――世界の潮流が変わり、海外市場における商社機能が改めて注目されている。まず東アジアについて中国の取り組みから。
「現地法人の神鋼商貿(上海)は、上海、北京、広州、成都、武漢、大連、天津の7拠点体制。社員は69人でうち日本人駐在員は11人。鉄鋼の事業会社は、ディファレンシャルギアなど自動車部材を加工する神商大阪精工(南通)に55%を出資、神戸製鋼所の線材二次加工メーカーである神鋼特殊鋼線(平湖)に25%を出資する。非鉄はアルミコイルセンターの蘇州神商金属が、神鋼汽車鈩材(天津)からアルミコイルを調達して、ボンネット・ルーフ向けの切断・加工を行っている。旺盛な需要を受けてレベラーシャーを1基増設し、スリッター・レベラー各3基の体制としたが、現地のEV生産が急拡大しており、新立地も含めて次の能力拡張を検討している。半導体製造装置向けのアルミ厚板を加工する神商精密器材(蘇州)は、買収した半導体・FPD用イオン注入装置メーカーの神商精密器材(揚州)とのサプライチェーンを強化し、事業拡大に伴い8基目となるマシニングセンターを増設したところだが、すでにフル稼働となっている」
――中国は今後も積極投資を続けるのか。
「米中覇権争いなどカントリーリスクはあるが、自動車・半導体関連市場は成長を続け、送電塔など社会インフラ関連需要も伸びている。現地の自動車、装置メーカーへの納入実績が増え、現地素材メーカー等からの仕入れも広がっている。神鋼商貿は鉄鋼、鉄鋼原料、非鉄金属、機械・情報、溶材の5本部すべてが揃っており、本部間の連携も広がっている。神戸製鋼所グループの中核商社としての需要創出、市場開拓の機能を引き続き果たしていく。一方で中央政府のゼロコロナ政策、コンテナ船の滞留などを背景に日系の自動車メーカーなどはサプライチェーンの見直しを急いでいる。需要家の動向を見極めながら、日本と中国を結ぶ新たなビジネスチャンスも探っている」
――韓国ビジネスも強化している。
「ソウルを拠点とする韓国神商は13人体制で駐在員は1人。ステンレス鋼管、チタン製品などの輸出、機械・建機の部品やアルミ製品などの三国間がメーン。事業会社としてはアルミ厚板を切断加工するKTNがある。KTNは現地需要家の進出に伴いベトナム・ハノイに事業を展開。韓国の建機部品大手、大昌鍛造とは一緒にインド・チェンナイに熱処理・最終加工を行う合弁事業を設立した。日本からの輸出に加えて、国際競争力が高い韓国企業とのビジネスチャンスも増やしていく」
――台湾も伝統的な商売が続いている。
「台湾神商は、台北、桃園、新竹に拠点があり、17人体制で、駐在員は1人。半導体製造装置向けのアルミ厚板の日本からの輸入、パソコン用カメラの日本への輸出などを行っている。韓国と同様に世界トップクラスの企業が多いので、台湾企業との海外でのビジネスチャンスも探っている」
――東南アジアはタイが最大拠点。
「現法機能を持つタイ・エスコープはバンコクに本社、ボーウィン、アユタヤ、アマタナコーンに支店を置く。各本部の機能に加えて、溶接部門のTES・E&Mと併せて96人体制で、12人の駐在員を派遣している。鉄鋼はコベルコ・ミルコンスチールの特殊鋼線材を武器にCH鋼線を製造するKCH、磨棒鋼メーカーのMKCLなど神戸製鋼グループ企業と連携し、地産地消が進む自動車関連需要に応えている。TES・E&Mは東南アジアにおける溶接、機械のメンテナンスサービス拠点として、インドネシア、マレーシア、フィリピンなどの市場をカバーしている。非鉄は、神商メタルズ(タイランド)が電機、自動車関連需要に対応している。タイはグローバル人材育成の機能も担っており、ローカルスタッフを登用し、駐在員も多く配置している。マレーシア、シンガポール、フィリピン、インドネシア、ベトナムはそれぞれ現法を置いて、日系製造業向けの素材・部品供給をメーンにビジネスを展開している」
――東南アジアは原燃料の調達先としても重要。
「バイオマス発電燃料のPKSをマレーシア、インドネシアなどで調達し、日本の電力会社に供給している。バイオマス燃料は日本国内の需要拡大が見込めるため、ベトナムでの木質ペレットを含めて、現地パートナー、ヤードなどを確保しながら大きく成長させたいと考えている」
――ベトナムでは新規投資が続いている。
「現法のコベルコ・トレーディング・ベトナムは、ホーチミンに加えてハノイに事務所を開設している。15人体制で、駐在員は3人。現地の伸びる鉄スクラップ需要に対応し、神戸製鋼が北部ハナム省に開設する電子用銅板条の加工拠点とも連携していく。和伸工業と共同運営するビナ・ワシンはアルミ管・棒・形材を生産しており、現地のアルミ建材需要等やベトナム向けのOPC管素材等の需要に応えつつ、日本向けの輸出も行っている。アルミ厚板加工のKTNメタルベトナムは、23年1月の稼働を予定する。ベトナムは成長市場と位置付けて人員を増強しながら事業拡大を図っている」
――マレーシアにおける銅リサイクル事業は。
「日本から雑電線を輸入し、選別・加工して銅ナゲットとして日本、中国などに輸出する事業としてスタートしたが、マレーシアの輸入規制強化によってビジネスとして立ち行かなくなった。改めて日本国内でのビジネスモデル構築に向けて事業化調査を進めている。マレーシアはアルミの厚板加工、KMCTで製造する銅管の輸出などベースカーゴがあり、新たなビジネスチャンスを探っている」
――インドは市場拡大が期待される。
「インドは現法のコベルコ・トレーディング・インディアがグルガオンに拠点を置き、社員8人、駐在員1人の体制で市場開拓に取り組んでいる。鉄鋼は、チェンナイに設立したコベルコ建機向けの厚板加工拠点がコスト競争力の面で苦戦している。建機向けでは韓国の大昌鍛造と合弁でチェンナイに新設したトラック・デザイン・インディアが営業を開始する。ショベルカーの足回り部品の最終加工を担っており、コベルコ建機向けをメーンにスタートするが、インド国内に数多く進出する世界の大手建機メーカーを対象に加工範囲を広げるなど付加価値を高めながら事業拡大を図っていきたいと考えている。インドは銅チューブなど機能材の日本からの輸入ビジネスが動き始めており、一方で合金鉄など鉄鋼原料の輸出ビジネスも立ち上げている」
――欧州は。
「神商欧州をデュッセルドルフに置いて、社員5人、駐在員1人で、アルミ線材、軸受鋼線材、ステンレス鋼管、溶材などの日本からの輸入、アルミ架装材の日本への輸出などを手掛けている。神戸製鋼の大安工場で製造する大型アルミ鍛造部品の欧州自動車メーカー向けの輸出を本年から本格化しており、自動車分野での新たな商流開拓に期待している」
――北米は、米国市場でビジネスチャンスが広がっている。
「神商アメリカンは、デトロイト、サウスカロライナ、ロサンゼルスに拠点を置き、社員39人、駐在員9人の体制。中国、タイは5本部がそれぞれに事業を展開しているが、米国は鉄鋼本部への依存度が高く、市場開拓が大きな課題となっている。非鉄金属は航空機関連のスポンジ・チタンの輸入、チタンスクラップの輸出入を行っている。また、神戸製鋼のアルミ押出材製造拠点、KPEXと連携し、地産地消ビジネスを開拓しつつある。西海岸では、LNGタンクの気化用ポンプなどのビジネス基盤があるため機械の拡販に取り組んでいる。鉄鋼は線材2次加工のGBPを核とした棒線分野に続く、鋼板分野のビジネスチャンスを探るよう指示している」
――グローバルネットワークを支える人材の育成も課題。
「ダイバーシティ推進プロジェクトチームを10月に立ち上げた。チームは7人構成で、タイの駐在員を含め6人が女性。女性の社外取締役にも参加してもらっている。女性、グローバル人材など多種多様な人種・スキル・キャリアを持つ社員が活躍できる環境を整えるのが目的で、グローバル人材については、海外現法ナショナルスタッフの本社勤務、幹部候補生の育成や現法間でのナショナルスタッフの異動や海外発ビジネスの支援、外国籍人材のキャリア採用などを推進する」
――さて22年4-9月期の連結経常利益は64億円だった。
「鉄鋼、非鉄金属が価格上昇の追い風も受けて牽引車となり、半期としての最高益となった」
――一過性要因を除いた実力値は。
「役員・社員がフォローの風をしっかり捉えてくれた結果であるが、上期実績はあくまでも追い風参考値。円安効果が5億円程度あり、在庫販売益、不動産の売却益などを加えると10億円以上の一過性要因があって、実力値としては50億円と見ている」
――通期予想を106億円から120億円に上方修正した。
「期初時点で53億円、8月時点で60億円と予想していた上期の上振れ分を上積みした。自動車分野は需要の戻りが鈍く、半導体装置向けも一時ほどの勢いはなくなっている。鋼材などの価格効果は続くが、世界情勢、為替を含めて慎重に見ている」
――年間配当予想を240円から300円に引き上げた。
「財務基盤強化は途上であるが、中期経営計画で配当性向目標を30%と掲げている。今回、通期純利益予想を70億円から88億円に上方修正し、一株当たり純利益予想を790円から1000円に引き上げたことから、過去最高となる300円に引き上げた」(谷藤 真澄)