2024年5月30日

三菱商事の鉄鋼製品本部戦略/執行役員本部長/大野浩司氏/メタルワンの価値向上/CNで連携、グループの結節点に

――2024年度がスタートした。

「当年度は、4月1日付の組織改編で総合素材と化学ソリューションのグループを統合して、素材関連事業を一元化したマテリアルソリューショングループの発足初年度になる一方、鉄鋼製品本部が管掌するメタルワンとともに『中期経営戦略2024』の最終年度でもある。メタルワンは現中経コンセプトに『変革』と『成長』を掲げている。『変革』ではデジタルの力を活用することで業界全体を効率化する施策を講じ、成果をあげている。『成長』については既存事業の能力増強などが先行しているものの、今後は規模感のある新規事業も手を打ちたい。当年度は定性、定量両面でしっかり結果を出すことにこだわる」

――米国など一部のエリアを除いて、国内外の事業環境は厳しくなると予想されている。

「海外では各地で地政学リスクが高まっており、また米国大統領選をはじめ世界各国で選挙が行われるため、政治情勢がより不安定になる可能性がある。一方、地球環境保全の観点からカーボンニュートラル(CN)の実現が大きな課題になっている。国内では少子高齢化や生産年齢人口の減少で人手不足が深刻化し、人材獲得競争が激しく、人件費を中心にコスト負担が増している」

――メタルワンは23年度持ち分利益が前年度比減益となった。

「人件費高騰に伴うマイナス影響が大きい。また、22年度のコロナ禍からの回復やロシア・ウクライナ情勢などによる鉄鋼製品市況上昇からの反動も減益の一因と整理している。引き続き、収益力を強化して損益回復、企業価値向上に取り組んでいきたい」

――マテリアルソリューショングループにおける位置付けを。

「鉄鋼は巨大な基幹産業で自動車モビリティ、建設インフラ、エネルギーや機械など対面している業界が幅広い。素材産業にアプローチするマテリアルソリューショングループにおいて、メタルワンの広範・多岐にわたる各業界との接地面積が、他素材との間でシナジーを生み出すことを期待している。幅広い社会の課題解決に注力することなどで、三菱商事グループ全体として素材関連事業を一元化したことに伴うメリットを最大化させる。またグループ発足後1カ月ではあるが、23年12月の組織改編発表以降、組織を超えたコミュニケーションを活発に行っており、目に見える形で早期に成果をあげていく」

――鉄鋼製品本部としての施策はどうか。

「まずメタルワンの企業価値を高めることが重要。三菱商事、メタルワンそれぞれの特長を生かし、鉄鋼関連業界に貢献しながら、互いの収益力向上に資する施策を講じる。鉄鋼製品本部内にはメタルワン室を置き、この下部組織として事業戦略チームとプロジェクト推進チーム、経営インフラチームを設置している。事業戦略チームは鉄鋼製品事業戦略をメタルワンとも連携の上、立案しフォローする。プロジェクト推進チームは投資など新規案件の実行をサポート。経営インフラチームは人事や内部統制、監査など連結ガバナンスを推進している」

――メタルワンの方針を。

「長年にわたって国内鉄鋼流通サプライチェーンの川中部分を担ってきており、人手不足という厳しい事業環境下にあっても鉄鋼メーカーと協力しながら製品の安定供給に努める。同時に鉄鋼製品サプライチェーンが抱える産業課題に対して、具体的なソリューションを提供していきたい。すでに自動車鋼板の流通業務を効率化するデジタル・プラットフォーム『Metal X』を日本IBMと共同で構築するとともに、鉄鋼流通全体の業務効率化や高度化、コミュニケーションコスト削減を実現する『Metal X UP』も提供を始めた。これらのデジタルソリューションを通じて、業界の課題解決に寄与する。4月1日付で経済産業省のDX認定事業者に認定され、社員のデジタルマインドも高まっており、デジタルを活用しながら、新規事業を創出する」

――海外展開は。

「アジアは長年培ってきた日系自動車メーカー向け供給機能を強化・発展させる。この一環として、インドネシア鋼板加工サービスセンターのメタルワン・スチールサービス・インドネシアで2基目のブランキング加工設備を導入する。また、ナムファットグループの中核会社であるSTEEL568と合弁で、建材・製造業向けを主とする鋼板加工サービスセンターを本格稼働するなど、域内現地パートナーとの取り組みを強化する。北米は地政学リスクが小さく、引き続き成長を見込むことができる巨大マーケット。メタルワンは、長年にわたって北米でベースとなる事業基盤を構築してきているので、今後も経営資源を継続投入したい。欧州も環境・エネルギー分野などで重要な市場と認識している。中南米やアフリカなどはトレーディングで関係性が強く、現地企業などパートナーと協力しながら、事業拡大を検討する。中国は地政学的リスクや経済停滞の懸念も高まっている中、引き続き政治情勢、EV普及など動向を注視している。グローバル戦略としては比較的手薄のエリアや分野に挑戦するため、検討を続けている」

――CNに向けた動きが加速している。

「メタルワンは23年度に全社横断組織であるグリーントランスフォーメーション戦略室とカーボンネットゼロ戦略室を新設した。グリーントランスフォ―メーション戦略室は『グリーン鋼材』『再生可能エネルギー』『サーキュラーエコノミー』という3領域の案件を各営業部署と協力して注力する。戦略室と協業することで共通化された戦略に基づいて動けるようになる。グリーン鋼材は鉄鋼メーカーと連携を取りながら、販売を強化する。再生可能エネルギーは周辺分野で新たな産業が生まれることが期待されるため、新しい素材や付加価値を提供するなどしっかり関わっていく。サーキュラーエコノミーについて、還元鉄は当社金属資源グループ、スクラップはメタルワンの事業投資先であるエムエム建材が担っている。電炉の位置付けが見直され、グループ内でさらなる連携が求められている状況下、鉄鋼製品本部が結節点となり、変化に対応する。当社では7月をめどにJX金属と合弁で非鉄金属の資源循環に関する新会社を設立する。鉄鋼製品本部としても連携・支援していきたい」

「30年度に20年度比でグループのGHG排出量50%削減、50年度にネットゼロの達成を目標に掲げている。カーボンネットゼロ戦略室ではこの目標達成に向けての進捗管理、社内制度の導入・運用を行う。グループ企業の工場に太陽光パネルを設置するなどの具体的施策も講じている」

――三菱商事は中期経営戦略で『MCSV(MC・Shared・Value、共創価値)』を掲げている。

「総合力を強化して業界の課題を解決するソリューション提案を推進するため、複数の営業グループが新たな価値を共に創る取り組みを進めている。当社は建設プロジェクトやエネルギー開発、自動車メーカーとの事業展開などビジネスの領域が広く、鉄鋼製品本部と連携を深化することで、高度に変化している市場においてプラスの相乗効果を引き出す。本部単体ではなく、三菱商事グループの視点に立つことが重要になる」

――メタルワンの中・長期展望はどうか。

「メタルワン設立から21年が経過し、設立後に入社した社員がより活躍できる会社に年々変わってきている。世界の経済情勢はかつてないスピードで変化している。人手不足やCNなど業界の課題に対し、三菱商事とメタルワンが培ってきた経験と知見を生かし、鉄鋼流通の強靭化に貢献していきたい。本部としてはメタルワンが鉄鋼業界や社会から信用され、優良企業として認知されるようしっかり支援する」。(濱坂浩司)

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