2024年1月5日

日本アルミニウム協会/水口会長インタビュー

2023年は自動車分野の需要が増加した一方、半導体関連や建設などの分野は低調に 推移した。24年は自動車の底堅さ継続に加え、半導体関連の復調によって国内のアルミ産業全体が上向くとみられる。日本アルミニウム協会の水口誠会長(神戸製鋼所 副社長執行役員)に新たな年の展望を聞いた。

――自動車材の需要動向を。

「自動車材は23年、前年比で2桁プラスとなった。半導体や部品供給不足が解消され、国内の自動車生産台数が回復したことにより、アルミパネル材や押出部材の使用量が増加した。特にトラック向け押出材は前年同月の4割を超える月もあった。24年も引き続き堅調に推移するとみる」

――缶材の需要をどうみる。

「缶材はコロナ対策の行動制限の解除を受けて家飲み需要の減少が響いている。同時に物価高による消費鈍化も重なり、前年比微減となった。節約志向が続けば24年は弱含みも懸念されるが、環境配慮の観点でアルミ缶の需要増に期待している。将来的には国内の人口減は進むことが予想されるが、アルミのリサイクル性が評価されることで少なくとも現状の規模は維持するとみている」

――半導体製造装置向け厚板は23年どうだった。

「半導体製造装置向けのアルミ厚板は大幅な出荷減が続いた。コロナ禍を経てパソコンやスマートフォン向けの需要が一巡したことが背景にある。米金利上昇による半導体工場への投資中断などもあり、装置業界が冷え込んだ」

――24年の半導体関連の需要はどうか。

「昨年10月ごろに底を打ったのではないかとみている。日本半導体製造装置協会の見通しによると、24年度の半導体製造装置出荷額は昨年度より3割伸びるという。新たなCPUの市場投入や生成AIへの需要拡大やデータセンター向けの出荷増が見込まれる。国内でも北海道や熊本への半導体工場の誘致も進んでおり、半導体製造装置向け需要は増加トレンドとみている。4月以降の回復に期待している」

――建材はマイナスが続く。

「建築分野は新設住宅着工戸数の減少に加え、一戸当たりのアルミ使用量の減少が響いた。資材高騰と作業員不足による工期遅延も重なり10%程度のマイナスで推移している。24年度も同様の傾向が続くことを懸念している。一方で東京のオフィスビル再開発や25年の大阪・関西万博に関連するインフラ整備でのアルミ使用量の増加に期待している」

――機械器具向けの箔需要は回復に向かうか。

「昨年のリチウムイオン電池(LiB)やコンデンサー向けの箔は濃淡のある一年だった。国内の自動車生産の回復に伴って車載用は回復基調で推移した。一方でスマホやパソコンなど民生用の低調を受けて23年はマイナスとなった。しかし、昨年10月は前年同月比で2桁プラスとなり、底打ち感も見え始めた。24年度の需要増を期待している」

――鉄道、航空機向けはどうみる。

「23年は鉄道車両向けがマイナスだった一方、航空機向けはプラスとなった。どちらも量こそ多くないものの、アフターコロナによる海外旅行者の増加など今後の需要増が期待できる分野と考えている」

――価格転嫁は業界で進んでいるのか。

「協会では22年に続き、会員企業に対し転嫁状況に関するアンケート調査を実施した。21年9月を基準に23年7―9月のコスト上昇と価格転嫁状況を聞いた。一年前に比べるとコスト上昇は緩和した。価格転嫁も中小の会員を中心に前年より進んだものの、42%が転嫁不十分との回答であった。政府の示す適正なコスト負担を供給網全体で負担していく取り組みが今後も必要とみる」

――アルミによる自動車の軽量化は進むか。

「現在は電池周りのアルミ化が進んでいるが、今後はボディー周りのアルミ化も進展すると考えている。足元では高級車はアルミ比率が高いが、低中グレード車はスチール製が多い。今後、アルミ化は進むと思うが、スピード感は自動車メーカーごとに異なる。現状では、電動化への技術開発が先行しているところもあるが、電動化技術の開発が進めば軽量化の技術開発も進展するだろう」

――アルミ製品の輸出量低迷の背景を。

「アルミ製品の総需要400万トンのうち輸出は5%程度だ。23年は缶材が中心の米国向けが7割、自動車材が多い中国向けが2割減少している。現地生産が進み、円安などが減少した要因とも考えられる。米国に関しては、米通商拡大法232条で課されているアルミ関税の撤廃を求めている。」

――昨年新設したサーキュラーエコノミー委員の進捗を。

「昨年6月に『サーキュラーエコノミー委員会』を立ち上げた。アルミの資源循環に向けて、技術開発や新規設備の導入、標準の策定、循環システムの構築を進めている。委員会のメンバーは、圧延、サッシ、合金の主要メーカーで、23年は現状把握に努めた。 海外へのアルミスクラップ輸出を抑えることが喫緊の課題である。仮に輸出を止め全量国内循環をした場合、10年間でCO2排出量0・5億トンの削減に寄与する」

――経産省の資源循環に関するパートナーシップにも加わった。

「経産省が昨年9月に立ち上げた『サーキュラーエコノミーに関する産学官のパートナーシップ』へ当協会は10月に参画した。他産業や学識者、政府関係者とも連携を図りながら、アルミリサイクルの拡大を推進し、国際競争力を備えたアルミ産業を目指していく」

――将来的にアルミスクラップの輸出規制の可能性は。

「輸出規制の実施は簡単ではないだろうが、日本からアルミスクラップを最も輸入している中国においては、自国からのアルミスクラップについて輸出関税を課して輸出を抑制している。日本は輸入関税があるが、輸出関税は設けていない。関税制度も含めた議論が必要だろう。中国などが競争入札で高値を付けている。同国の大規模な設備によるリサイクル費用の低減化や税制のメリットなどが推測される。公平・公正な競争条件となっているとは言いがたい状況にある。日本としてもリサイクルの仕組みを官民連携で強固にすることで、アルミリサイクルのコストを下げる必要があるだろう」

――日本版「グリーンアルミ」の定着に向けて。

「定義を定めるために標準化の策定が欠かせない。カスケードリサイクルではなく、品質を維持した水平リサイクルを想定している。缶材で実績のある成分統一などが有効だ。圧延メーカーとお客様双方の知恵をしぼって規格統一する必要がある」

――循環システムも形成していく。

「標準化に加え、循環の仕組みづくりも不可欠だ。工場内の端材など成分が分かるものは良いが、市場に出回った成分が定かではないスクラップの分別が欠かせない。LIBS(動的レーザー誘起ブレークダウン分光法)などの分析手法を用いた選別システムの技術開発が必要になってくる」

――自動車向け展伸材の水平リサイクルの取り組みとは。

「自動車業界は率先して推進している。メーカーから出る端材の再利用に加え、廃車からのスクラップ材の再利用も検討しなければならない。その際に自動車向け展伸材の合金種の統一も不可欠となる」

――海外のアルミニウム協会との連携について。

「G7やG20、OECD報告などの機会に米国、カナダ、欧州のアルミニウム協会と共同で声明を発表してきた。10月には中国、インドなどのCO2排出量の多い生産工程への政府補助金は望ましくないという趣旨の声明を出した。国際市場での自由貿易を歪曲する動きに加え、近年では環境負荷低減にも問題意識を持って意見交換している」

――ロシア産アルミ地金の日本国内での今後の動向をどうみる。

「ロシアからのアルミ地金などの購入を各社控えている。ロシア産地金の23年1―9月期の輸入量は11万トンと前年同期の3分の1程度まで少なくなっている。汎用品を中心に今後もロシア産の購入は減少傾向とみる。一方で高純度品などの代替が難しいものに対しても可能な限り購入を控えるようになるだろう」

――外国人人材の活用について。

「『アルミニウム圧延・押出製品製造』の職種名で昨年7月に外国人技能実習の移行対象職種の認可を受けた。協会内に技能実習試験センターも設置した。11月には技能実習生の受け入れを希望する会員企業を対象にした説明会も行った。技能実習制度に代わる新制度についても、年明け以降の通常国会の中で具体的な制度改正法案が出ると考えられるため、動向を注視している。技術移転と就労も含まれるため、望ましい制度変更と捉えている」

――今後の人材確保と育成の考えを。

「金属業界は人が集まりにくい状況が続いており危機感を持っている。就労環境の厳しさに加え、夜勤と日曜出勤も若者に敬遠される理由とみる。日本だけでなく、世界的にも同様の理由で金属業界は人材が集まりにくくなっている。金属業界の将来性の発信不足も重なっている。金属メーカー各社ではテレビCMに注力したり、福利厚生を高めたりと 魅力発信に努めている」

――会員企業に向けて新年のひと言を。

「副原料やエネルギーコストの高騰に見舞われる一方、需要回復が徐々に進んでいる。24年度はアルミ圧延品の需要回復が一層軌道に乗るとみられる。会員企業の皆さんと昇り龍のような活気づいた一年にしたい。環境負荷低減の潮流の中でアルミのリサイクル性などの特性を生かし、既存分野のアルミ需要拡大や新規分野の開拓に向けた取り組みを会員各社と連携して行っていきたい。社会が求めるCO2削減と資源循環型社会の構築にアルミ産業は貢献できるという自負を持ってともに進んでいきたい」

(増岡 武秀)

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九州現地印刷を開始

九州地区につきましては、東京都内で「日刊産業新聞」を印刷して航空便で配送してまいりましたが、台風・豪雨などの自然災害や航空会社・空港などの事情による欠航が多発し、当日朝に配達できないケースが増えておりました。
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 今後も「日刊産業新聞」「日刊産業新聞DIGITAL」「WEB産業新聞」によるタイムリーで有用な情報の発信、専門紙としての機能向上に努めてまいりますので、引き続きご愛顧いただけますよう、お願い申し上げます。
2024年12月 株式会社産業新聞社