――2023年3月期連結セグメント利益は651億円となり、中期計画の目標400億円、前期の559億円を上回り最高益を更新した。
「鋼材や鉄を作るための石炭・鉄鉱石など原料、資機材の販売が堅調に推移した。鋼材の価格やフェロコークスなどの価格も揃って上昇した。また為替が円安に振れ、ドル建ての借入金負担が増えるなど財務面ではマイナス面もあったが、収益面では大きくプラスに効いた」
――国内外の収益状況は。
「前期に続いて海外グループ会社が稼ぎ頭となり、鉄鋼貿易を含む単体、国内グループ会社が続いた。海外は北米が好調で、ASEAN、その他地域も堅調に推移したが、中国は低迷。北米は電磁鋼板事業のメキシコJSM、カナダJSC(旧コジェントパワー)が好調。鋼管事業はケリーパイプが下期に入って減速したものの、上期までは好調に推移した、また22年7月に同社が買収したマンダル・パイプも貢献してくれた。鋼管メーカーのVEST、トレード機能を担う米国JFE商事も好調。22年10月に買収を完了した鋼製薄板建材メーカーのCEMCOも収益に寄与した」
――22年3月期は実力を350億円程度と見ていた。
「23年3月期実績は上期406億円(前年同期256億円)、下期245億円(303億円)だった。現在の実力は450億円から500億円と見ている」
――第7次中期経営計画(21―24年度)は折り返し地点を過ぎた。24年度利益目標400億円を2年連続で超過達成した。
「鋼材価格や原材料の価格が上昇するなどファンダメンタルズが好転したことで、100億円程度の底上げ効果があると判断し、7次中計最終年となる24年度は500億円を目指していきたいと考えている」
――今期は480億円の減益予想。
「米国は買収効果などもあり今期も悪くないとみているが、高水準の収益をあげた過去2年からは減益を想定。世界的な自動車生産の戻りなどプラス要素はあるが海外の鋼材市況動向など不安要素もある。国内外のグループ会社トップのヒアリングを実施し、収益計画を積み上げた上での利益予想であるが、ハードルは高いと気を引き締めている」
――第7次中計では4年間1200億円の投融資を計画する。
「2年間でおよそ半分の約600億円の投融資を決定した。国内外事業会社の安全・品質強化投資、ベトナム薄板リローラーの増資一部引き受け、米国の鋼製薄板建材会社の買収、電磁鋼板事業の設備増強、システム更新投資などを実施した。残り2年もM&Aや設備増強に加え、引き続き国内外で設備更新・効率化対応を続け、効果を出来る限り前倒ししていく」
――残る2年間のテーマは。
「中計の定性目標である『サプライチェーンマネジメントを拡充し、成長分野におけるグループの事業基盤構築』のための施策を加速する。実施した投融資の効果最大化、持続的成長のための追加投融資の実行も重要テーマとなる。JFEスチールの東日本製鉄所京浜地区の高炉休止、千葉地区の電炉新設などへの対応も急ぐ必要がある」
――定性目標のひとつ、「電磁鋼板のグローバル加工流通ナンバーワン」の進捗状況を。
「国内に加えて、中国、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナム、シンガポール、インド、メキシコ、カナダ、米国などで展開するネットワークの拡充を進めている。フランスの大手モーターコアメーカー、ブルジョアとは中国、メキシコ、米国で、主に欧州系自動車メーカー対応を推進。中国ではEVモーターコア用の設備増強投資に着手。メキシコのJSMは、モーターコア用の無方向性電磁鋼板(NO)に加えて、トランスコア用の方向性電磁鋼板(GO)の加工・物流機能強化を続けている。カナダのJSCもフル操業を続けており、需要が伸びるGOの加工設備増強を年内に完了させ、EV分野の市場開拓も進めていく」
――JFEスチールが日本、インドで電磁鋼板の供給能力を拡大する。
「JFEスチールとは、ハイエンドグレードで戦略を同期化していく。同時に当社は需要家のニーズに合わせて、ハイエンドからミドルグレードまで幅広い品種・価格の商品を取り扱い、スリットコイルに加えて、プレス、切断、熱処理加工したモーター・トランスコアの供給に対応できる調達・販売態勢をグローバル規模で拡充していく。インドは現有事業の強化を含めてSCMを拡充していく」
――物流改革は。
「2024年問題が目前に迫っており、鉄鋼総括部、原資総括部が中心となって、鋼材、鉄スクラップ物流に関する課題の抽出、対策の検討を急いでいる」
――「自動車向け鋼材のSCM強化」については。
「メキシコのJFEスチールとニューコアの自動車用鋼板合弁事業に隣接するコイルセンター、JSSBの本格立ち上げが最大のテーマ。現地自動車生産の遅れもあって、汎用品を含めた切断・品質管理・デリバリーの一貫体制構築を優先してきたが、本年4月から自動車用鋼板の加工を開始した。インドネシアのJSSIはフル生産、タイのSASCも回復が続いている。中国は日系自動車メーカー向けの回復が遅れている」
――「海外建材事業の取り組み加速」は、米国で一手を打った。
「建築構造用、内装用の鋼製フレームなどを製造販売するCEMCOはカリフォルニア州ピッツバーグ、ロサンゼルス、コロラド州、テキサス州の4カ所に製造拠点を持ち、鋼製フレームでは全米3位のポジションにある。CEMCOはJFEスチールとニューコアの鋼板・鋼管合弁ミル、カリフォルニア・スチール・インダストリーズ(CSI)などからの仕入れを増やし、伸びる米国での収益拡大、仕入れ・販売力の強化などの成果を確認している」
――建材事業はASEANもターゲットに掲げている。
「海外収益に占める米国の比率が高いため、事業基盤の地域分散も課題。アジア、オセアニア、インドまで視野に入れて、建材事業のチャンスを窺っている」
――JFEグループ中核商社として、世界最大の電炉メーカー、ニューコアとの連携強化のチャンスも広がる。
「JSSBの汎用品市場対応、CEMCOの調達先拡大などで取引を拡大しており、さらに視野を広げてビジネスチャンスを探っていく」
――米国では鋼管ビジネスも拡充している。
「鋼管問屋のケリーパイプは、市場環境変動が激しいOCTG分野から撤退し、建設・土木分野に経営資源を傾注し、22年度も高収益を維持した。土木分野は西海岸における中径管の販売を得意としていたが、鋼管杭など大径管を得意とするマンダル・パイプを買収したことで、品揃えを拡充し、新規の仕入れルートも獲得した。バイデン政権がインフラ法案を推進しており、事業機会が大きく広がっていくと期待している」
――「国内鉄鋼需要の徹底捕捉」については。
「グループ会社で熊本に拠点を置く九州テックが大型コラムの全自動加工ラインを新設した。1㍍幅対応の切断機と開先機を導入し、本年1月に本格稼働を開始。切断・開先加工は3ライン体制となり、月間加工能力を1600トンから2400トンに引き上げた。半導体関連工場や博多の再開発などの大型コラムの需要を捕捉していく。国内の総需要は縮小するが、九州、半導体・EVなど伸びる地域・分野はある。自前にこだわらず、商社系・独立系の枠を超えて、新たなシナリオを描いていきたい」
――関西では阪和興業、小野建、信越では藤田金屬と薄板の加工・流通機能強化を図ってきた。
「それぞれ協業が順調に進展している。コイルセンターの加工設備の安全・効率化投資はほぼ一巡したが、一部残る設備の劣化更新、効率化などを続けていく」
――仕入れ販売力の強化も課題に掲げる。
「北米はカナダのJSC、CEMCO、マンダル・パイプの買収を通じて、仕入ソース、販売先ともに大きく広がった。ASEAN、中国、その他地域でも取引先の開拓、M&Aなどを通じてネットワークを広げていく」
――JFEスチール京浜地区の高炉休止への対応は。
「粗鋼生産量は大きく変わらないとしても、鋼材の製品ラインアップが変わり、原材料や資機材の納入ルートは大きく変わってくる。セメントの脱炭素原料として海外で需要が伸びる高炉スラグの調達先を開拓するなど、原材料・資機材は販売先を探す必要がある。京浜地区の再開発も含めてビジネスチャンスと受け止めている」
――千葉地区に新設される電炉はステンレス用。
「日本の鉄スクラップ輸出は年間およそ700-800万トン。高炉メーカー各社が計画している電炉が稼働すると、高級スクラップを中心に需給バランスは大きく変わる。中低級スクラップを選別し使いこなす技術などの開発を急ぎ、ステンレススクラップの集荷ルート開拓にも取り組む」
――昨年4月に立ち上げた環境資源本部で、冷鉄源を扱う金属リサイクル部の取り組みは。
「鉄スクラップの取扱量で当社は2位グループに位置している。国内外ともに機能を磨き、地域、取引先を広げ、規模を拡大していく」
――環境資源本部におけるバイオマス燃料部の取り組みは。
「PKS(パーム椰子殻)、木質ペレットなどバイオマス燃料は、国内外で需要が増加しており、安定調達先を確保する必要に迫られている。一方、ベトナム、インドネシアなど発生地の生産者認証など規制が強まり、フレートが乱高下するなどクリアすべき課題はあるが、50万トン規模を今期は70万トンに増やす計画で、来期以降は100万トンに引き上げていきたい」
――洋上風力発電はこれから。
「JFEスチールの西日本製鉄所福山地区構内でJFEエンジニアリングが建設中のモノパイル工場は来年4月の稼働開始予定。JFEエンジは津製作所でトランジションピースやジャケットも製造している。JFEグループの中核商社として、国内外を問わず風力発電ビジネスには積極的に関わっていく」
――事業開発センターも昨年4月に発足させた。
「環境をキーワードに事業投資、M&Aなど幅広い視点で検討を重ねている。案件は集まってきており、今期中に3-4件の事業化を考えている。一つは蓄電所事業で、グループ会社の空きスペースに蓄電所を設置し、再生可能エネルギーの普及に微力ながら貢献していく。たとえ小粒であっても、地域貢献、社会貢献、環境貢献できる事業を増やしていきたい」
――2030年以降を見据え、グループ会社・社員の機能強化、一体感の醸成に注力している。
「JFE商事は、グループ会社の集合体。国内外97社のグループ会社が、それぞれ自覚、自信を持って事業を拡大してもらいたい。本部格のJFE商事鉄鋼建材、JFE商事鋼管管材には着実な成長を期待。JFE商事エレクトロニクス、川商フーズには、さらなる収益拡大を果たし、本部格を目指して欲しい。また規模は小さいが浜松で薄板を加工している大清興業や青森で鉄工所の機能を磨いている三輪鉄建などはその地域性で存在感を高めている。JFE商事サービスは障がいのある人に働く場を提供することで、その業態が評価されている。グループ会社は、それぞれがこういった特色を持つ企業であってほしい」
――4月1日付で総合職と一般職を「業務職」に統合した。
「単体社員がおよそ1100人、うち管理職は約300人で、新・業務職が約800人。旧総合職が約450人、旧一般職は約350人だった。旧一般職の担ってきた業務が複雑化され、領域も広がっている。一般職だった女性の活躍の場をさらに広げ、管理職昇進への道を作るため『業務職』に統合し、昇格や処遇などを一本化した。転勤を希望しない旧一般職の社員については、地域限定制度を新設し、引き続き地域を限定して働ける環境を整えた。海外のナショナルスタッフの登用も含め、人材のダイバーシティを加速する」(谷藤 真澄)