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2024.12.4
2022年11月28日
財務・経営戦略を聞く JFEHD副社長 寺畑雅史氏 諸物価高、下期に転嫁推進 エンジ・商社、安定収益で貢献
――上期の鉄鋼事業のセグメント利益は1482億円と8月の前回予想より282億円多く、棚卸資産評価差等除く実力利益も322億円と同212億円上回った。
「上期の粗鋼生産は1264万トンと前回公表の1300万トン弱を下回ったが、鋼材販売価格の改善により、収益としては上回ることができた。原料炭価格は前回時点から少し落ち着いたがそれほど大きな変化はなく、販価改善と市況分野の輸出数量を減らしたことでスプレッドが改善した。販価改善については主原料価格と、金属やエネルギーなどの諸物価を分けてお客様に説明している。円安影響を含めて主原料価格の上昇分は上期に転嫁できた。諸物価についてもお客様からは理解いただいており、反映は進んでいるが、エネルギー価格の急騰などまだ反映しきれていない部分もある。合金鉄価格は、一時期と比較し落ち着いたもののロシア・ウクライナの問題が長期化している関係から、特にロシア依存度が高い品目においては以前より高い水準で推移している。エキストラの見直しも含め下期も販価改善にしっかりと取り組んでいるところだ」
――鉄鋼グループ会社は国内が堅調の一方で海外が落ち込んだ。
「低調な海外鉄鋼市場や原料価格の上昇などでインドのJSWスチールの収益が7―9月期に悪化した。米国の事業会社は昨年より鋼材価格が低下した影響を受けている。東南アジアの自動車用鋼板の製造拠点はフル操業を継続しているものの通貨安の影響を受けている。一方で国内はJFE条鋼やJFEミネラルなどが好業績を上げており、前回からプラスとなった」
――通期の粗鋼生産予想を2500万トン程度と前回2600万トン弱から修正したが、販価改善でマージンが大きく改善し、鉄鋼の通期利益予想を1650億円と前回1500億円から上方修正した。下期の原料価格や需要をどうみているか。
「鉄鉱石価格は一時期の水準から落ち着いたが、原料炭は南半球が雨季になるので供給面から安定してこないことや、一般炭価格が高値圏で推移している関係から依然として高い水準で推移している。需要については、国内の自動車生産は800万台後半に回復するかは不透明だが、800万台は超えるとみている。海外の日系自動車も生産を増やしており、国内についても、自動車メーカーがしっかりと立て直していくと思う。建設は土木が資機材の高騰もあって出件が遅れているが公共土木の予算水準自体は高い。建築は中小案件が鈍いが大型の物流倉庫や再開発案件は依然活況だ。建機や産機も堅調。造船は人手不足が問題になりつつあるが工事量はしっかりと確保されており、底堅い。気になるのは中国経済の動向である。不動産分野の不調に対する大型の景気刺激策はみられず、まだゼロコロナ政策は堅持されている。今後の回復状況を注視する必要がある。鋼材輸出はマーケット次第と考えているが、海外の鋼材市況が軟調な現状では手は出しにくい」
――鉄鋼の利益は前年比では減少する見通しだ。
「前年(3237億円)との比較は為替フロー差1050億円のマイナス、棚卸資産評価差等1120億円のマイナスもあるが、海外グループ会社の落ち込みとエネルギー単価の上昇によるその他1367億円のマイナスも大きく響く。主原料価格の変動については、販価に反映できているが、為替影響を含む諸物価については、ご理解はいただいているものの反映しきれていない部分もある。下期も販価の改善を粘り強く進めている。国内の販価改善が進むが下期は輸出環境が悪く、それらを織り込んでマージンは通期で2000億円のプラスを予想している。グループ会社は前年より680億円のマイナスとなるが、海外の落ち込みが大きく、国内は増益となる見通しだ」
――為替影響は。
「下期は対ドル145円を想定している。売り買いの差が14億ドル、ストックは13億ドル程度あり為替影響は大きくないと考えている。政府の対応もあり、今以上の円安は考えにくいが、為替に大きな変動が生じれば対応していく。主原料や諸物価の上昇によるコスト高となるが、しっかりと販価へ反映していく」
――エンジニアリング事業と商社事業は通期で安定した収益を確保する見通しだ。
「エンジの上期の赤字は資機材価格の高騰が影響したが、お客様との契約の中で資機材高騰分をいただくよう交渉し、期ずれで下期に取り返す計画。また、上期は欧州子会社の個別工事の損益悪化の影響を受けたが、下期に影響することはないとみており、欧州の廃棄物発電や中東・アフリカのОDA案件など海外案件が堅調なことから前回通り通期利益200億円を予想している」
「商社事業は前回から上方修正し、通期600億円と過去最高益を更新する見通しだ。減速するとみていた米国の事業が利益を維持しており、国内は鋼材価格を堅持している。合金鉄など原材料の取引も数量・単価とも上振れしており、海外グループ会社も堅調に推移している」
――カーボンニュートラルへの対策が具体的に進んでいる。西日本製鉄所倉敷地区での大型電炉の導入の検討を開始した。
「倉敷の第2高炉の改修時期に合わせて電炉に切り替える検討を進めている。どのような電炉を導入するかなど、詳細はこれからとなる。高級鋼を電炉で製造する際の技術的課題も整理していく。マスバランス方式によるカーボンニュートラルのグリーンスチールについては来年度に販売するよう準備を進めている。CO2削減という付加価値を認めていただくようプレミアムを検討していく」
――少し早いが23年度の収益をどのように見通しているか。
「鉄鋼事業の利益は22年度下期に実力508億円の予想だが、東日本千葉地区の高炉改修のマイナス影響が下期に100億円ある。実力利益は高炉改修の影響100億円を足して600億円、通期は倍の1200億円がベースとなる。自動車生産を中心に国内外の販売環境は来年度に向け回復すると想定し、粗鋼生産が22年度想定の2500万トン程度から中期計画の2600万トンへと100万トン増えるプラス効果の200億円を合わせて1400億円、それにコスト削減150億円、構造改革効果200億円で合計1750億円となる見通し。さらに高付加価値品へのシフトによる改善などを上乗せしていく。エンジ300億円、商事400億―500億円を加味すると2500億円となり、構造改革完遂により中期計画目標の連結事業利益3200億円が見えてくる」
――23年度は東日本製鉄所京浜地区の上工程を休止するが、土地利用の計画が進捗してきた。
「水素・アンモニアなど脱炭素燃料の受入・供給拠点の整備検討に加え、扇島在地9社による連携組織も発足した。製鉄所の跡地だけでなく、研究所などがある南渡田では川崎市の計画に基づいて研究開発・イノベーション集積地として開発を進め、24年度には事業に着手する。その他の水江地区なども首都圏の一大リサイクル拠点として拡張整備を計画している。土地の売却や賃貸、当社としての事業利用を組み合わせて開発を進めていく」(植木 美知也)
「上期の粗鋼生産は1264万トンと前回公表の1300万トン弱を下回ったが、鋼材販売価格の改善により、収益としては上回ることができた。原料炭価格は前回時点から少し落ち着いたがそれほど大きな変化はなく、販価改善と市況分野の輸出数量を減らしたことでスプレッドが改善した。販価改善については主原料価格と、金属やエネルギーなどの諸物価を分けてお客様に説明している。円安影響を含めて主原料価格の上昇分は上期に転嫁できた。諸物価についてもお客様からは理解いただいており、反映は進んでいるが、エネルギー価格の急騰などまだ反映しきれていない部分もある。合金鉄価格は、一時期と比較し落ち着いたもののロシア・ウクライナの問題が長期化している関係から、特にロシア依存度が高い品目においては以前より高い水準で推移している。エキストラの見直しも含め下期も販価改善にしっかりと取り組んでいるところだ」
――鉄鋼グループ会社は国内が堅調の一方で海外が落ち込んだ。
「低調な海外鉄鋼市場や原料価格の上昇などでインドのJSWスチールの収益が7―9月期に悪化した。米国の事業会社は昨年より鋼材価格が低下した影響を受けている。東南アジアの自動車用鋼板の製造拠点はフル操業を継続しているものの通貨安の影響を受けている。一方で国内はJFE条鋼やJFEミネラルなどが好業績を上げており、前回からプラスとなった」
――通期の粗鋼生産予想を2500万トン程度と前回2600万トン弱から修正したが、販価改善でマージンが大きく改善し、鉄鋼の通期利益予想を1650億円と前回1500億円から上方修正した。下期の原料価格や需要をどうみているか。
「鉄鉱石価格は一時期の水準から落ち着いたが、原料炭は南半球が雨季になるので供給面から安定してこないことや、一般炭価格が高値圏で推移している関係から依然として高い水準で推移している。需要については、国内の自動車生産は800万台後半に回復するかは不透明だが、800万台は超えるとみている。海外の日系自動車も生産を増やしており、国内についても、自動車メーカーがしっかりと立て直していくと思う。建設は土木が資機材の高騰もあって出件が遅れているが公共土木の予算水準自体は高い。建築は中小案件が鈍いが大型の物流倉庫や再開発案件は依然活況だ。建機や産機も堅調。造船は人手不足が問題になりつつあるが工事量はしっかりと確保されており、底堅い。気になるのは中国経済の動向である。不動産分野の不調に対する大型の景気刺激策はみられず、まだゼロコロナ政策は堅持されている。今後の回復状況を注視する必要がある。鋼材輸出はマーケット次第と考えているが、海外の鋼材市況が軟調な現状では手は出しにくい」
――鉄鋼の利益は前年比では減少する見通しだ。
「前年(3237億円)との比較は為替フロー差1050億円のマイナス、棚卸資産評価差等1120億円のマイナスもあるが、海外グループ会社の落ち込みとエネルギー単価の上昇によるその他1367億円のマイナスも大きく響く。主原料価格の変動については、販価に反映できているが、為替影響を含む諸物価については、ご理解はいただいているものの反映しきれていない部分もある。下期も販価の改善を粘り強く進めている。国内の販価改善が進むが下期は輸出環境が悪く、それらを織り込んでマージンは通期で2000億円のプラスを予想している。グループ会社は前年より680億円のマイナスとなるが、海外の落ち込みが大きく、国内は増益となる見通しだ」
――為替影響は。
「下期は対ドル145円を想定している。売り買いの差が14億ドル、ストックは13億ドル程度あり為替影響は大きくないと考えている。政府の対応もあり、今以上の円安は考えにくいが、為替に大きな変動が生じれば対応していく。主原料や諸物価の上昇によるコスト高となるが、しっかりと販価へ反映していく」
――エンジニアリング事業と商社事業は通期で安定した収益を確保する見通しだ。
「エンジの上期の赤字は資機材価格の高騰が影響したが、お客様との契約の中で資機材高騰分をいただくよう交渉し、期ずれで下期に取り返す計画。また、上期は欧州子会社の個別工事の損益悪化の影響を受けたが、下期に影響することはないとみており、欧州の廃棄物発電や中東・アフリカのОDA案件など海外案件が堅調なことから前回通り通期利益200億円を予想している」
「商社事業は前回から上方修正し、通期600億円と過去最高益を更新する見通しだ。減速するとみていた米国の事業が利益を維持しており、国内は鋼材価格を堅持している。合金鉄など原材料の取引も数量・単価とも上振れしており、海外グループ会社も堅調に推移している」
――カーボンニュートラルへの対策が具体的に進んでいる。西日本製鉄所倉敷地区での大型電炉の導入の検討を開始した。
「倉敷の第2高炉の改修時期に合わせて電炉に切り替える検討を進めている。どのような電炉を導入するかなど、詳細はこれからとなる。高級鋼を電炉で製造する際の技術的課題も整理していく。マスバランス方式によるカーボンニュートラルのグリーンスチールについては来年度に販売するよう準備を進めている。CO2削減という付加価値を認めていただくようプレミアムを検討していく」
――少し早いが23年度の収益をどのように見通しているか。
「鉄鋼事業の利益は22年度下期に実力508億円の予想だが、東日本千葉地区の高炉改修のマイナス影響が下期に100億円ある。実力利益は高炉改修の影響100億円を足して600億円、通期は倍の1200億円がベースとなる。自動車生産を中心に国内外の販売環境は来年度に向け回復すると想定し、粗鋼生産が22年度想定の2500万トン程度から中期計画の2600万トンへと100万トン増えるプラス効果の200億円を合わせて1400億円、それにコスト削減150億円、構造改革効果200億円で合計1750億円となる見通し。さらに高付加価値品へのシフトによる改善などを上乗せしていく。エンジ300億円、商事400億―500億円を加味すると2500億円となり、構造改革完遂により中期計画目標の連結事業利益3200億円が見えてくる」
――23年度は東日本製鉄所京浜地区の上工程を休止するが、土地利用の計画が進捗してきた。
「水素・アンモニアなど脱炭素燃料の受入・供給拠点の整備検討に加え、扇島在地9社による連携組織も発足した。製鉄所の跡地だけでなく、研究所などがある南渡田では川崎市の計画に基づいて研究開発・イノベーション集積地として開発を進め、24年度には事業に着手する。その他の水江地区なども首都圏の一大リサイクル拠点として拡張整備を計画している。土地の売却や賃貸、当社としての事業利用を組み合わせて開発を進めていく」(植木 美知也)
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