2023年8月21日

ステンレス条鋼・鋼管流通 諸コスト転嫁の動き加速 切断の歩留まり分上昇

 ステンレス条鋼・鋼管流通で資材費転嫁や加工賃を引き上げる動きが加速している。人件費や運送費、各資材の高騰など流通側のコスト上昇に加え、2007年のニッケルバブルに次ぐ水準の鋼材高の影響で、歩留まりロス分の採算も悪化。サービス追求でサプライチェーンを築いてきた業界は大きな変革期を迎えている。鋼材価格以外の事情で値上げする動きは条鋼や鋼管だけでなく、鋼板など他の品種に拡大しステンレス業界全体に波及しそうだ。

 ステンレス鋼は一般的な普通鋼や構造用鋼などに比べ、バンドソーでの切断に時間がかかり、ノコ刃などの消耗品の劣化が早いとされている。切断加工賃は鋼材切断の時間や長さなどに応じて各社が独自の手法で計算しており、切断設備の更新や消耗品の費用高騰などの影響を受け、以前より値上げの機運が高まっていた。一部流通は「以前より定尺販売が減少し、切断品需要が増加していたため、市況がここまで上がる前から(切断品の)採算は年々悪くなっていた」と話す。昨年から続いたメーカーの契約価格上昇以降、流通が再販価格に値上げ分を完全に転嫁できなかった事情も重なり、鋼材以外の理由での値上げにかじを切っているようだ。

 条鋼では「切断賃だけを上げても採算は改善しない」(同)として、切断加工のベース加工賃(エキストラ)を見直し、切断品と定尺品で価格差を広げる動きが出ている。ベース(エキストラ)分は切断時の歩留まりロスを補うことを前提としこれまで据え置きだった。しかし鋼材価格の上昇には連動しないため採算が悪化。「少なくとも現状の2倍に引き上げるべきだ」(同)との声もある。

 ステンレス溶接鋼管では昨年、日鉄ステンレス鋼管が輸送実態(ロット・納入先・距離など)に沿った物流エキストラを新設するなど、メーカー側が再生産可能な体制作りを進めている。溶接鋼管市況は一時100万円台に近づくなど、3年前から相場が約2倍になっており、切断時の歩留まり分も上昇。加工賃に転嫁する動きが加速している。

 関東地区の流通筋は「加工や納品形態に関する価格・納期などのサービス合戦を各社が仕掛けているため、ステンレス流通はコストに対する意識が薄い」と指摘する。昨年は下期にかけて荷動きが打ち込む中、在庫評価益の計上で空前の利益を計上した流通が多かったため「自覚症状がない」(同)。このことから「ユーザーや取引先に対し、各種コストが上昇している点を丁寧に説明し、分相応の価格転嫁を進め、企業体質の改善が必要」と語気を強める。

 別の流通筋は「今後は物流のあり方についても直接納品から置き場渡しへの切り替えを促すなど業界全体で見直すべきだ」と指摘し、物流の2024年問題に向けても鋼材以外の値上げ機運が高まりそうだ。

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