日本製鉄は9日、今井正社長兼COOと森高弘副会長兼副社長が会見を開き、今井社長は「厳しい環境を前提に2025年度に向けてどう取り組むかが経営の最大の課題だ。高炉休止含むコスト削減や海外事業の拡大、原料投資と日鉄物産子会社化による厚みを持った事業構造への進化による効果を発揮し、25年度は厳しい環境が継続しても実力の連結事業利益9000億円以上を確保するべく取り組む。1兆円ビジョンに挑み、USスチールの買収に全力に取り組んでいく」と新たな成長への決意を語った。
今井社長は「23年度の実力の連結事業利益は9350億円と過去最高となった。国内製鉄事業のマージン改善や固定費の削減、損益分岐点の引き下げ効果、海外事業の成長、安定生産の効果含めたコストの改善効果などこれまで取り組んできた一連の経営改革が結実した結果」と23年度までの成果を説明しつつ、「課題は24年度から先の損益の見通しだ」と強調した。
「世界の鉄鋼マーケットに大きな影響を持つ中国の需給緩和が継続する。中国の粗鋼生産は高い水準を維持している。原料高と製品安のデカップリングから未曽有の厳しさが続くとみている」と指摘。
24年度は改革の効果発揮の端境期にもなり、対前年で減益となる見通しだが、「今年度末に鹿島地区の高炉1系列が休止し、25年度に向けて固定費がもう一段削減できる。25年度には電磁鋼板の新設備が稼働し、注文構成の高度化が進む。インド事業中心に海外事業の成長や原料・流通一貫の厚みを持った事業構造への進化の効果発揮が見込める」とし、USスチール買収含め25年度に収益を高め、1兆円ビジョン達成に向けた収益基盤の構築を目指す考えを示した。
同買収を取り巻く米国内の議論について今井社長は「USスチールの株主総会で当社による買収提案が承認され、正しく評価されたと考えている。我々としては、対話のドアは常にオープンだ。我々ができる努力の仕方としては、いろいろなステークホルダーの方に説明し、買収計画の狙いを正しく理解・評価していただければ、メディアなど米国内の見方は当社の考えている方向に進むと思っている」と述べた。
USスチール買収完了時期を24年7―9月または10―12月と従来の4―9月から変更したことについて森副会長は「競争法の審査が二次審査に入り、精査したところ、(クロージングまでに)時間がかかることが判明した。時期を変更したが、早いタイミングでクローズするスタンスは変わっていない」と説明。
続けて「大統領や全米鉄鋼労働組合が反対を表明しているが、我々はUSスチールを強くするために買収を進めている。財務的に強い当社がバックアップすることでUSスチールが強くなり、売上げ増え、雇用の増加につながる。自動車産業含め顧客、サプライチェーンの強化につながるなどきちんと説明し、当社の意図を理解してもらえればよい方向に向かう。政治的な影響は大きいと思うが、当社が意図していることを誠実に訴え続ける。話し合いを続けていけば一致点は見つかると考えている。USスチールの株主総会で買収提案が承認され、他の方が買収することは基本ありえない。できるだけ早くクローズする考えは変わらないが、大統領選が終われば政治性はなくなり、落ち着いた議論になる可能性があると思っている」と語った。