2024年5月23日

三菱商事の新規事業開発本部戦略/執行役員本部長 渡邉 善之氏/素材産業成長の一翼担う/ソリューション提案で競争力強化に貢献

三菱商事は総合素材グループと化学ソリューショングループを統合し、4月1日付でマテリアルソリューショングループが誕生した。この一翼を担うのが新規事業開発本部で、素材産業の課題を解決するためのソリューション提供、新たな素材のシーズ育成に取り組む。同日付で執行役員本部長に就いた渡邉善之氏に抱負などを聞いた。

――マテリアルソリューショングループが誕生した。

「4月1日付の組織改編で総合素材と化学ソリューションのグループを統合し、マテリアルソリューショングループが発足した。新規事業開発本部はこのグループを構成する5本部の1つであり、下部組織として素材インキュベーション室、素材事業推進部、産業素材DX部、環境素材事業部を置く。スタッフは約90人。事業投資先として、環境・機能素材の開発・製造・販売を行う東洋紡エムシー、素材メーカー向けにコンサルティング・エンジニアリングサービスを行うビヨンドマテリアルズ、PET樹脂の製造・販売を行うタイ新光、産業用分野の『フラーレン』の製造・販売を行うフロンティアカーボンを管掌している」

――新規事業開発本部の取り組みはどうか。

「カーボンニュートラル(CN)対応など多種多様な産業課題に直面する素材産業向けに事業変革ソリューションやDXソリューション、素材循環や脱炭素対応などEXソリューションを開発して提供するとともに、新たな素材のシーズを育てるインキュベーション事業も手掛けている」

――下部組織の機能は。

「素材インキュベーション室は革新的な素材の技術の事業化や資源循環ソリューションの開発を、素材事業推進部は機能素材メーカー経営・ビジネス変革ソリューションを、産業素材DX部は素材流通加工業の効率化・省人化に貢献し、競争力強化を支援するデジタルサービス機能の開発を、環境素材事業部は素材サプライチェーンのGHG削減や資源有効活用の実現を目指す」

――執行役員に昇格した。抱負を。

「当社は中期経営戦略で『MCSV(MC・Shared・Value、共創価値)』を掲げており、総合力を強化して業界の課題を解決するソリューション提案を推進するため、複数の営業グループが新たな価値を共に創る取り組みを進めている。近年は国内外情勢の変化が激しく、かつスピード感が増している。解決すべき課題も増しており、社内外で連携深化、協働が求められている。私は鉄鋼出身で、メーカーや鋼材流通の方々に育ててもらった。執行役員になってより重責を感じており、鉄鋼という巨大素材産業に携わった経験を生かし、本部の機能を発揮して素材産業の競争力強化に貢献し、恩返ししていきたい」

――具体的には。

「幅広い素材、商品に関わるが、製造プロセスやサプライチェーンなどこれらに共通する課題がある。素材業界全体を俯瞰し、課題を見出しながら業界横断的に解決できるようそれぞれのメーカー、流通を主な対象として機能軸をベースに新たなソリューションを創出・提案していきたい」

――ソリューション提案ではミルシート電子化プラットフォーム「ミル・ボックス」、在庫最適化ツール「エム・ストック」というアイテムを展開している。

「デジタル時代で商社のあり方も変わっていく。同時に日本国内では人手不足がますます深刻化する。再現可能な形で汎用的に業務を標準化する必要がある。各業界のサプライチェーン上での競争領域も考えなければならないが、『ミル・ボックス』や『エム・ストック』を提案することによって非競争領域で共通するプラットフォームを一緒に創り、サプライチェーン全体の最適化に取り組む。匠技研工業と販売提携し、製造業支援AIシステム『匠フォース』の販売体制を強化して、共同での価値創出を推進している。NTTグループなどパートナー企業は多く、MCデジタルやインダストリー・ワンなどのグループ会社もあり、連携を深化することで、産業素材DX部を主体に商社としての新しい貢献を模索する」

――CNに向けた動きが加速している。

「各企業は温室効果ガス削減に取り組まなければならず、また資源循環も大きな課題だ。環境素材事業部では、タイでリサイクルPET樹脂の製造・販売を手掛けており、サプライチェーンへの新機能提供も協議中。素材インキュベーション室では、次世代太陽電池素材として注目されているフラーレンの事業化も推進する。またJX金属などパートナーと連携し、資源循環に関する新たな取り組みを開始する。素材事業推進部ではビヨンドマテリアルズの技術・ノウハウを生かし、東洋紡エムシーが手掛ける高機能素材の国際競争力を高め、サステナブル社会を実現する次世代型製品開発に力を注いでいる」

――鉄鋼業界では。

「商社として低CO2素材をどのように展開できるかは個人的なテーマであり、普及促進に貢献していきたい。グループ企業を含めてトレーディングは行っているものの、マテリアルソリューションとして他本部と連携して課題に対するソリューション提案、新規事業立ち上げまでを考えていく」(濱坂浩司)

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▽渡邉善之(わたなべ・よしゆき)氏=93年早大政経卒、三菱商事入社。23年4月素材ソリューション本部長、24年4月執行役員新規事業開発本部長。鉄鋼製品出身で薄板からスタートし、特殊鋼などに従事。鈴木貴士・五十鈴顧問など知己が多い。メタルワンに7年半在籍し、商事時代は発足・立ち上げにも尽力し、鉄の苦しい時代を乗り越えた苦労人。

美食家で、スポーツ観戦を好む。週末はジムに通い、汗を流す。座右の銘は「無知の知」で、「知らないということ」を努めて自覚している。69年4月9日生まれ、石川県出身。

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