている。当社が生産するメタルに占めるリサイクル原料比率は亜鉛が51%、鉛が69%、銅が26%。銅は国内トップクラスと考えている。現中計期間に何%まで高めるという目標はないが、さらに増やしていくには不純物の許容や処理能力をどう上げていくかが課題。そのための投資はあり得る」
――亜鉛製錬事業は、エネルギーコスト増や買鉱条件悪化で世界的に環境が厳しい。
「電力コストだけでもこの数年で80億円あまり上がった。将来の亜鉛相場や為替も分からず、できるだけ競争力を高めないといけない。その観点で神岡鉱業の水力発電増強なども実施した。製錬所ネットワークでリサイクル比率を高めることや、有価金属の回収率上げることも重要。省エネ投資を進め、維持更新投資は厳選する」
「亜鉛をインゴットで売るだけでは付加価値が小さい。例外がビスマスやアルミを添加する調合亜鉛だ。需要家と長年の信頼があり、当社の強みになっている。需要家との関係をしっかり保っていきたい」
――高速・高周波用途や高密度多層基板向けの高機能銅箔「VSP」の事業戦略を。
「当社のVSPは市場シェアが高い。市場の拡大についていくには、供給力が非常に重要。供給できなければ、需要家は競合企業の材料を使うことになる。銅箔を貼り付ける樹脂は需要家の仕様がどんどん変わるため、それに合う銅箔の表面処理をうまく開発できるかも大切。この2点がしっかりできていれば競争優位性を維持できる。これは十数年前のマイクロシン(キャリア付き極薄電解銅箔)と同じだ」
「VSPを生産する台湾工場は、付加価値の高い銅箔を優先的に造る。それで生産能力が足りなくなれば、ミドルレンジなどの製品生産をマレーシア工場に移し、マレーシアで最も付加価値の低いものから減らしていく」
――電解銅箔事業でのDXの取り組み。
「上尾工場では、後工程の不良品検査などにDX技術を導入し、生産性を改善させた。歩留まりも上がり、少額の投資で生産能力を月間50万平方㍍増やせたことは極めて大きな成果と言える。マレーシアと台湾も工場は設備がフルに入っているため、DXで生産性を上げていきたい」
――新規事業の全固体電池用の固体電解質『A―SOLiD』はサンプルの引き合いが順調に増え、相次ぎ増産を打ち出している。売上高もすでに19億円程度あるとのことだが、将来性と立ち位置をどうみているか。
「全固体電池の採用を考えている多くの自動車メーカーなどとお付き合いさせてもらっており、固体電解質市場でトップを走っていると思っている。サンプルの増加に対応するため生産能力を3倍まで増やすことを決めたが、実際に採用となれば量産設備が必要だ。そういう時期が遠からず来そうな話も出てきており、そろそろ量産を考えようということも話している」
――電池リサイクルはどうか。
「研究所に全固体電池のリサイクルを検討するチームがある。金属の開発センターなどから人材を集めた。これは金属事業がある当社の強みと言える。リチウムイオン電池の正極材や負極材を手掛けてきた知見もある。全固体電池は液式のリチウムイオン電池よりも長寿命と言われているため、使用済みが本格的に出てくるのは30年後とかになるかもしれないが、循環型社会では開発者がリサイクルも考えないといけない」
――強化方針を示したセラミックス事業には経営資源をどう投じていくのか。
「セラミックスは主に2つの事業がある。一つはMLCC(積層セラミックコンデンサー)や電子部品の焼成用窯道具。メッシュ型のものを開発し、それが伸びている。様々な要望に対応する商品開発力が非常に高く、利益も上がっている。電子部品市場は必ず伸びるとみており、30年度までの想定を超えそうだ」
「もう一つはメタロフィルタ。溶けたアルミから不純物を除去するもので、世界シェアの7割弱をにぎる。アルミ市場も自動車向けや缶材で伸びており、設定している利益率に達しそうだ。中国と日本に工場があり、開発力と需要が伸びた時の増産に力を入れるのとともに、M&Aも検討する」
――今年度の春闘で組合要求を上回る月額2万円のベアを回答した。働き方や社員の待遇に関する取り組みを。
「現中計で実力主義の人材マネジメント、つまりジョブ型制度に変更した。例えば工場長に求めるスキルがこういうものだと社員に対しオープンにして、これを満たす適任者をつける。年功序列は全く関係ない。ジョブ型はチャンスがあるが厳しい面もある。やる気、能力のある人を活かす。これとセットで行ったのが65歳定年制。65歳にかけ待遇が下がる会社もあるが、当社は65歳まで100%待遇のまま変わらない」
――DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)も推進する
「ダイバーシティ推進室を現中計から設置した。室長は銅箔開発に携わっていた女性社員が就いている。ダイバーシティは前進しており、えるぼし認定も取得した。今年度はさらに働きがいの部分に力を入れて取り組む」
――働き方に関する取り組みで会社の雰囲気は変わったか。
「本社や管理職の人たちと話すと大分変わってきている。しかし、半年に1度調査するパーパスの浸透度を見ると、現場に近いところはまだ浸透してない部分もある。次の中計では『探索精神と多様な技術の融合で、地球を笑顔にする。』というパーパスの社内浸透、また社外への発信をさらに強化したい」
――次期中計の方向性。
「中計の骨格をつくるため、係長や課長が中心となり女性も3割あまり入ったチームを立ち上げた。全社ビジョンで2030年のありたい姿を掲げており、大きな方向性に変化はない。パーパスを基軸とした両利きの経営と統合思考経営を変える必要は全くない。その浸透や、どの事業を伸ばすのかといったポートフォリオの動的管理はもう少し進めないといけない」
(田島義史、鈴木大詩)
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